米国市場でSOX指数の下落が目立っています。業績期待のハードルと投資負担への懸念に加え、長期のPERや信用取引の急増に象徴される相場の過熱感とレバレッジが下落を増幅させた構図が浮かび上がります。
米国株市場を揺らすSOX指数の下落
今週の米国株市場も、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数の下落が目立っています。
<図1>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年7月29日時点)
図1は昨年(2025年)末を100とした、米主要株価指数のパフォーマンス比較ですが、SOX指数の下落が突出して大きいことが確認できるほか、他の株価指数についても、SOX指数ほどではないにしても、軟調気味に推移している様子がうかがえます。
確かに、AI・半導体関連銘柄が下落する一方で、中東情勢の不透明感を背景としたエネルギーセクターの買い戻しや、以前のレポートでも指摘したように、出遅れや割安感のある銘柄、ディフェンシブ銘柄などへの「循環物色」の動きも見られており、米国株市場全体として見ると、相場はまだ崩れてはいません。
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ただし、テクニカル分析的には、日足チャート上の50日移動平均線を、S&P500種指数とナスダック総合指数の株価がともに下回っているほか、ダウ工業株30種平均とラッセル2000(中小型株で構成される株価指数)の株価もこの50日移動平均線を意識した攻防戦となっており、下方向への意識は強まっている点には注意が必要です。
SOX指数急落のチャートの動き
また、SOX指数については、先ほどの図1の値動きを見ても容易に想像ができますが、日足ベースのチャートでも下落トレンドに入っていることが読み取れます。
<図2>米SOX指数(日足)とMACDの動き(2026年7月29日時点)
図2はSOX指数の日足チャートですが、現在の株価は6月22日の高値(1万4,655p)から、弱気相場入りの目安とされる20%の水準を下回っているほか、25日と50日移動平均線の「デッドクロス」、先週の株価反発の場面で株価が50日移動平均線に届かずに失速する「リターン・ムーブ」の動きなど、相場の弱さを示すサインが多くなっています。
とはいえ、7月29日(水)時点の終値(1万0,447p)は、6月22日の高値から28.71%も下落しており、いったん底打ちを探る動きが出てきてもおかしくはありません。目先は1万pの株価水準や200日移動平均線が下値の目安になりそうです。
株価下落の「きっかけ」と下げ幅を増幅させた「加速装置」
また、AI・半導体関連株が短期間でここまで売られた背景を探っていくと、下落の「きっかけ」と、下落を増幅させた「加速装置」に整理することができます。
まず、株価下落のきっかけとなったのは、「高すぎる業績期待」と「設備投資による財務負担への懸念」です。
これまでに決算を発表したS&P500企業の動向を見ると、8割以上の企業で1株当たり利益(EPS)が市場予想を上回っていて全体としては好調です。
アルファベット(GOOG、GOOGL)やテスラ(TSLA)、インテル(INTC)などのハイパースケーラーも同様に好決算を発表したのですが、株式市場は下落で反応してしまいました。
その理由は、決算においてAIへの設備投資拡大が示されたことです。
これまでのAI相場では、設備投資の拡大は株価にとってポジティブ材料だったのですが、足元ではAI投資額が巨額に膨れ上がり、企業の手元現金であるフリーキャッシュフローを圧迫し始めていることから、AI投資の継続性と収益化に対する懸念の方に関心が向かい、今回はネガティブ材料として受け止められた面があります。
さらに、前回のレポートでも紹介した、中華AIによる「コモディティ化」の思惑も株価下落に影響しています。
中国のAI開発企業ムーンショット(月之暗面)が提供する、安価かつ高性能のAIモデル(Kimi K3)の登場や、半導体メモリ分野についても、中国のDRAM大手CXMT(長キン存儲技術)が今週27日(月)に上海株式市場(科創板)に上場し、初日の株価が公募価格比で466%高と高騰したことも注目を集めました。
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コモディティ化とは、独自性もしくは独占的だった技術や商品、サービスが、競合の参入や技術の向上によって一般化していく現象ですが、中華AIの存在によって今後は競争の激化と価格低下を促すスピードが速まるのではないかという思惑につながりました。とりわけ、半導体メモリ関連銘柄は直近までのAI相場のけん引役であっただけに売られやすかったと思われます。
続いて、下げ幅を大きくした加速装置についても見ていきます。結論としては、株式市場で「過熱感を帯びていた」ことと、「過度なレバレッジが積み上がっていた」ことの二つが挙げられます。
前者の過熱感については、「CAPEレシオ」と呼ばれる長期の株価収益率(PER)から読み取れます。
<図3>S&P500(月足)と長期PERの推移(2026年7月24日時点)
図3は月足のS&P500とCAPEレシオの推移を示していますが、先週末24日(金)時点のCAPEレシオは39.08倍と40倍近くに迫っています。
いわゆる「ITバブル」時のピークが36.54倍だったことを踏まえると、現在の水準は単純な数値の比較で見るとかなり割高です。「CAPEレシオがここまで上昇すれば天井をつける」という絶対的な基準はありませんが、重要なのは、「約2年間にわたって35倍を超える場面が多くなっている」ということです。
図3は30年間以上のCAPEレシオの推移を示していますが、35倍を超えている場面は数える程度しかありませんでした。過去の事例では35倍あたりの推移をしばらく続けた後、CAPEレシオの修正と共に株価が大きく下落しています。
また、後者の過度なレバレッジについては、米国の信用取引のデータから把握することができます。
<図4>米国株市場の信用取引の状況 1997年1月~2026年6月
図4は、月足のS&P500と、「マージンデット」と呼ばれる米国の信用取引において、投資家が株を買うために証券会社から借りている資金額の推移を示したものですが、過去にさかのぼると、株価(S&P500)の天井と、マージンデットの急増がピークを迎えたタイミングがほぼ一致していることが分かります。
特に、ここ直近のマージンデットの金額の伸びは前年比で50%以上も増加し、1.4兆ドルを突破していて、かなりレバレッジが積み上がっていたため、株価下落に伴うポジション整理の売りによって、株価の下落が増幅された可能性があります。
アップル株が示すAI相場の「次のフェーズ」
これまで見てきたように、足元の米国株市場が市場全体として本格的な長期下落トレンド(弱気相場)に入ったのかといえば、現時点ではSOX指数の下落が際立っているものの、循環物色の動きが見られることもあり、株式市場から資金が完全に逃避したわけではなく、今のところ、AI・半導体関連銘柄を中心に「部分的・局所的な調整」にとどまっています。
もっとも、個人投資家にとって気になるのは、現在の下落そのものよりも、「株価が底打ちした後に、これまでの過去最高値を更新して再び強気相場に戻れるかどうか」ですが、期待を先取りして株価が上昇していたことや、同じ材料(AI投資の拡大)でも市場の受け止め方が変わってきていることを踏まえると、強気相場復活へのハードルは高くなっていると思われます。
そんな中で注目されるのがアップル(AAPL)株です。
<図5>米アップル(日足)とMACDの動き(2026年7月29日時点)
図5はアップルの日足チャートですが、AI・半導体関連株の不調とは対照的に上昇基調をたどっていて、現在の株価は最高値圏に位置しているほか、時価総額も世界首位の座に復帰(時価総額5兆ドルを突破)しています。
こうしたアップル株上昇の理由として、「消極的な安全資産としての評価」と「積極的なAI戦略への評価」の双方が存在します。
【消極的評価:巨額投資レースから距離を置くスタンス】
マイクロソフト(MSFT)やアルファベット、メタ・プラットフォームズ(META)などのハイパースケーラーが年間数兆円規模のAI設備投資を払い続け、キャッシュフローを圧迫させているのに対し、アップルはAIインフラの「拡大競争」に直接参加していません。
その結果、アップルの2026年フリーキャッシュフロー(FCF)は前年比40%増の約1,400億ドルに達する見込みであり、「AI過剰投資のリスクを負わない、ディフェンシブかつグロース株」として資金の退避先に選ばれたと考えられます。
【積極的評価:アップル独自の「エッジAI」とマネタイズ構造】
同時に、市場は「出遅れている」と評されていたアップルのAI戦略を再評価し始めている可能性があります。
AI技術においては、チャットベースの生成AIから、フィジカルAIやエージェントAIなど、その領域を広げていますが、AI処理をクラウドではなく、ユーザーの手元のデバイス(スマホなど)で行う「エッジAI」も注目されています。
今後、このエッジAIが普及していくことも想定されますが、その際、世界で20億台以上の稼働端末(iPhoneなど)を保有しているアップルは強みを発揮する可能性があります。
実際に、アップルのAI機能「Apple Intelligence」の基本構造は、可能な限りユーザーの手元にあるデバイス(iPhone、iPad、Mac)内のチップ(NPU)で直接AI処理を行う「エッジ処理」を優先する設計になっています。
また、アップルは、自前でデータセンターを保有していないわけではありませんが、ハイパースケーラーによるAIインフラ投資競争からは距離を置き、効率化されたハイブリッド構造を取っているほか、AIモデルの開発などではオープンAIやグーグル(アルファベット)などの外部のパートナーと提携関係を構築するなど、柔軟に対応しています。
最近までのAI相場を振り返ると、これまでのけん引役は「データセンターなどのAIインフラを提供する側(ツルハシ銘柄)」が中心でした。ハイパースケーラーがデータセンターを造り、エヌビディア(NVDA)などの半導体メーカーがチップを売り、メモリや電子部品企業がそれに続くという構図です。
しかし、先ほども見てきたように、AIのコモディティ化は、これまでのけん引役の企業にとってネガティブな材料になる一方で、AIの利用コストが低下することで、利用者の増加が加速していくことが見込まれます。
そのため、今後のAI相場は、AIを導入・活用して生産性や付加価値を高めたり、新たなビジネスを展開したり、収益を上げていく企業が主役となる可能性があります。
足元の米アップル株の動きからは、強固な顧客接点とプラットフォーム(ソフトウエアやサービス)を有し、価格決定力を持ち、自社の投資負担が軽めで高い利益率の維持が見込めるなどのイメージを描きやすいといったアップルの強みが反映された、AI相場の「次のフェーズ」を見据えた動きの表れなのかもしれません。
(土信田 雅之)

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