カンボジアを拠点とする特殊詐欺に巻き込まれ、行方不明になる日本人が増えている。警察庁は現地警察との協力体制を強化しているが、捜索は困難を極め、日本に残された家族たちは絶望の淵にいる。

ジャーナリストの泰梨沙子氏が、行方不明者の家族の声や現地で拉致被害に遭いながらも間一髪で逃げ延びた人の声に迫った。(以下は泰氏による寄稿)

「韓国に行ったはずの息子がカンボジアで行方不明に…」特殊詐欺...の画像はこちら >>

■韓国に行くはずだった息子が帰ってこない

「息子にとっては初めての海外旅行でした。まさかこんなことになるとは……」

そう話すのは、昨年12月にカンボジアで行方不明になった、福岡在住の大学生Aさんの母親だ。Aさんからは当初、カンボジアではなく韓国に行くと聞いていた。しかし、スマートフォンで位置情報を確認してみると、Aさんの居場所はなんと「カンボジア」になっていた。帰国予定日になってもAさんは帰ってこず、連絡は途絶えてしまった。

「位置情報から、息子はカンボジア国内を転々としていたことが分かりました。その後はGPSが切断され、現在どこにいるのかは分からないままです。なんとか無事に帰ってきてほしい」

Aさんはアルバイト先の友人に誘われ、2泊3日の日程で旅行するはずだったという。その後の調べで、この友人はSNSで知り合った人物に「旅費は会社が出す」「現地には迎えや通訳がいる」などと誘われていたことが分かっている。

母親によれば、Aさんは軽装で出かけ、帰国後すぐに働けるようにバイトのシフトを入れ、年末年始の計画も立てていた。まさか長期間にわたり帰国できなくなるとは予想もしていなかったのだろう。

■海外で行方不明、居場所特定が困難

Aさんは一体どこへ行ってしまったのか――。筆者が母親から情報提供を受けた位置情報を調査すると、Aさんが訪れた場所の一つは、さまざまな詐欺会社が集まる大規模拠点の近くだったことが分かった。


グーグルマップのレビュー欄には、そのうちの1社のURLが、中国語や英語の求人広告とともに貼り付けてあり、このような好条件が並んでいた。

「私たちはあらゆる国籍の人材を求めています」
「家賃・食費無料」
「簡単なパソコン知識で月40万円以上」

現地報道によると、この拠点一帯は今年1月に大規模な摘発があったとみられ、建物から大勢の人が避難していたことが確認されている。しかし、詐欺組織は臨機応変に拠点を変え、時には国をまたいで摘発の手から逃れるため、居場所を特定するのは非常に困難な側面がある。

Aさんの母親は、歯がゆい胸の内を語る。

「パスポート番号は分かっているから、出入国の際に保護してもらえればと思うのですが……移動の自由といった人権保護の観点から、現行の法律ではそうした対応は難しいようです」

息子の手がかりを少しでも見つけようと、Aさんの母親は今年3月に「カンボジア行方不明者家族会」というXアカウントを開設した。すると、家族が海外で行方不明になっている人や、実際に詐欺拠点から逃げてきた人など5件以上の相談が寄せられたという。

しかし、海外での行方不明者の捜索についてはまだ制度面も整備されておらず、家族は手探りで情報収集を進めていくしかないという。

「警察と外務省にそれぞれ連絡を取っていますが、両者は連携していないため、家族が積極的に情報伝達の役目をしなければなりません。また、日本国内だけではなく、海外の機関との連携強化がもっと必要だと感じています」

■「恋愛感情」利用で詐欺の人材確保か

また、最近は詐欺の“かけ子”を集めるため、「恋愛感情」を利用した人材確保も目立ってきている。30代のBさんは昨年、出会い系アプリで中華系カンボジア人女性とマッチした。彼女に会うために今年5月にカンボジアを訪れた時、あやうく拉致されそうになったという。

「彼女から『夫に浮気されて、仕返しをしたい。
カンボジアまでの旅費もホテル代も出すから、その手助けをしてほしい』と頼まれたんです。数カ月にわたりやり取りしていたし、電話で通話もしていたから、すっかり信用してしまいました」

期待で胸を膨らませて空港に降り立つと、合流するはずだった彼女は現れず、代わりにチャットで、迎えに来た車に乗るよう指示された。

「前もって予約してもらったホテルはプノンペンにあったのに、迎えの車に乗ってから『シアヌークビルに行って二人でゆっくりしたい』というメッセージが来たんです。シアヌークビルに詐欺拠点が集まっていることは知っていたし、『こりゃだめだ』と思って。速度が落ちたころを見計らって、走行中の車からなんとか逃げました」

「韓国に行ったはずの息子がカンボジアで行方不明に…」特殊詐欺に巻き込まれ“消える日本人”と残された家族の絶望
Bさんがやりとりしていた女性。「浮気していた夫に報復する手助けをしてほしい」と頼まれた(写真/泰梨沙子氏)
「韓国に行ったはずの息子がカンボジアで行方不明に…」特殊詐欺に巻き込まれ“消える日本人”と残された家族の絶望
女性からは「詐欺グループはシアヌークビルにいるからプノンペンは安全だ」などと聞いていたが、Bさんはカンボジア到着後にシアヌークビルに行くことを告げられる(写真/泰梨沙子氏)
「韓国に行ったはずの息子がカンボジアで行方不明に…」特殊詐欺に巻き込まれ“消える日本人”と残された家族の絶望
Bさんを迎えにきていた車(写真/泰梨沙子氏)
Bさんはその足で日本大使館に相談へ駆け込み、夜は馴染みのあった施設に宿泊。翌日にはカンボジアを出国した。その間、追手がやって来ないか気が気ではなかったという。

今回、Bさんはことなきを得て逃げ出すことができたが、同様のケースで、海外で行方不明になっている日本人もいる。前述のAさんの母親は、「外国に住んでいる女性と仲良くなり、『旅費を出すから会いに来てほしい』と持ち掛けられ海外へ渡航した息子が、行方不明になってしまったという被害相談がきている」と話す。

「旅費無料」や「高収入」といった甘い誘いの先に、帰れない現実が待っていることもある。騙されて詐欺を強要された場合は、人身売買の被害者となるだけではなく、加害者にもなってしまう。一人でも多くの被害を防ぐため、さらなる注意喚起と対策が求められている。


取材・文・写真提供/泰梨沙子

【泰 梨沙子(はた・りさこ)】
共同通信グループ系メディアで記者を務める。’21年に独立。フリージャーナリストとしてタイ、ミャンマー、カンボジア、ラオスの人道問題について執筆
編集部おすすめ