2月27日、元米空軍少将が、スマートフォンや眼鏡を自宅に残したまま姿を消した。失踪は、トランプ大統領がUFO記録の公開を指示した8日後だった。
元少将は、議会がその記録の在りかを追う調査で、話を聴こうとしていた人物でもあった。ワシントン・ポスト紙によると、核・航空宇宙研究との関係を取り沙汰され、失踪・死亡した人物は少なくとも12人に上る。この問題をめぐってFBIが調査に乗り出し、海外メディアも注目している――。
■トランプの公開指示から8日後の失踪
今年2月27日の午前10時、ニューメキシコ州アルバカーキ。
元米空軍少将のウィリアム・ニール・マッカスランド氏(68)は、自宅で修理業者に応対していた。オハイオ州ライト・パターソン空軍基地の空軍研究所を率いた重要人物だ。
米テレビニュース局のABCニュースによれば、妻が家を出たのは朝の11時10分、そして戻ったのが正午を回った12時4分。戻ったとき、夫の姿はすでになかったという。わずか1時間足らずの間に自宅から姿を消したことになる。
部屋に残されていたのは、携帯電話と、度の入った眼鏡、そしてアップルウォッチ。もし意図して遠出するなら、必ず持っていくであろう所持品ばかりだ。
空軍研究所のあるライト・パターソン基地には、1947年にニューメキシコ州で未確認飛行物体が墜落したとされるロズウェル事件の残骸が眠っているとされる。
米空軍は否定するが、うわさは絶えない。
その研究所で司令官を務めていたマッカスランド氏は、深い専門知識ゆえに、一部メディアから「UFO将軍」の愛称でも呼ばれている。彼の失踪は、アメリカのドナルド・トランプ大統領がUFOに関する記録の公開を指示した2月19日から8日後というタイミングだ。
この時期の近さから、失踪はUFOをめぐる機密と何らかの関連があるとの見方が持ち上がった。FBIも捜索に加わり、その後、一連の失踪・死亡に関連があるかを調べ始めた。
■大捜索をしても手がかりなし
失踪後に大規模な捜索が行われたが、マッカスランド氏の足取りは掴めていない。
バーナリロ郡保安官事務所のカイル・ウッズ警部補は、夜間の捜索について記者会見で、「山全体が、ろうそくのように光っていた」と振り返った。
CNNによると、捜索の舞台は自宅のすぐそば、崖と峡谷が入り組む山地だ。その上空を、赤外線カメラを積んだヘリが夜間に飛行した。
だが、春先のこの時期にしては気温が高い日が続いていた。山肌のあちこちに露出した岩場は、日中の熱を蓄えており、夜になっても微弱な熱を放ち続けていた。赤外線カメラの画面では随所が発光しており、人ひとり分の熱源を捉えることは困難だった。

後日、捜索犬とドローンが投入された。地上の捜索隊は峡谷のほぼ全域をくまなく歩き、700軒を超える住宅を訪ね、防犯カメラの映像を回収した。それでも決定的な手がかりは出てこない。
どこへ向かったのか、そしてなぜ家を出たのか。第三者が関与しているのかも含めて、数カ月が経った今も当局は結論を出せずにいる。
■「UFOの調査」を目前に控えた失踪
「携帯も財布も鍵も持たずに玄関を出る人間が、どれだけいるだろうか」
ミズーリ州選出で共和党のエリック・バーリソン下院議員は、米ケーブルニュース局のFOXニュースでそう発言し、マッカスランド氏の失踪には不審な点があると指摘した。「私なら、芝刈りに庭に出る時さえ携帯は持っていく」
事件説を掻き立てるもう一つの要因が、議会との関わりだ。バーリソン氏の事務所は、ある議会調査のためにマッカスランド氏への接触を図っていた。その矢先の失踪だった。「彼は我々が話を聞く予定のリストに載っていた。それなのに失踪した。だから興味を引かれた」と同氏は語る。

その議会調査とは、UFO(UAP=未確認異常現象)をめぐる記録の在りかを、政府外の保管場所も含めて追う調査だ。米政治専門紙のヒルによると、バーリソン氏は「本気で議会から何かを隠したいなら、政府のファイルキャビネットにはしまわない。民間の契約企業に渡すのだ」と述べている。
調査の矛先は、ランド研究所、MITRE(公共機関に研究開発支援を行う非営利団体)、エアロスペース・コーポレーション、MITリンカーン研究所、そしてノースロップ・グラマンのような民間の研究機関や契約企業へ向けられている。
実際にMITリンカーン研究所へは、1952年の機密ブリーフィング映像「空飛ぶ円盤の話」の提出を求める書簡を送り、30日以内に応じるとの回答を得たという。
■2キロ先で見つかった空軍のスウェット
背景にあるのは、内部告発者デービッド・グルーシュ氏の「民間企業に委ねることで議会の監督を逃れている」という主張だ。ただし国防総省は、UFOの回収プログラムや、構造を解き明かすリバースエンジニアリングのプログラムがあること自体を否定しており、主張は真っ向から食い違う。
マッカスランド氏は、記録の在りかをたどるこの調査を進める上で、格好の参考人だった。
行方不明から8日後になって、自宅の東約2キロの地点で、米空軍のロゴが入った灰色のスウェットシャツが見つかった。だが、血痕などの手がかりはなく、家族ですら本人の物とは断定できていない。
一方、部屋に残された携帯電話や眼鏡とは対照的に、財布、38口径のリボルバー(回転式拳銃)、そして赤いリュックが部屋から消えていたことが判明。いずれの所在も、これまでに分かっていない。

失踪前、マッカスランド氏は「頭に霧がかかったような」不調を訴えていたと、ABCニュースは伝える。前夜に処方された睡眠薬の影響だったとの証言も、当局に寄せられている。
妻のスーザン・ウィルカーソン氏は、「ニールにリスクはあるが、認知症によるものではない」と否定している。
ウッズ警部補も「マッカスランド氏が状況の認識力を失っていたり混乱していたりしたことを示す兆候はなく、我々もそのような見解は示していない」「おそらく彼は、それでも誰よりも頭の切れる人物だっただろう」と語り、判断力が損なわれていたとの見方を否定している。
■核・航空宇宙研究の周辺で相次ぐ失踪
こうした謎めいた状況から臆測が広がり、マッカスランド氏の失踪は、過去の死亡・失踪事件とも関連があるとする見方が浮上した。
実際、不可解な失踪はマッカスランド氏以前にも相次いでいる。CNNは今年4月、マッカスランド氏を含め、アメリカの機密性の高い核・航空宇宙研究につながりのある人物が10人以上、近年になって死亡したり行方が分からなくなったりしていると報じた。ワシントン・ポストは同月時点で、不明・死亡者は少なくとも12人に上ると報じている。
一部の失踪例には、共通点がある。アメリカの核兵器開発を担うロスアラモス国立研究所のメリッサ・カシアス氏は、自宅に私物を残したまま行方不明になった。不可解なことに、部屋に残された携帯電話は初期化されていた。同研究所で建設作業の監督を務めていた退職者のアンソニー・チャベス氏も、何ら遠出の準備をした形跡がないまま姿を消している。

似たような失踪事件は、ほかの職場でも起きている。ポリティファクトによると、製薬大手ノバルティスで化学生物学を担当していたジェイソン・トーマス氏も、洗面台に携帯電話と財布を置いたまま行方が分からなくなった。
FBIは今年4月、同局が主体となり、一連の死亡・失踪事例に関連性があるか調査を進めていると明らかにした。エネルギー省や国防総省、州・地元の法執行機関と協力して究明を進めているという。
■山頂で姿をくらませたNASAの研究者
NASAジェット推進研究所でロケット推進を専門とし、材料処理部門のディレクターを務めていたモニカ・レザ氏(60)。彼女は、あとは下るだけという山道の途中で消えた。
2025年6月22日、カリフォルニア州。ヨガ仲間の男女2人と登った、エンジェルス国有林のウォーターマン山でのことだ。登りにおよそ2時間、下りに1時間と所要時間こそ短いが、道程はそれなりに険しい。2人のうち女性の方が、途中で引き返している。その後の下山のさなかに、レザ氏はいなくなった。
山頂の標識を手にした一枚の写真が撮影されているが、それが彼女の姿をとらえた最後の一枚になった。
同行の男性は、急な坂を下っている最中に彼女が消えたと説明している。走るように下っていたという話も伝わるが、遺族は米LA地域誌のロサンゼルス・マガジンに「とても冷静な人で、危険を冒すタイプではない」と否定する。
残された手がかりは少ない。回収された遺留品はニット帽ひとつだけ。捜索犬がにおいをたどることができたのはそのニット帽までだったと、ロサンゼルス・マガジンは伝えている。ニット帽が発見されたのは、同行者の説明で彼女が消えたとされる地点だ。
しかも落ちていたのは、登山口でも何でもない、より危険な南側の方角だった。たどり着くには道を外れ、藪と原野を抜けるほかない。地形を知る彼女が、わざわざそちらへ向かうとは考えにくいと遺族は言う。
動物に襲われた形跡は発見されなかった。捜索を経てなお、衣類の切れ端も、リュックも、何も出てこない。
■「道に迷ってさまよったとは思えない」
携帯電話も手がかりにはならなかった。旧型のiPhone 8に電波が届くのは山頂か麓だけとみられ、下山を始めた後の通信記録はない。
もし麓の幹線道路まで下りていれば、基地局につながったはずだ。ところが、その記録は残されていない。携帯電話は山から一度も出ていないのではないか――ロサンゼルス・マガジンはそう指摘する。
彼女が山にいたと証言できるのは、同行者2人だけだ。山頂で撮られた写真を提供したのも、同行の男性だった。
「これは不可解な事件だ」と、失踪や犯行の現場から行動範囲を割り出す地理的プロファイリングの専門家であるダグ・マクレガー氏は、ロサンゼルス・マガジンに評している。
「彼女は体力があり、経験も豊富で、聡明だった。道に迷ってさまよったとは思えない」。ただしマクレガー氏は、「科学技術やUFOのレベルで大きな陰謀があるとは思わない」とも述べている。遺族も、彼女が機密任務に関わっていたとの見方は否定している。
レザ氏がこの世界に入ったのは1980年代末、ロケットダインでのことだ。1990年代には、高温高圧のロケットエンジンのなかでも燃えず、壊れないニッケル基合金を共同で開発した。その名は2010年の特許出願書類にも、共同発明者として刻まれている。
■事情聴取の2週間前に亡くなった情報将校
さらに、別のケースがある。元米空軍情報将校のマシュー・サリバン氏は2024年、UFOに関する内部告発をめぐる事情聴取を目前に控えて亡くなった。
CNNによると、バーリソン氏がFBIに捜査を求めている。事情聴取を予定していた矢先の死であることから、同氏はFBI長官宛ての書簡で「彼の死を取り巻く突然かつ不審な状況」であると言及し、作為が働いた可能性に懸念を示した。バーリソン氏が接触を図っていたマッカスランド氏の失踪と、構図が重なる。
ただし、ニューヨーク・ポストによると、バージニア州の監察医事務所の記録では、死因はアルコールと複数の処方薬が重なったことによる偶発的な中毒死とされている。
事態は議会を動かした。ロサンゼルス・マガジンによると、今年3月25日、議事堂内の機密取扱施設(SCIF)において、非公開のUAPブリーフィングが開かれた。
具体的に何が話されたかは機密のままだが、UFO情報の開示を訴えてきたティム・バーチェット下院議員は、会合の場でマッカスランド氏の失踪が取り上げられたとほのめかしている。
加えて、UFO研究者のスティーブン・グリア氏は、連邦政府内で極秘の捜査が進んでいると主張する。機密を知りすぎて連れ去られた者もいれば、尋問を受けたり犯罪行為で訴追されたりしかねない「アセット(情報源)」であったがゆえに、自ら姿を消した者もいるとの主張だ。
「ジェームズ・ボンドの映画のようだが、冗談ではない」。「名乗り出ようとしてきた英雄的で愛国的な人々がいるのに、米政府は十分な保護を与えず、彼らを見捨ててきた」とグリア氏は述べ、内部告発者保護の強化を求めている。
■「大まかに当てはまる」だけの事例
一連の失踪・死亡例には、何らかの関連があるのか。UFOや機密情報との結びつきがささやかれる中、陰謀論には慎重になった方がよいとする冷静な見方もある。
ワシントンポストは、2月のマッカスランド氏の失踪を境に疑念が一気に広がり、その後、2022年6月の古い事案までさかのぼって類似のケースとして扱われ始めたと指摘する。
「機密研究に関わった人物の不審な死や失踪」という括りで注目を浴びたことで、大まかに当てはまる過去の出来事はいくらでも取り込まれていく。現に、一件ずつ確かめていくと、必ずしも全ての事例に強いつながりがあるわけではない。
リストに挙げられているヌノ・ロウレイロ氏は、マサチューセッツ工科大学で核科学工学と物理学を教え、プラズマ科学・核融合センター所長を務めていた。彼を撃ったのは、ポルトガル時代の同級生だった。この男は2日前、ブラウン大学の教室でも銃を乱射している。
AP通信は、男はロウレイロ氏が息を引き取った日に自ら命を絶ち、2日後に遺体で見つかったと報じている。ロウレイロ氏の隣人はボストン・グローブに、「誰かが彼を殺したいなんて想像もできない」と語った。FBIとマサチューセッツ州連邦検事局は、一連の銃撃が「個人的な遺恨と精神状態」に起因するものだったと結論づけている。
同じくリストに名を連ねる天体物理学者カール・グリルメア氏も、今年2月、自宅ポーチで射殺された。容疑者はすでに逮捕されている。ロサンゼルス郡保安局は両者に面識はなかったとみており、容疑者は殺人などの罪で起訴されたが、5月の罪状認否では無罪を主張している
■捜索済みの区域で見つかった遺体
グリルメア氏の妻ルイーズさんはBBCの取材に、陰謀論を「まったくのナンセンス」と一蹴した。以前ライフルを持って敷地に入ってきた男が、近隣の通報を夫のせいだと逆恨みしたのではないか、というのが彼女の見方だ。そうであれば、専門分野を理由に狙われたとは考えにくい。
失踪の側にも、別の説明がつく例がある。カシアス氏の件では、リュックを背負って幹線道路を歩く姿を防犯カメラがとらえていたと、彼女の姪が米CBSニュースの取材に語っている。彼女は研究者ではなく事務員であったとの報道もある。仮にそうであれば、機密情報の口封じに狙われたとの見立ても崩れてくる。
今年5月、ニューメキシコ州カーソン国有林のマクガフィー・リッジ一帯で、ハイカーが遺体を見つけた。
米CBSニュースによると、昨年から行方不明だったカシアス氏と確認された。そばには、拳銃が落ちていた。
彼女は姿を消す前に、Qクリアランスを失っていた。核関連情報を扱う職員に求められるエネルギー省の最高機密資格だ。米ケーブルニュース局のニュースネーションによると、同僚が州警察に語ったところでは、資格を失った理由は夫妻が滞納していた税金だったという。
資格の変更に伴い、彼女は別の研究棟へ異動になっている。機密情報の漏洩を防ぐ口封じだったとしても、彼女はすでに機密情報にアクセスできない状態だった。
とはいえ、不審な点は残る。遺族は声明で、遺体は一度捜索が済んだはずの区域で見つかったと明らかにした。監察医は死因を頭部の銃創としたが、自殺・他殺などの区分は不詳のままで、そばに落ちていた拳銃が何を意味するのかについても、公式な判断は示されていない。
マッカスランド氏とレザ氏の行方は、今もなお分かっていない。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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