睡眠の質を改善する効果的な方法はないか。医療職インテリアコーディネーターで上級睡眠健康指導士の田口里奈さんは「自律神経のバランスを調節する要素の1つとして、照明の色は重要だ。
日中と夕方以降にそれぞれ室内の照明に適した色味がある」という――。
※本稿は、田口里奈『科学的根拠に基づく 最高の睡眠空間』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■睡眠時間が平均66分延びる「照明の色」
良質な眠りのためには、暮らしにおける照明との付き合い方を見直すことが大切です。
適切な照明を選ぶことで、規則正しい生活リズムを生み出すことができます。
朝に過ごす部屋の照明の色は、青白い光の昼光色や昼白色が最適です。
朝に青白い光を浴びておくことで、夜に多少光を浴びてしまってもメラトニン分泌が抑制されにくく、質のいい睡眠が得られやすいと考えられます。夜のいい眠りのためには、朝の青白い色が必要なのです。
そして、日中は青白い色の光(昼光色、昼白色)、夕方から夜はオレンジ色の光(電球色、環境や状況によっては温白色も)の照明が最適です。
今回は、この「日中の照明」について解説しましょう。
アメリカの病院で行われた研究では、室内の照明を朝から夕方までは白色で明るい光、夜はオレンジ色で暗めの光の下で患者を過ごさせたところ、生活リズムが整い、照明を変化させない場合と比べて睡眠時間が平均66分延び、朝の眠気が抑えられることがわかっています(※1)。
また名古屋市立大学が行った研究では、昼休みに青白い光を浴びた場合は、心拍数が上昇し、交感神経が活性化され、副交感神経の活動は抑えられる傾向に向かうことが報告されています。一方、オレンジ色の光を浴びた場合は心拍数には変化がなく、青白い光と比べて副交感神経の活動が優位になることもわかっています(※2)。

青白い光では心身が活動的に、オレンジ色の光では心身がリラックスモードに自然と切り替えやすくなるといえます。

※1 Dunn AS, Fastman BR, Weinberg A, Condrat L, Fraser A, Khan R, Zambrano Loor MP, Rajda G, Perez OL, Adawi A, Kam K, Parekh A, Varga AW, Vincent RL. The impact of dynamic lighting on sleep timing and duration for hospitalized patients. J Sleep Res. 2025;34(6):e70041.

※2 Yuda E, Ogasawara H, Yoshida Y, Hayano J. Exposure to blue light during lunch break: effects on autonomic arousal and behavioral alertness. J Physiol Anthropol. 2017;36:17.
■照明は自律神経を調節する
私たちが1日の生活リズムを整え、快適に過ごすためには、自律神経のバランスを保つことが大切です。
自律神経は、「交感神経(活動モード)」と「副交感神経(休息モード)」の2つからなります。交感神経は主に日中優位な状態、副交感神経は夕方から就寝前・睡眠中に優位な状態であることが、規則正しい生活リズムといい眠りのために理想的です。
この自律神経を調節する要素の1つが照明といえるのです。
・青白い光:交感神経優位 →活動的、集中、覚醒

・オレンジ色の光:副交感神経優位 →リラックス

太陽の光を思い浮かべてください。昼間は白色に近いですが、日が沈む頃の「夕日」はオレンジ色をしています。日中の光を浴びることで爽快な気持ちになり、夕日を見ると安らぎを感じることはありませんか?
太陽の色が1日の時間帯によって変化する(正確には色が変化して見える)ように、室内の照明も時間帯に合わせて色味を変化させることで、体内時計が整い、質のいい睡眠が期待できます。
オフィスを対象に行われた研究では、
・青みの強い光(17000K)の照明

・ややオレンジ色寄りの白色の光(4000K)の照明
における人々のパフォーマンスを比較したところ、青みの強い光のほうがパフォーマンスが向上することがわかりました(※3)。
光によって日中の覚醒度が高まることで、仕事のパフォーマンスにもいい影響が得られるようです。
■夕方以降に青白い色の光で睡眠の質が低下
しかし、仕事のパフォーマンスを上げ続けたいからといって、夕方以降も青白い色の光で過ごすことは控える必要があります。
夕方に
・青白い光(6500K)を浴びた場合

・オレンジ色の光(2500K、3000K)を浴びた場合
比較した研究では、青白い光を浴びることで睡眠の質の低下がみられることがわかっています(※4)。


また、夜に青白い光を使っている人は、オレンジ色の光を使っている人に比べ、就寝時刻が遅くなりやすいことが報告された研究もあります(※5)。
夜まで仕事が長引き、昼間と同じ青白い照明の下で過ごすと、睡眠の質が下がり、翌日の疲労感やパフォーマンス低下にもつながりかねません。全体の効率を考えると、いくら忙しい日でも仕事はほどほどの時間で切り上げ、毎日の睡眠時間をしっかり確保しておくことが大切です。
一方で、夜にオレンジ色の光を浴びた場合は、青白い光ほどの睡眠への悪影響はみられないことが報告されています(※6)。夕方以降は青白い光を避け、オレンジ色の照明の環境で過ごすことで、いい睡眠が得られやすいといえるでしょう。
どうしても遅い時刻まで仕事をしなければならないときは、集中する作業が必要なワークスペースであっても、青白い色の光からオレンジ色の光へ切り替えることをおすすめします。

※3 Viola AU, James LM, Schlangen LJM, Dijk DJ. Blue-enriched white light in the workplace improves self-reported alertness, performance and sleep quality. Scand J Work Environ Health. 2008;34(4):297–306.

※4 Chellappa SL, Steiner R, Oelhafen P, Lang D, Götz T, Krebs J, Cajochen C. Acute exposure to evening blue-enriched light impacts on human sleep. J Sleep Res. 2013;22(5):573–580.

※5 Higuchi S, Lin Y, Qiu J, Zhang Y, Ohashi M, Lee SI, Kitamura S, Yasukouchi A. Is the use of high correlated color temperature light at night related to delay of sleep timing in university students? A cross-country study in Japan and China. J Physiol Anthropol.2021;40(1):7.

※6 Nie J, Zou Q, Chen L, Chen Z, Hu Q, Jiao F, Pan Z, Deng C, Zhang H, Dong B, Kang X, Chen W, Wang Q, Tong Y, Chen X, Song L, Wang S, Zhang G, Shen B. The lower correlated color temperature with higher illuminance nocturnal light environment improves cognitive performance and sleep quality. Build Environ. 2024 Mar;251:111221.
■過ごす場所ごとに最適な照明を選ぶ
あなたの1日のライフスタイルに応じて、過ごす場所ごとに照明の色を決めていきましょう。たとえば、同じ「リビング」であっても、その家で暮らしている人のライフスタイルによって最適な照明の色は異なります。
在宅ワーカーやおうち時間が長い方など、リビングで日中過ごす頻度が高いようなら「青白い色の光」の照明を、日中はオフィス勤務などで自宅にいる時間が短く、帰宅後の夕食や就寝前のテレビなどリラックスして過ごす時間がメインであれば「オレンジ色の光」の照明を選びましょう。
また「ワークスペース」においても、在宅ワークの頻度が高く、日中に過ごす時間が長いようなら「青白い色の光」の照明を、日中はオフィスやコワーキングスペースで過ごし、帰宅後の時間帯にメインで使用するのであれば「オレンジ色の光」の照明を選びましょう。
「ワークスペースがオレンジ色の光だと、パフォーマンスが落ちる」と思うかもしれません。しかし、夜の時間帯に青白い色の照明に照らされると、就寝時刻になっても眠気が起きず、睡眠の質が低下してしまいやすくなります。

いい眠りで1日の疲れを解消し、明日も最大限のパフォーマンスで過ごし続けるには、質のいい睡眠をとることが最優先です。
【リビング】

おうち時間が長く、日中も過ごす人 →昼光色、昼白色

主に夕方~夜に過ごす人 →電球色(電球色が難しい場合は温白色)
【ワークスペース】

在宅ワークで日中使用する人 →昼光色、昼白色

帰宅後や夜だけ使用する人 →電球色(電球色が難しい場合は温白色)

■夜勤の多い仕事の場合は
一方で、夜間勤務の仕事をされている方もいらっしゃるでしょう。
アメリカ航空宇宙局(NASA)で行われた研究では、夜間勤務の飛行管制官に青白い光を1回20分、1日3回浴びせるとともに、合間に軽い運動を取り入れてもらったところ、勤務中の覚醒度が高まり、集中力や幸福感・満足感が向上したことがわかりました(※7)。
このように照明を効果的に活用することで、夜間勤務やシフト制勤務といった不規則な働き方でも、快適さやパフォーマンスの維持に役立てることが可能といえます。
業態の都合で夜間に仕事をする人は、夜だからといって、オレンジ色の照明で働き続ける必要はありません。覚醒して過ごす時間帯は白色か青白い色の照明で過ごしましょう。そして、朝であっても就寝前であればオレンジ色の照明で過ごすことで、いい眠りが得られやすくなるでしょう。
ただし、週に1、2回ほど夜間勤務がある方の場合は、完全な夜間勤務と異なり少し注意が必要です。
週に1、2回のみであれば、完全に夜勤の生活リズムに合わせる必要はなく、むしろ多くの場合、夜勤が明けたら日勤リズムに戻す必要があるでしょう。
そのため、「夜勤中は青白い光、夜勤明けはオレンジ色の光」という極端な切り替えで過ごしてしまうと、体内時計は夜型へ寄りやすく、日勤リズムに戻りにくくなる可能性があります。
この場合のおすすめは、極端に青白い色やオレンジ色へ振り切らない照明です。夜間勤務中は少し白めの光(昼白色ほど)、夜勤明けの就寝前は少しオレンジ色の光(温白色ほど)がおすすめです。

このように、日中は青白い光、夜はオレンジ色の光を意識するだけで、睡眠の質は大きく変わります。ライフスタイルに合わせた照明選びで、最高の睡眠空間をつくりましょう。

※7 Barger LK, Sullivan JP, Lockley SW, Czeisler CA. Exposure to short wavelength-enriched white light and exercise improves alertness and performance in operational NASA flight controllers working overnight shifts. J Occup Environ Med. 2021;63(2):111–118.

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田口 里奈(たぐち・りな)

医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士

2012年薬学部卒業後、薬剤師として薬局に勤務。10店舗以上での経験を通じ、幅広い年代の患者と向き合う中で、多くの人が睡眠に悩みを抱えている現状を知る。2016年、町田ひろ子アカデミー インテリアコーディネーターコースに入学。インテリアコーディネーター資格を取得し、卒業後は医療職と並行してインテリアコーディネーターとしてのキャリアをスタートさせる。医療とインテリアの両分野で仕事を続ける中で、睡眠が「空間」にも大きく影響されることに着目。2021年、上級睡眠健康指導士資格を取得。現在は、エビデンスに基づく睡眠・健康知識をインテリアに落とし込んだコーディネートを中心500件以上提案。ウェブメディアを中心に、記事の執筆も多数行っている。

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(医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士 田口 里奈)

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