5月下旬、台湾へ出張してきました。株式市場を含めた台湾経済は好調で、「バブル感」が漂っていました。
猛暑の中、「電力不足」の台湾を歩く
5月下旬、台湾を視察しました。台北市内の松山空港に到着してまず驚いたのが「暑い!」ということです。気温が35度以上で、蒸した空気が混ざったこの時期の日本とは次元が違う暑さです。滞在中は、100メートル歩いただけで汗が噴き出てきました。
天候以上に驚かされたのが、建物の中の暑さ、というよりは外が35度以上ある状況にしては室内が冷えていなかったことです。特に、今回訪れた大学やオフィスビルでは、一階ロビー、エレベーター、上層階の廊下などは冷房機能がオフになっており、暑さからの「逃げ場」がないという感覚を抱きました。
ある公的機関に赴いた際、ちょうどお昼休みの時間帯だったのですが、冷房が切られ、かつ電気も落とし、辺り全体が暑く暗くなっていました。
現場の方に話を聞くと、「私たちが働くような大きめのビルではこのような措置が取られている。電力をたくさん消費しているし、そもそも台湾は電力不足だから」と嘆いていました。
台湾における電力不足の主な原因ですが、TSMC(タイワン・セミコンダクター・マニュファクチャリング:TSM)などの最先端半導体工場や大規模データセンターの稼働により、電力需要が急激に増加していること、「脱原発」を掲げてきた与党・民進党による政策で、2025年5月に台湾最後の原子力発電所が運転を停止したこと、および、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が、環境アセスメントや用地不足が原因で思うように進んでいないこと、などが挙げられます。
それに加えて、イラン戦争や台湾有事といった地政学的リスクの影響も受けており、台湾における電力不足という構造的問題はますます先行きが不透明になり、かつ深刻化していく可能性があります。
電力源 割合 天然ガス火力 約50% 石炭火力 約31% 再エネ 約16% その他 約3% 台湾経済部より筆者作成
表で示したように、台湾の電力構造は火力発電、特に液化天然ガス(LNG)に大きく依存しているのが見て取れます。
台湾経済の現状と構造的問題
熱していたのは天気だけではありませんでした。景気もかなり熱しており、バブルとすら言える状況がそこにはありました。以下、台湾経済の現状を整理してみましょう。
一人当たりGDP(2024年) 3万3,983ドル 日本(3万2,859ドル)を初超え GDP成長率(2025年) 8.6% 2010年以来の最高値 インフレ率(2025年) 1.9% 政府予測1.94%(通年) 失業率(2026/3) 3.35% 近年3%台で安定 住宅価格上昇率(2024/3Q) 12.5% 前四半期比でも拡大 加権指数(TAIEX)(2026/5) 4万4,732ポイント 2023年比で約2.5倍 台湾政府、IMFなどより筆者作成
足元、加権指数はさらに上昇し、4万6,000ポイントを超え、過去最高値を更新し続けているのが現状です。今回、意見交換をした政府や市場関係者たちは口をそろえて「景気は良好」「台湾経済は好調」といった見立てを示していました。
台湾は半導体の受託生産で世界シェア7割を占め、人工知能(AI)向けなど先端半導体の供給拠点となっている点も、景気や株価を押し上げている要因と言えます。
一方で気になったのが、実体経済と株価が乖離(かいり)していて、低所得者層から中間層を中心に、景気の果実を実感しきれていない点です。今回現地で利用したタクシーの運転手たちの多くが、信号で止まるたびにスマホで株価を眺めていましたが、「タクシーの運転手は表面上の仕事。収入のほとんどは株式投資から来ている」(台北市内の運転手)とのことでした。
「普通に働いていては食べていけない」という感覚と実情は、未来を担う若年層の間でも広範に共有されているように見受けられました。
特に首都・台北市で暮らし、働く若者たちは、「勤め先からの給料だけじゃ生活していけない」「住宅は桁違いに高いからとても買えない」「住宅を買えないから結婚もできない」「生活に全く余裕がないから子供も作れない」といった具合に嘆いていました。
実際、台湾の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の推定平均人数)は0.89と世界的にも最低水準にあります。近年の年間出生人数を調べてみると、2024年は約13万5,000人だったのが、2025年には約10万8,000人となりました。
10年前の約21万人から半分近くまで減ってしまったという経緯です。今回話を聞いたある政府関係者は、近い将来「5万人時代」がやって来ると非常に警戒していました。
私が今回コミュニケーションを取った20代後半から40代前半の男女においても、そのほとんどが独身で、既婚であったとしても子供はいないというケースがほとんどでした。
少子化の荒波にストップをかけるべく、頼清徳(ライ・チントー)総統は5月20日に発表した就任2周年演説で、0~18歳の全ての子供に月額5,000元(約2万5,000円)を給付するという大胆な政策を発表しました。台湾政府として少子化が経済社会の持続的発展にいかに深刻な影響を与えるかを危惧している現状を物語っていると私は受け止めました。
TSMCへの過剰依存がリスク化?
台湾と言えば半導体、半導体と言えばTSMCと言えますが、本稿で取り上げてきた電力不足や少子化を含め、台湾で「五欠」と呼ばれる、電力、水、土地、労働者、高度人材(エンジニアなど)の不足は、TSMCの成長にとって制約要因になるでしょう。
そして、TSMCの成長に陰りが生じれば、台湾経済全体が悪影響を受けるという潜在的リスクを抱えているだろう、というのも今回の出張を通じた発見の一つでした。
TSMCの台湾経済における存在感と影響力を整理すると、おおむね以下のようになります。
●売上高:約3.81兆台湾ドル 純利益:約1.72兆台湾ドル(2025年実績) ●世界ファウンドリー市場シェア約70%(AI向け先端半導体で世界独占的地位) ●台湾GDP(2025年、26兆~27兆台湾ドル)に占める割合14~15% ●TSMC単体売上高約3.8兆台湾ドル(台湾GDPの1割強を実質生み出している) ●台湾半導体産業全体では、GDPの約18%、輸出の約60%を占める ●台湾加権指数(TAIEX)におけるウエート約42%(2026年5月) ●時価総額(2025年)1兆ドル(約160兆円) TSMC、台湾政府などの統計に基づき筆者作成
このように、「台湾経済=TSMC経済」と言っても過言ではない存在感と影響力を誇っている現状が見て取れます。ただ裏を返せば、「TSMC次第」というのは台湾経済にとってはリスクとなるでしょう。
現地では、大量の電力を消費し、かつエリートを率先して採用し、多額の報酬を与えるTSMCが台湾社会や人々の生活を疲弊させ、格差を拡大させているといった観点から、批判の声も静かに高まっていました。
TSMC、および半導体産業は、米中対立や台湾有事といった意味でも、大国間関係や地政学的リスクの影響を受けやすく、また、仮にTSMCが倒れてしまえば、世界の半導体市場、そしてその先にある私たちの生活にも甚大な影響が生じ得るだけに、同社、および台湾の経済、社会、政治、そしてそれを取り巻く地政学情勢を、「自分事」として密に注視していく必要があると思わせてくれた今回の台湾出張でした。
(加藤 嘉一)

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