日本マクドナルドは、モバイルオーダーやデリバリーなど店舗のデジタル化が進む中、創業当時から「ピープルビジネス」の考え方を重視し、人材への投資を続けている。全国約3000店舗で働くアルバイトのクルーは約22万人。
同社は9月2日、本社内の企業内教育機関「ハンバーガー大学」で、7年ぶりとなるメディア向け体験会を開いた。斎藤由希子取締役チーフ・ピープル・オフィサーが、人材戦略やデジタル化と人の役割について説明。中原薫ハンバーガー大学学長が、人材育成の考え方や研修体系を紹介した。
マクドナルドでは2020年代に入り、ブランド刷新やメニュー強化に加え、店舗・デジタルへの投資を加速してきた。デリバリーやモバイルオーダーなど注文チャネルが増え、店頭に客が並んでいなくても注文が一気に入る「見えない注文」が増加。店舗のオペレーションは複雑になっている。
これに対し、新型キッチンの導入や店舗レイアウトの変更などハード面を刷新する一方、人材教育も強化している。斎藤氏は「テクノロジーだけでは、ビジネス、そして働きやすさは改善しない」と説明。「テクノロジーとピープル、この両方を強化することで、お客様の体験価値を上げていく」とした。
セルフオーダー端末の導入も、単なる省人化とは位置付けていない。オペレーションの負荷を減らし、従業員が顧客とのコミュニケーションに時間を使えるようにする。
店舗では、顧客への声掛けや席への案内などを担う「おもてなしリーダー」も配置する。タッチパネル式注文端末で困っている客を手助けしたり、ベビーカーで来店した客を席へ案内したりする。デジタル化で従来のレジ接客が減る中、新たな形で顧客との接点をつくる役割を担う。
こうした人材育成の中核にあるのが、ハンバーガー大学だ。日本では1971年6月に設立した。日本1号店の銀座店が同年7月に開店する1カ月前だった。
中原学長は「商品を1個売るよりも先に、人を教育する大学をまず作った。商品を売る前にまず人を育てる」と説明する。
現在、ハンバーガー大学が提供する研修プログラムには年間約1万4500人が参加し、年間500を超えるクラスを開講する。これまでにマクドナルドでアルバイトを経験したクルーの卒業生は累計約300万人に上る。現在の店長の半数以上もクルー経験者だ。
ハンバーガー大学は、名称からハンバーガーの作り方を学ぶ施設と思われがちだが、中原学長は「ハンバーガーの作り方は一切教えていない」と話す。商品製造の基準は店舗のデジタルマニュアルや日々の業務で習得する。同大学で学ぶのは、その先にあるリーダーシップだ。中原学長は、仕事だけでなく人生でも活かせる「一生もののリーダーシップ」を身につける場と位置付ける。
「全国約3000店舗で、年齢も性別も価値観も異なるメンバーをまとめ上げ、一つの強いチームにしていく力は、マニュアルを読んだだけでは身につけることができない」と話す。アルバイトのクルーから店長、フランチャイズオーナー、経営層まで、それぞれの段階に応じてリーダーシップを育てていく。
学習には「70・20・10」のモデルを取り入れている。人の成長の7割は日常の経験、2割は上司や他者からのフィードバックや対話、残る1割はハンバーガー大学のクラスや自己学習から得られるとの考え方だ。研修で体系的に学んだ内容を、実務や周囲とのコミュニケーションを通じて成長につなげる。
店長になるには、オンライン4クラスと対面1クラスを全て修了する必要がある。受講して終わりではない。
店長就任までの期間は個人差があり、新卒入社では3~4年程度が一つの目安。2年余りで就任する例もある。店長は年間売上数億円規模で、平均70人以上が働く店舗をまとめる立場となるため、時間をかけて段階的に育成している。
体験会では、参加した記者が4人ずつのチームに分かれ、実際の研修の一部を体験した。研修を進行したのは、ハンバーガー大学で人材育成を担う佐藤三恵子氏。課題は、折り紙とシールを使い、制限時間4分で基準を満たす「紙コップ」を何個作れるかというものだった。
全員が少なくとも一つの工程を担当する。折り目の角度や仕上がり、シールの位置、しわや破れの有無なども細かく判定された。
1回目は、完成品として認められた数がAチーム0個、Bチーム3個。
2回目はAチームが6個、Bチームが7個に増えた。同じメンバーが同じ作業をしても、目標や役割を明確にし、1回目の失敗や気付きを共有することで結果が大きく変わった。
斎藤氏は、店舗で若いクルーが成長していく様子を「まるで部活のように」と表現する。得意な仲間を目標にし、できることを一つずつ増やす。それが店舗の成果や顧客の喜びにつながり、働くことの楽しさや次の成長につながるという。
こうした職場での経験が、人材の定着だけでなく、新たな人材の採用にもつながっている。ここ2年間に入社したクルーの約4割が友人紹介によるものだ。紹介時に一定のインセンティブを設ける場合もあるが、高額な報奨を目的に紹介する仕組みではないという。親子やきょうだいで同じ店舗に勤務する例もある。
同社では4~5年前から、「働く場所」としてのブランドづくりも強化してきた。
斎藤氏は、採用ツールの強化や働く場所としてのブランドづくり、働きやすい環境の整備などを進めてきたことで、「ようやく最近うまく回り始めているところもある」とする。
人を採用し、育てられる仕組みは、店舗の約78%を占めるフランチャイズ店舗の経営にも関わる。人手不足が課題となる外食産業で、人材を安定して確保できる仕組みは、フランチャイズオーナーを目指す人にとっても強みになるのか。
記者の質問に対し、斎藤氏は、人材確保へのサポートが手厚く、トレーニングが充実している点について、「魅力だと感じて、やりたいと思ってくださっているオーナーの方は確かにいらっしゃいます」と答えた。他のフランチャイズビジネスからマクドナルドへの参入を希望するケースもあるという。採用と育成の仕組みが、店舗運営だけでなくフランチャイズビジネスの強みにもなっている。
一方、デジタル化は別の課題も生む。モバイルオーダーやタッチパネル式注文端末が普及すれば便利になる反面、客が従業員と言葉を交わす機会は少なくなる。
デジタル化で従業員との接点が減る中、顧客とのつながりをどうつくるのかを尋ねると、斎藤氏は「私どもだけでなく、多くの企業にとって、デジタルになるとタッチポイントをどう作るのかが非常に大事になる」と答えた。その役割を担う一つがおもてなしリーダーだ。
注文時に困っている客への声掛けだけではない。席への案内や、食事中に味の感想を聞くこともある。一人ひとりの様子やニーズを見ながら、必要に応じて対応する。
斎藤氏はおもてなしリーダーについて、デジタル化を進める中でも「マクドナルドに行くと温かさがある、ちょっと違う、いい体験ができる」と感じてもらうことが戦略だと説明した。効率化で人の役割を小さくするのではなく、テクノロジーに任せられる部分は任せ、人にしかできない接客や対話を厚くする。
ハンバーガー大学の教育も変化している。かつて講師を「プロフェッサー」と呼び、正しい知識を教えることを重視していたが、現在は「ファシリテーター」と呼ぶ。問いを投げかけ、対話を通じて受講者自身の気付きや行動の変化を引き出す役割だ。
今後はZ世代をはじめ、働く人の価値観の多様化に合わせて教育の目的や指導方法を見直す。サプライヤーなどにも学びの対象を広げ、eラーニングやデジタルツールを通じて「いつでも、どこでも学べる」環境も整えていく。
中原学長は、ハンバーガー大学が大切にする考えを「ポジティブな変化の原動力はピープルである」と説明した。「その可能性を信じて、長期的に育て、その成長をビジネスの強みに変えていく。このシステムこそがマクドナルドの真の強み」と語った。









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