中東情勢の緊張が長引く中で、いま不足が心配されているものの一つが、中東から多くを輸入しているヘリウムです。一部のバルーン専門店で、風船を膨らませるヘリウムガスの入荷が遅れる事態や、国内大手のガス会社が同業者への販売を停止する動きなど、不足の影響が身近なところにも広がっています。

ヘリウム不足 いま、何がおきている?

ヘリウムガスを、ほぼすべて輸入に頼る日本で、いま何が起きているのか。日本産業・医療ガス協会 常務執行役員 新井すみ代さんに聞きました。

日本産業・医療ガス協会 常務執行役員 新井すみ代さん

日本のヘリウムというのはもうほぼ全量輸入なんです。だいたい6~7割がアメリカ産で、3~4割がカタール産を輸入しています。ホルムズ海峡問題などもあり、カタールからの輸入が滞っている状態なので、需給がタイトといえばタイトな状況です。ただ、もうなくなってしまってどうしようもないということはなくて、例えばアメリカ産の方を増やすように調整をしたり、その他の地域から持ってくるというような感じにはなっています。ただ、あまり「これがない、あれがない」と騒がれてしまうと、皆さんの買い占めであったりとか、売り渋りであったりとかが発生してしまいます。あまり大騒ぎされずに平時のことを続けていただく、そういう状況です。

ヘリウムは、実は私たちがよく見る風船に使われているのは、全体のわずか1%にすぎません。一番多いのは半導体向けで31%、続いてMRIなど医療向けが16%、光ファイバーが14%。今後、もし中東情勢の影響による輸入の停滞が今の状態のまま長引けば、数ヶ月後には半導体や医療の現場にも影響が出る可能性はありますが、ガス会社も新たな調達先を探すなど対応しているそう。 また、日本の輸入量そのものは、この10年で減っていて、なるべく使わない工夫や、一度使ったものを回収してもう一度使う動きが進んでいます。

古いMRIからヘリウム回収

ただ、すべてを海外に頼っているという根本的な不安定さは変わっていません。 そこで、このピンチを乗り切ろうと画期的なプロジェクトがスタートしています。

自然科学の総合研究所である、理化学研究所 仁科加速器科学研究センター低温技術チーム 奥野広樹さんに聞きました。

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター低温技術チーム 奥野広樹さん

使い終わったMRIの中に残っているヘリウムを回収し、綺麗に精製してもう一度液体ヘリウムとして蘇らせる取り組みです。MRIには(ヘリウムが)たくさん入ってるって極低温の技術者とか研究者でしたら知ってる人は多かったと思います。だからそれを回収したいっていう思いは結構抱いてる関係者は多かったと思うんですけど、それをもう、MRIごと持ってきて回収しようと言い始めたのは我々が初めてです。液体と気体で体積比って700倍違うんです。同じ液体ヘリウムを気化させると700倍膨れ上がるわけです。輸送効率が全然違いますので。そういう意味では効率の良い回収になってます。

ヘリウム不足どう備える MRIから回収する都市ガス田の画像はこちら >>

病院で使い終わったMRIを理化学研究所に持ち込んでもらい、そこからヘリウムを回収し、リサイクルをしています。実際に回収の現場を見せてもらいましたが、MRIの患者さんが入る巨大な白い機械の壁の中は、強力な磁石を冷やすための「魔法瓶」のような構造になっていて、そこに液体ヘリウムが満たされています。そこからヘリウムを抜き取る際は、ヒーターなどで温めて液体ヘリウムを蒸発させ、少しずつ気体の状態にしてパイプから回収。(ヘリウムはマイナス269度で液体になり、それより温まると気体になる)回収したガスは、不純物を取り除いて再び液化され、リサイクルされます。

回収したヘリウムは、最大75パーセントを病院からMRIを運んできた販売メーカーや専門業者にそのまま返し、残りの25%を精製や再液化などにかかる費用として理研が受け取る仕組み。

どれくらい集まっている?

では実際に、どのくらいの問い合わせや持ち込みがあるのか。再び、奥野さんに聞きました。

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター低温技術チーム 奥野広樹さん

2023年からトライアルを始めてるんですけど、この3年かけて35台。2.6万リッターのヘリウムを回収した。これほっとくと捨てるもんでしたから。そういう意味じゃたくさん回収されてるなって思います。日本人って国民1人当たりのMRI台数が世界一らしいんですけど、その台数で計算すると7400台。そういう意味では日本の中でそういうヘリウムが眠ってる場所がたくさんあるということです。

役目を終えたMRIが、いまは国内で回せる資源の山として見直され始めています。奥野さんは、こうした場所を「都市鉱山」ではなく「都市ガス田」と表現していました。ただ、理研が扱えるのは今のところMRIが中心で、一番多く使われている半導体向けのヘリウムは、他の様々な可燃物などが混ざって純度が低くなるため、取り出すのはコストが見合わず現実的ではないそうです。

一方、MRIの中に残っているヘリウムは不純物がほぼ空気で、回収しやすいため、リサイクルには向いています。 理化学研究所では、今回の取り組みのノウハウを蓄積し、ゆくゆくは全国の大学や国の研究所などにも、この「リサイクルモデル」を広げていきたいと話していました。 輸入に頼る日本だからこそ、循環させる仕組みづくりが、重要になってきそうです。

(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)

編集部おすすめ