好成績をうたう戦略型のファンドには、輝かしいバックテスト、高い分配利回り、効率的な倍率などがあり、表の数字は魅力的です。しかし、それらが「仕組み」で作られているとき、潜在的なリスクは、平均リターンやうたい文句ではなく、リターン分布の形状に現れます。
ここで取り上げるのは、レバレッジ、トレンドフォロー、カバードコールです。まとめて「『仕組み』でリターンをつくる戦略」と呼ぶことにします。共通するのは、デリバティブなどを活用することで、素朴に資産を持つのとは違う形に値動きを作り替えているという点です。
これらの成績は表の数字だけでは判断しづらく、それぞれの特徴が、価格経路への依存、リターンのゆがみ、そして分布の裾(極端な結果)に現れます。今回はそれらの表の顔と死角を確かめていきましょう。
※なお、これからお見せする図は、いずれも仕組みを説明するための概念図や試算結果の一例です。特定の商品や将来の予測ではないことをあらかじめご承知おきください。
レバレッジ:「2倍」はまっすぐ2倍にはならない
レバレッジの表の顔は「値動きが目標倍率(2倍など)で、少ない元手で大きく狙える」効率性です。しかし多くのレバレッジ型は、あくまでも日々の値動きを目標倍率に連動させる仕組みで動いており、ここに死角があります。
日次でポジションがリセットされるため、例えば目標倍率が2倍であっても、長期リターンが指数の2倍に収束するわけではありません。特に上下を繰り返す横ばい相場では、複利により価値がじりじりと削られます。前回解説した「リターンのブレが大きいと資産の成長スピードを鈍らせる」というのが、レバレッジの分だけ増幅されて効きます。
▼前回の記事
積み立てシミュレーションのわな。「平均」に惑わされないための「ブレ」の捉え方
図1のとおり、強いトレンドが続く相場では、レバレッジ型は倍率以上に伸びることがあります。一方で横ばい相場では減衰し、現物に負けることもあります。また見過ごされがちですが、レバレッジ維持のためにかかる借入コストや経費率も、運用成績に地味に効いてきます。
トレンドフォロー:強い相場に乗るが、横ばいで削られる
トレンドフォローは上昇・下落にかかわらず、はっきりした方向が出た資産に乗る戦略です。これは長年の実証研究に裏づけられた正当な戦略で、頭ごなしに否定すべきものではありません。過去の大きな相場変動で成果を上げた実績もあり、良い意味での偏りを持ちやすい特徴もあります。
この戦略における死角は、はっきりとした価格の方向感がないレンジ相場にあります。上がり始めたと見て買った途端に反落し、下がり始めたと見て手じまう。このような往復ビンタを食らうと、現物はほとんど動いていないのに、コストと小さな損失が積み上がることになります。
カバードコール:分配に代わりに上値を売り、下値は残す
カバードコール戦略の表の顔は、なんといっても「高い分配利回り」です。保有資産にコールオプションを売り、その代金(プレミアム)を分配の原資にします。株を持ちながら追加の収入が得られる、うまい仕組みに見えます。
しかし図2のとおり、その代償として値上がり益を一部諦めます。
さらに注意したいのが、時に高い分配金の一部は、実質的に自分が拠出した元本の払い戻しであることがあります。分配利回りの高さをそのまま「自分のもうけ」と捉えると実像を見誤るため、あくまでも分配とトータルリターンは別物と考えておきましょう。
戦略が重なると、死角も重複する
こうした戦略は、単体でなく組み合わされることがあります。例えばレバレッジとトレンドフォローの組み合わせは、方向感のある相場では威力を増す一方、トレンド転換時やボックス圏の相場ではもろ刃の剣となります。レバレッジが上下動のたびに減衰し、そこにトレンドフォローの往復ビンタが重なるということが起こり得るのです。
そこで、両者が抱える同じ弱点がどのように影響するかを確認します。ただし先にお断りしておくと、以下で使うトレンド判定は「20日移動平均を上回れば買い、下回れば現金」という素朴なルールです。実際のファンド運用では、複数の期間を組み合わせるなどの工夫がなされます。
ただし影響が小さくなっても無くなりはしません。方向感の無い相場で判定が空振りするのは、この戦略の構造上の性質だからです。
図3では、現物が0%近辺で着地した一方、レバ×トレンドフォローは約30%のマイナスになりました。
図4のとおり、現物が0%を中心に分布が立っているのに対し、レバやトレンドフォロー、そして両者を重ねた戦略は、分布そのものが左へ寄ります。つまり、先ほどの一本がたまたま不運だったわけではなく、横ばい局面では構造上不利になりやすいことを示しています。
もう一つ公平のために大事な点をお伝えすると、こうした戦略は常に悪いわけではありません。同じレバ×トレンドフォローを、トレンド相場でも試算して並べてみます。
図5のとおり、トレンド相場では同じ戦略が大きく勝ちます。問題は戦略そのものの善しあしではなく、相場環境で顔がまるで変わること、そして横ばい局面では死角が重なり合うことです。値動きの異なる資産を組み合わせてリスクを打ち消す分散とは別物です。つまり、戦略を重ねるほど良い効果だけが足されていく、ということではありません。
新規設定が増えるときは、少し冷静に
商品の中身とは別に、もう一つ知っておきたい視点があります。こうしたファンドがいつ世に出てくるかです。新しいファンドは、その戦略がすでに好調で、過去の成績が見栄えするときほど設定しやすくなります。
ここに落とし穴があります。好調の後だからこそ、そこが相場やその戦略の天井に近い可能性がある。つまりバックテストが素晴らしく見えるのは、直近の相場環境にたまたま合っていたからかもしれず、環境が変われば同じ戦略が全く別の顔を見せることがある、ということです。
「バックテストが良く見えること」と「今後もパフォーマンスが良いこと」は別の話です。ある戦略のファンドが次々と設定され話題になっているときこそ、少し立ち止まって「なぜ今なのか」を考える。それが過去の実績だけに引かれて高値をつかまないための冷静な備えになります。
結論:表の数字ではなく、中身で選ぶ
改めてお伝えすると、これらは決して悪い戦略や手法ということではありません。それぞれに正当な用途があります。レバレッジは短期の戦術的な場面で、トレンドフォローは価格トレンドを捉える戦略として、カバードコールは横ばい相場でのインカム狙いで。使いどころを踏まえれば、有効な道具です。
問題は、中身を知らないまま表の数字だけで選び、戦略を重ねてしまうことです。
ゆえに、一本の好成績のチャートや高い分配利回りだけで判断しないこと。平均だけでなく、うまくいかない局面や下振れ具合を見て、自分がそれに耐えられるかを確かめることが重要です。そして、こうした戦略は主軸に据えず、役割を限定して使うのがセオリーです。見栄えのする数字だけを追うのではなく、投資の前には、ぜひこうした戦略の背景を考えてみましょう。
【各図の前提条件】
※本資料に用いた図はいずれも以下の条件に基づく筆者による試算の結果であり、将来の投資成果を示唆または保証するものではありません。 ※期間:図1=252営業日(約1年)/図3~5=504営業日(約2年) ※図4および5の試算回数:各3,000通り ※レバレッジ:2倍・日次リセットを想定。借入コスト・信託報酬は未計上のため横ばい相場で実際はさらに不利になり得る ※トレンド判定:20日移動平均超で買い/割れで現金 ※売買コスト:0.05%/回(トレンド判定の売買時のみ)※横ばい相場:水準に引き戻す力が働くことで反転する想定、値動きの荒さは年率17%程度に相当 ※トレンド相場:上昇方向がそろって続く設定、荒さは年率10%程度に相当
(上源 悠詞)

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