名古屋証券取引所の新規上場数が増加基調を続けている。東京証券取引所との重複上場に加え、「個人投資家との対話」を重視する姿勢を打ち出し、企業の多様な上場ニーズを取り込んでいる。

IR拠点としての機能を強化する名証の戦略について、竹田正樹社長に聞いた。


名古屋証券取引所、個人投資家と企業つなぐ「IR拠点」へ【名証...の画像はこちら >>

上場数の増加基調続く

__近年、名証の新規上場企業数が増加傾向にある。


 2025年の新規上場企業数は30社と、歴史的な高水準だった。東京証券取引所の市場区分見直しに伴う経過措置が終了し、名証を重複上場先として選ぶ企業が増えた、という影響は確かにあるが、決してそれだけではない。名証が個人投資家を重視し、IR支援に力を入れている市場であることが広く知られるようになったことを実感している。


「名古屋の企業しか上場できない」という誤解も一部であったが、全国に開かれていることを地道にPRしてきたおかげで、中部圏外からの上場も増えている。コロナ後に一時的に落ち着いた新規株式公開(IPO)ニーズも再び増加傾向にあり、複数の要因が上場企業数の増加につながっている。


 2026年の新規上場は17社(9月18日時点、公表ベース)と、昨年に近い水準で推移している。東証の基準見直しに伴う上場数増加の影響は一巡しているが、ここで大きく減ることなく増加基調が続いているのは、名証がどのような市場かという認知度が高まり、選んでいただけている成果だといえる。


__足元のIPOの動向と、企業が名証を選ぶメリットは。


 これまでの低金利環境では上場後すぐに資金調達を必要としないケースが多かったが、足元では金利上昇で資金調達が難しくなっており、上場によるファイナンスが改めて重要な手段として意識されつつある。


 中部はコア経済圏としてのポテンシャルがあり、あらゆる産業の事業戦略において重要な地域だ。名証への上場を機に中部に拠点を開設し、事業を急拡大させた事例もある。


 企業の中には、将来の東証上場を見据え、まずは名証ネクストで着実に成長したいというニーズもある。企業の成長ステージに合った選択肢として選んでいただけるよう、新興企業へのPRに力を入れたい。


__東証のプロ投資家向け市場「TOKYO PRO Market」から、次のステップアップ市場として名証を選ぶ企業が増えている。


 プロマーケットは東証のほか札幌証券取引所や福岡証券取引所にもあり、名証にはない。新たに同様の市場を設けるよりも「既に形成されているプロマーケットから名証へ」という流れを大切にして、ニーズに応えていきたい。


__東証との上場基準の違いとして、名証には流通株式時価総額の基準がない。


 企業からすると、オーナー色を残しつつ上場できるという選択肢になる。


 もちろん、流通株式時価総額は機関投資家の大きな関心事だ。持ち合い株の解消が進む中で、個人からの投資を増やしたいと考える企業は増えている。個人投資家は比較的長期で株を保有する人が多く、企業と個人投資家との接点を増やすことは重要だ。


名古屋証券取引所、個人投資家と企業つなぐ「IR拠点」へ【名証・竹田正樹社長】
「個人投資家を重視する」という特色を示していきたいと話す竹田社長

「個人投資家を重視する市場へ」名証の存在意義

__地方証券取引所として、名証が担うべき役割は。


 二つの重要な柱がある。一つは、中部地域の企業成長を支え、中部経済の発展に寄与すること。

もう一つは、「個人投資家を重視する市場」という独自の特色をしっかり示し、企業に上場先として選ばれることだ。


 地域密着企業の成長を支え、企業と個人投資家を結びつけるIRサポートという存在意義を示すことで、企業や投資家にとって欠かせないインフラ機能を強化していきたい。


__2026~2028年度の3年間における中期経営計画で、「名証ブランドの確立2.0」を掲げている。


 名証の特色や上場メリットを多くの方に理解していただくため地道に取り組んできたことで、一定の成果を実感している。今後は認知度向上の取り組みを継続するとともに、個人投資家から信頼を得ることも重要だ。


 上場審査をはじめとする市場運営の信頼性確保に努め、審査すべき点は厳格に審査する。「しっかりと信頼できる市場でありながら、独自の特徴がある」と評価されるブランドを確立していきたい。


__名証IR Expoが12月に開催される。


 名証IR Expoは30年以上の長い歴史を持ち、投資家と企業が直接対話できる場として定着している。昨年の来場者数は過去最高の1万人を記録し、講演会場は立ち見の方で埋まるほどの盛況だった。


 最大の特徴は、純粋に投資先としての企業情報を求めて来場する人が多いことだ。一般的なイベントではノベルティで集客を図るケースも多い中、当イベントには過度に販促品へ力を入れずとも熱量の高い投資家が集まる。

出展企業からも大きな手応えを感じていただいている。


__その他、個人投資家との接点を増やすための取り組みは。


 対面だけでなくSNSやオンラインコンテンツの充実にも注力している。昨年、テレビ愛知と開設したYouTubeチャンネル「あしたのマネー」では、若年層の金融リテラシー向上と次世代の投資家育成に向けて情報発信している。名証オンラインTVでは、相場環境が大きく変化した局面で専門家による緊急解説を行うなど、個人投資家が求める情報をタイムリーに届けている。


 投資への関心が高まる中、高校や大学へ講師の派遣も行っている。投資教育を通じて金融リテラシーの向上に寄与するとともに、名証の存在を知ってもらう機会にもつなげたい。名証の仕組みや特色を全国へ発信するため、地道な取り組みを続けていく。


「着実」な中部の投資家、企業との対話をサポート

__中部の個人投資家の特徴は。


 中部地方には富裕層が多い。肥沃(ひよく)な濃尾平野を基盤に、長い年月をかけて形成されてきた地域の資本ストックや、300年以上続く企業の存在も、中部の経済的な厚みにつながっている。


 一つの特徴として、投資スタイルに着実さがあるといわれている。

短期の成長を強く求めるのではなく、着実な配当を求めたり、企業の歴史や地域との関わり、事業そのものの価値を重んじる傾向がある、との見方だ。


 企業価値を判断する基準は一つではない。資本効率や株主還元を重視する考え方もあれば、従業員、取引先、地域経済を含む幅広いステークホルダーとの関係を重視する考え方もある。愛知を代表するトヨタ自動車が「国内生産300万台を死守する」との方針を掲げているのもそのためだ。


 だからこそ、企業と投資家が十分に対話し、納得できる方向性を探ることを支援する市場でありたい。


(佐々木 閑)

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