超高齢社会の日本において、シニアの住まい探しは依然として高い壁に阻まれています。今の住まいを離れれば、入居できるのは数千万円規模の費用がかかる有料施設か、低所得者向けの賃貸住宅か。
そのような中、神奈川県で第1号となる居住サポート住宅が誕生。生活サポートを展開するMIKAWAYA21、居住支援法人あんど、高齢者専門の仲介を担うR65不動産の3社連携による新しい賃貸モデルについて聞きました。
「資金があっても借りられない」元気な高齢者と中間層を阻む壁
高齢者専門の賃貸住宅仲介を手がけるR65不動産の山本遼(やまもと・りょう)さんは、現在のシニア向け賃貸市場の最大の課題を「とにかく物件がないこと」だと指摘します。
「弊社で高齢者に特化したポータルサイトを運営して集客を頑張っていても、肝心の物件がなかなか集まらないのが実情です。いざ物件が出たと思っても、孤独死や認知症発症などのリスクを懸念する不動産管理会社やオーナーさんから『65歳までならいいですよ』と年齢で断られることもあります」(R65不動産 山本さん)
お話を聞いたR65不動産の山本遼さん、MIKAWAYA21の平川健司さん、あんどの西澤希和子さん(画像提供/あんど)
また、長年、住まいの支援に携わってきた居住支援法人あんどの西澤希和子(にしざわ・きわこ)さんは、シニア層が抱える見過ごされがちな「中間層」の問題について語ります。
「家を売却して資金がある方でも、賃貸住宅への入居を断られるケースは多々あります。年金で自立して暮らしている方や、少しの生活支援があれば暮らせる方にとって、数千万円もするような有料老人ホームはハードルが高い。かといって一般的な賃貸住宅の審査は安定した収入がないと通りにくいため、行き場を失っている“中間層”の受け皿となる住宅が市場からすっぽり抜け落ちている現状です」(あんど 西澤さん)
特に課題になっているのが、“福祉につながる一歩手前”の高齢者です。
80代を超えても元気に暮らす人が増える一方で、介護保険制度を本格的に利用するほどではないが、加齢による身体機能の低下や孤独、不安を抱えている人は多く、入居する高齢者本人の気持ちとしても「普通の賃貸」に住み続けるハードルは高いといえます。
高齢者の住まいにおいては、これからの暮らしや孤独になることへの不安、古くなった自宅に住み続けることの難しさ、介護施設への不安・心配事など、本人の抱える悩みも多い(画像提供/MIKAWAYA21)
実家の相続対策×社会課題解決を目指す。居住サポート住宅「まごころアパート松葉台」
こうした構造的な課題に対するひとつの答えとして誕生したのが、神奈川県横浜市にある高齢者向け賃貸住宅「まごころアパート松葉台」です。2棟10室に加え、生活支援の拠点ともなる共有スペースがもう1室。
まごころアパート松葉台を「ミチニワ」と名付けられた中庭から臨む(画像提供/MIKAWAYA21)
この住まいができる発端となったのは、シニア向けの生活支援サービスを提供するMIKAWAYA21で社外取締役を務める平川健司(ひらかわ・けんじ)さんの「義実家の相続」でした。当初は義実家と敷地内にある築34年のファミリー向けアパートを売却しようと手続きを進めていましたが、遺族の「代々住んできた土地を自分の代で手放したくない」という強い思いから売却を中止。そこからシニア向け住宅への転換へと舵を切りました。
「私がこれまでMIKAWAYA21で地域のシニアサポートの仕事をしている中で、ご自宅の管理がしきれなくなり、『本当は売却して自分の生活サイズに合った部屋に移りたい』というご相談を数多く受けてきました。しかし、いざ探すと移り住む先がない。老人ホームでもサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)でもない、自由な生活空間をどう提供できるかが課題でした」(MIKAWAYA21 平川さん)
平川さんの義実家とアパートをシニア向け住宅へと転換するプロジェクトは、国土交通省のモデル事業として採択されました。さらに、R65不動産や居住支援法人あんどとの連携により「居住サポート住宅」として認定を受け、本格的に動き出したのです。居住サポート住宅とは、2025年10月に施行となった改正住宅セーフティネット法(正式名称:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律)の施策の中心となる、安否確認・見守り・福祉サービス連携などのサポートがついた賃貸住宅のこと。物件の所在する地方自治体が認定します。
居住サポート住宅とは、オーナーと居住支援法人等が連携して「ICT等による安否確認」「訪問等による見守り」「福祉サービスへのつなぎ」など、支援を必要とする人の日常のサポートを行う賃貸住宅(画像提供/MIKAWAYA21)
高齢者向けの住宅を検討するにあたっては、物件周辺にリハビリ病院や高齢者施設、介護事業所が集積しており、医療・介護との連携がしやすいエリアであったことも好条件でした。最初の入居者の面談もリハビリ病院で行ったといいます。
「リハビリが終われば、病院を退院しなければいけない。でも、元の家は階段が多くて戻れない。かといって、まだ施設に入るほどではない。そのような方はすごく多いのです。面談にあたっては、介護度や身体状況だけでなく、“普通の住宅で暮らし続けられるか”を丁寧に確認しました。自立した生活を希望する高齢の方は『何でもできます』とおっしゃることが多いのですが、実際にどんな支援が必要かを見極めることが大切です」(あんど 西澤さん)
「介護対応仕様だが、そう見えない」住まいを目指した建物
まごころアパートの最大の特徴は、施設感をなくしながらも安全性を確保したハード面と、柔軟なソフト面、そしてコミュニティの三位一体のサポートです。“介護対応仕様”ながらも、できるだけ「普通の暮らし」に近づけています。
ミチニワ(中庭)には、屋外空間を楽しみながら団らんできるウッドデッキのテラスがある(写真提供/MIKAWAYA21)
アウトドアでの食事や交流を楽しめるシンク付きのカウンターも(写真提供/MIKAWAYA21)
ハードとしての建物には、車椅子で移動しやすい広い動線や、介助を想定したスペース設計を取り入れています。例えば、室内はベッドの両側に十分な介助スペースを確保。トイレも体をひねらず移動できるよう、スライド式の手すりや二方向の扉の設置を採用しているのです。
ベッドの両側には十分な介助スペースがあり、掃き出し窓からは直接ウッドデッキや中庭へ出られる(写真提供/MIKAWAYA21)
使いやすく介助にも配慮し、二方向から出入りできるトイレも(写真提供/MIKAWAYA21)
その一方で、空間全体は“いかにも介護施設”には見えないような工夫が施されています。
共用部のベンチは、実は立ち上がり補助の手すりを兼ねていたり、中庭と室内とがつながり自然とコミュニケーションが生まれるよう、中庭向きの窓辺にキッチンカウンターを備えたりと、随所に工夫が散りばめられています。
玄関脇に置かれた共用部のベンチは、立ち上がり補助の手すりを兼ねている(写真提供/MIKAWAYA21)
玄関とキッチンの間に設けられた窓辺のカウンターは作業台であり、屋外を眺めながら外にいる人とコミュニケーションできる場所。上部には彩光と、万一のときに外から安否を確認できる高窓も(写真提供/MIKAWAYA21)
「平面的に間取りを見れば介護施設。でも空間としては“暮らし”なんです。植物を育てたり、外へ出たり、高齢者の“やりたい気持ち”を大事にするための設計です」(MIKAWAYA21 平川さん)
さらに、ミチニワの出入口に顔認証セキュリティーカメラ、玄関には「血流認証ゲートシステム」を導入。訪問介護・看護スタッフそれぞれの出入り履歴をゲートシステムで記録できるようにして、犯罪の防止や不正入室などのリスク低減にも配慮しています。
各居室にはインターネット回線や十分な電源設備を整えて、将来的な医療モニタリングも対応可能に。室内ではWi-Fiの電波を使ったセンサー(Wi-Fiセンシング)が24時間体制で見守りを行います。カメラではないためプライバシーを保ちつつ、入居者の生活リズムに異常があれば即座にコンシェルジュへ通知が届く仕組みです。
(左)居室への出入りは血流認証ゲートシステムを採用し、セキュリティーにも配慮/(右)室内にはコンセントに挿してWi-Fiで睡眠や活動データを見える化するセンサーも(画像提供/MIKAWAYA21)
「20分1000円」の生活支援と、“人との関わり”をつくる仕組み
さらにソフト面の支援として特徴的なのが、「20分1000円」の生活支援サービス「まごころサポート」を任意で活用できることです。買い物への同行や通院の付き添い、片付け、掃除、家具移動など、介護保険では対応しづらい“ちょっとした困りごと”をサポートします。
まごころサポートの内容
MIKAWAYA21が提供するまごころサポートは、地域にいる「コンシェルジュ」がシニア一人ひとりの担当として日々の困りごとをサポートするサービス。全国250カ所(2026年4月の取材時点)で展開している(画像提供/MIKAWAYA21)
「実際に入居された方は、すぐにサービスを利用されました。
ただし、まごころサポートで重視しているのは“作業”そのものではありません。前後の会話も含めて支援なんです。高齢の方はちょっと話をするだけで安心感が全然違う様子ですし、私たちもご本人の心身の様子を確認できます」(MIKAWAYA21 平川さん)
まごころサポートで提供している「マゴコロボタン」は、服薬の時間をリマインドしたり、生活情報を発信するほか、家族とLINEでつながり音声メッセージをやりとりする機能も(画像提供/MIKAWAYA21)
サポートを担うのは、学生や主婦、会社員など多世代の「コンシェルジュ」たち。ケアマネジャーや介護資格を持つ人が、副業的に関わるケースもあるそうです。
また、地域との接点づくりも重視しています。現在、まごころアパート松葉台では週3回、地域のコンシェルジュが共用部の掃除や水やりを担当。すると、近隣住民が自然と声をかけるようになり、少しずつ地域とのつながりが生まれているといいます。周辺大学の学生向けにサポート担当割引入居の募集も始める予定です。
コンシェルジュが共用部の掃除や植栽の手入れなどを担当することで、地域とのつながりが生まれる(画像提供/MIKAWAYA21)
「いきなりコミュニティをつくるのは難しい。でも、花を見に来たり、掃除している人に話しかけたり、そういう小さな関係が地域のなかに積み重なっていくことが大切ですね」(MIKAWAYA21 平川さん)
さらに、MIKAWAYA21では「食」を通じたコミュニティづくりとして、高齢者が地域の食材を活用した手づくり料理を提供するコミュニティ「ジーバーFOOD」も展開しています。平川さんは、今後、まごころアパート松葉台の共有スペースをジーバーFOODの拠点として活用することも想定しているそう。
「高齢の方は、一人暮らしになると買ったお弁当や菓子パン、お茶漬けだけで済ませてしまう人も多い。でも、みんなでつくりたてを食べると食欲が戻るんです。食事改善は、自立した生活の維持にもつながります」(MIKAWAYA21 平川さん)
MIKAWAYA21が連携して展開するジーバーFOODの仕組み。平均年齢71歳・延べ50名以上のシニアが活躍する仙台の拠点では、手づくり弁当を累計2万個以上販売した実績も(画像提供/MIKAWAYA21)
「まごころアパート松葉台」は、公的補助などをフル活用することで、家賃や共益費、見守りなどの支援費を含めて初期段階として月額10万円以内に抑えた費用で入居できる、中間層にとって現実的な家賃を実現しています。
専門の3社連携が生み出す「貸す側」と「借りる側」の安心の仕組み
多くの不動産会社では、高齢者の個別事情に応じた多様なニーズへの対応や、介護・医療などの知識が必要とされる応対をすることは困難でしょう。まごころアパート松葉台では、専門知識を持つ3社が役割分担をすることで、スムーズな受け入れを実現しています。
R65不動産は、入居の入口となる仲介・マッチングを担当。居住支援法人あんどは、入居前の面談から困ったときの相談、死後事務委任契約などの法的サポートを包括的に担当します。MIKAWAYA21は、物件オーナーであるとともに、日々の生活サポート(まごころサポート)を提供しています。
MIKAWAYA21がまごころサポート付きのまごころアパートを展開し、R65不動産が仲介の窓口として募集・集客などの入居支援を、入居後の生活支援を居住支援法人あんどが担う3社連携の仕組み(画像提供/R65不動産)
特に不動産オーナーにとって不安の種となるのが、入居後の認知症発症や孤独死などのリスクです。
「孤独死はもちろん、入居後に認知症になっても、賃貸借契約の解除ができないと、ご本人や家族はもちろん、オーナー、不動産会社など関係者全員が困ることになります。施設に入所したり病院に入院したりして、解約しないまま家賃の引き落としが続くケースも。家賃引き落とし口座の残高が不足し、家賃を引き落とせなくなれば契約違反。
このようなトラブルを未然に防ぐために、当社のような居住支援法人が入居時に死後事務委任契約を結び、日々の見守りと最後のしまい方までをサポートすることが非常に重要になります」(あんど 西澤さん)
「プロが間に入る」ことで、多くの不動産会社やオーナーが抱える不安を払拭し、貸す側も借りる側も安心できる仕組みが構築されているのです。
居住サポート住宅の全国普及に向けた今後の課題と展望
居住サポート住宅はこうした不安を払拭するために国が制度化したものですが、全国に普及させるためにはまだ課題も残されています。ひとつは「支援のガラパゴス化」の懸念です。
「居住サポート住宅の支援内容は多岐にわたるため、支援を提供する主体によってサービス内容が異なります。不動産仲介会社の立場としては、サービス内容が多様すぎるために、その内容の把握や募集が難しく、結果、マッチングをしにくくなることが起こります」(R65不動産 山本さん)
同時に、適切なサポートを提供するためにはサービス品質の低い事業者を排除し、業界を横断するルールづくりも急務です。2026年4月からは厚生労働省により生活支援等の事業が「第二種社会福祉事業」として位置づけられるなど制度整備も進んでおり、あんどの西澤さんも「自治体と手を組みながら支援のレベル感を合わせていくことが今後の課題」と語ります。
最後に、オーナーの視点からMIKAWAYA21の平川さんが今後の展望を語ってくれました。
「シニアの方は『普通の住宅に住みたい』という思いが大きいのですが、家族は心配する。だからこそ、家賃やサービス料を抑えつつ、何かあったときに必要なサポートをする体制のある住まいが求められています。
一方、オーナー側にとっては空き家・空き室が増加する社会で、経年とともに古くなる物件を地域に貢献しながらアパート経営を次世代につなぐことが必要。
築古の賃貸アパートをシニア賃貸へとリノベーションし、必要なサポートをつけて提供する。貸す側・借りる側双方にとって安心の選択肢になるよう、今後も広げていきたいですね」(MIKAWAYA21 平川さん)
まごころアパートが、多様な主体が連携し、地域に根差した持続可能な拠点になることを目指している(画像提供/MIKAWAYA21)
「高齢者は賃貸住宅に入居できない」という常識を、不動産×福祉×生活サポートの力で打ち破る3社の挑戦。住まいの確保に困るシニア層を支えるこのモデルは、空室問題に悩む地域の賃貸オーナーにとっても、ずっと住み続けられる形を模索する全国のまちにとっても、希望の光となるでしょう。今後の広がりが期待されます。
●取材協力
・MIKAWAYA21株式会社
・まごころアパート
・居住支援法人 あんど
・株式会社R65

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
