ベッセント米財務長官の介入が招く市場の混迷と、レイ・ダリオ氏が警告する「死のスパイラル」。不安が渦巻く相場で、個人投資家はいかに資産を守るべきか? 直近の市場見通しと、今取るべき具体的な防衛策を解説します。


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金利上昇を止めたい米政府、度重なる市場介入も「効果薄」のワケ…長期金利の低下を妨げる「二つの根本原因」
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サマリー

●ベッセント米財務長官の長期金利抑制策は、かえって市場の警戒を呼び起こす「藪蛇(やぶへび)」か?
●市場の不安に追い打ちをかけるレイ・ダリオ氏の「死のスパイラル」とは?
●「死のスパイラル」に際しての投資家としての防衛策は?実際のリスクと相場対応は?


ベッセント米財務長官の「藪蛇」

 市場の不安は今、メモリー・半導体株の自律調整からAI株相場全般に、そして、債券、通貨へと広がっています。特に最近、ベッセント米財務長官が矢継ぎ早に行っている為替・債券市場への介入が、かえって「藪から蛇」の様相を呈している状況です。


 市場参加者たちは、ベッセント氏が取るアクション一つ一つの点を線へと連ねて、その意図、効果に疑念を抱くようになっています。そして、神経質な市場は、その疑念自体におののき、右往左往する場面が増えてきました。


 では、ベッセント氏が落とした点と点はどのようにして線となるのでしょうか。また、その不安を呼ぶリスクの実現度はどう評価すべきでしょうか。そして、そのリスクが当面の市場をどのように動かし、投資家はどう対処すべきでしょうか。一つずつ見ていきましょう。


ベッセント氏のアクションと意図…その効果は?

 まずは、彼の一連のアクションを順に追ってみましょう。


1. 日米協調の円買い介入

 160円台前半でドル高・円安を抑止しようとする日本当局の為替介入に対し、ベッセント氏は支援を表明し、協調介入に踏み切りました。その際、日本の介入資金として、スワップラインの利用を承諾しています。そして、米当局の実際の為替介入は、ユーロ売り円買いで実行されました。


 日本に対するスワップラインの提供は、日本側が介入用のドル確保のために保有する米国債を大量売却させないためと目されました。また、ドル円ではなく、ユーロ円で介入したのは、米国自身がドル安誘導しているとの心証を市場に与えないためと考えられます。


2. 長期国債バイバック(買い戻し)の増額

 続いて、ベッセント氏は流動性が枯渇しやすい10~30年国債の買戻し規模を、最大20億ドルから40億ドルへ拡大すると表明しました。これは債券市場への直接介入です。


 ただし、政府による国債買い戻しは、中央銀行による国債購入とは意味合いが違います。中央銀行の国債購入は、新たな通貨を発行して購入代金として市中に供給すれば、量的金融緩和(QE)となります。これに対して、政府の場合、長期国債の購入資金を調達する必要があり、常道としては、短期国債で行うと考えられました。


 つまり、短期国債発行(売り)と長期国債購入のセットで行うため、市中の資金量には中立的、金利は長期ゾーンがいったん下がるにしても短期ゾーンが上がりやすくなるでしょう。


3. 財政健全化計画の発信

 それを見越した市場では、長期国債の金利がバイバック倍増の公表後に下げた分を次第に揺り返していきました。このため、ベッセント氏は、新たな財政健全化計画を策定すると表明し、市場の不安を和らげようと試みています。


4. 政府のFRB当座預金(TGA)の活用

 さらに、ベッセント氏は、長期国債の買い戻し原資として短期国債を追加発行(短期金利を上昇させる要因)するのではなく、米連邦準備制度理事会(FRB)に置いた約9,500億ドルの政府預金を取り崩して充てる方針と、一部メディアで報じられています。この場合は、FRBに預金された資金が市中に供給されることになります。


 もっとも、これらの市場介入の効果は「一時的」と考えられます。なぜなら、債券金利を高める「巨額の財政赤字(国債発行)」と、「AI分野の巨額の資金需要(社債発行)とのバッティング」という根本問題に変わりはないからです。


 買い戻しの増額や、TGA預金の取り崩しは、短期金利の上昇を抑えつつ、市場に資金供給する即効性があることは認めます。しかし、預金にも限りがあり、最終的には国債の再発行によって補填(ほてん)しなければならないでしょう。


 根本問題に解決のメドが立たない限りは、投資家が求める上乗せ金利(タームプレミアム)は下がりません。

このため、一連の市場介入はテクニカルなものであり、時間を稼ぐ応急処置に過ぎないと判断されます。


不安に追い打ちをかけた人物

 市場が、ベッセント氏の長期金利抑制措置の効果に疑念を抱き、財政赤字(政府債務)の先行きを不安視する中、追い打ちをかけたのはレイ・ダリオ氏です。


 彼は、世界トップ級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であり、歴史的な債務危機の研究で知られます。


 そんな彼が、「債務危機に至る典型的な失敗事例」として挙げているのが日本です。そして、米国も、欧州も、適切な対応がとられなければ、今後3±2年のうちに、債務危機が起こり得ると警鐘を鳴らしています。


 また彼は、政府が債務不安に際して、「債務のマネタイズ」と、それに伴う「死のスパイラル」という流れにはまるリスクを挙げていました。


 それは、「返済のための新規国債の大量発行」→「国債の供給過剰による金利上昇」→「中央銀行による国債の買い支え(マネタイズ)」→「通貨価値下落とインフレ」→「さらなる国債売り(金利上昇)とインフレ」という順で進行します。


 債務問題への根本的な解決策としてダリオ氏が挙げるのは、増税、歳出削減、デフォルト(債務整理)など、国民にも政治家にも痛みを伴うものばかりです。当然、日本をはじめ各国の政治家はそれらを選択せず、マネタイズによるインフレを採用しがちと指摘します。


日本が「最大の失敗事例」とされる理由

 では、ダリオ氏が日本を「最大の失敗事例」として挙げる根拠はどこにあるのでしょうか。


 彼が指摘するポイントは、まず、日本銀行による過剰な国債の買い支え(債務のマネタイズ)です。それによって、形式上のデフォルトは免れたものの、円安やインフレを通じて通貨価値が目減りしています。つまり、日本国民は、購買力の低下という形で、表面化しないコストを支払わされているというのです。


 ただし、筆者は、日本について四半世紀にわたるデフレ克服を果たさなければ、経済社会はさらに長期にわたる閉塞(へいそく)状況に押し込まれたままになり、一段と厳しい債務負担にあえぐリスクを高めたと、考えています。


 日本がインフレ体質を取り戻せば、脱デフレのために講じた諸施策の後始末を迫られ続けることは想定されたことです。


 脱デフレによって、日本は企業収益の改善、株高、賃上げの好循環を実現しています。その延長線上で、財政積極化を進める高市路線か、債務危機の回避へ緊縮路線か、日本国民は選挙によって選択をしました。


 今に至って失敗事例と指摘されていますが、これに同調しても何も始まりません。筆者の政治的存念はともかく、難しいかじ取りを覚悟で前進するしかないと考えるのですが、いかがでしょう。


「死のスパイラル」と個人投資家の防衛策

 ダリオ氏が指摘する「死のスパイラル」、すなわち、「高金利 → 債務増加 → 通貨増刷 → インフレ・通貨安 → 投資家の国債離れ → さらなる高金利・増刷」という悪循環が現実化する世界において、個人投資家がとるべき防衛策はどのようなものになるでしょうか。


1. インフレ進行下では、債券(特に先進国国債)の保有比率を下げます。ただし「インフレ連動債」の活用は検討対象です。


2. 中央銀行が自由に増刷できない資産へ投資資金を退避させます。ポートフォリオの10~15%程度を「金(ゴールド)」とすることや、ボラティリティに配慮しつつ「ビットコイン」を数%程度保有することが有効なヘッジとなるでしょう。


3. 通貨価値が下がっても価格転嫁できる優良企業の株式、エネルギー・鉱物などのコモディティ、健全な財政を持つ資源国の通貨・資産へ分散投資します。


4. インフレ下では現金の価値も目減りするため、現金保有のリスクを意識して、生活防衛資金以外の余剰資金は「価値を保ちやすい資産」に振り向けます。その上で、特定の資産に偏らないよう、段階的にリバランスを行いましょう。


市場の見通しと対応

 筆者は長年、レイ・ダリオ氏の主張、著作に敬意を抱いています。ただし、現実の相場対応において、彼の主張をどこまで受け入れるかは別問題です。


 ダリオ氏は、債務問題の研究者として、彼が考える危機の条件が見えてきた時には、強く警鐘を鳴らします。最近のように、株も債券も調整反落地合いにあると、投資家はダリオ氏の主張に神経質になるでしょう。


 まして今回は、ベッセント米財務長官の「藪蛇」に対して、ダリオ氏の主張が追い打ちをかける格好です。市場は時に、不安が高じて、株式や債券に暴力的な相場急落をもたらすことがあるだけに、筆者は情勢を注意深く観察しています。


 もっとも、ダリオ氏は「今すぐに債務危機が起こる」と指摘しているわけではありません。このまま適切な手が打たれなければ、今後3±2年の間に債務危機が起こり得るとしています。最短で1年とみれば、「今そこにある危機」ですが、筆者は少なくとも、米国でも、日本でも、長期金利は上がっていますが、債務危機の水準にはまだほど遠いという認識です。


 市場は同じ悪材料でも、下げ相場の時には殊更(ことさら)に悲観的に解釈し、上げ相場になるとケロリと無視したり、好材料のように曲解したりするものです。最近のベッセント氏の「藪蛇」もダリオ氏の話題も、下げ相場だからこそ悲観に傾斜して解釈されたともいえるでしょう。


 とはいえ市場は、政府債務への不安と、AI企業の巨額債券発行の着地点を、簡単には見いだせないと考えます。

筆者は、6月下旬をピークとしたAIテック・半導体相場の調整が収束するのに、3~6カ月という見立てを出してきました。


 今この債務問題が重なることで、年末まで、AI株相場は大きめの高下を繰り返す波動展開をイメージしています。まずはスイング投資を軸に、ポジショニングしていく構えです。


*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。


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(田中泰輔)

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