夜に飛行機に乗った場合、離着陸の前のタイミングで客室の照明がスッと落とされることがあります。窓の外にはキラキラと光る街明かりが見え、対照的に機内はうすぼんやりとした薄暗さに包まれます。
JAL(日本航空)広報部は、過去の取材時に「何らかのトラブルが生じた際に客室内の照明が消える場合があります。万が一、そのような事態になったときでもすぐに動けるよう、目を暗さに慣らしておくためです」と説明をしています。
また、中国のエアチャイナ(中国国際航空)は公式Xで「明るい環境から暗い環境への目の適応には多少の時間が掛かりますから、もしも着陸時に緊急事態が発生した場合、迅速に空港用ランプや避難口の誘導標識を認識し、かつ対処できるよう目を慣らすためです」と解説していました。
これら2つの説明が示すとおり、機内の照明を消すということは“非常時に備えて目をならす”ためなのです。体と心をリラックスさせられそうな雰囲気は、あくまで副産物的なものなのでしょう。
では、暗い状態に対して目を慣らしておく理由とはなんでしょうか。
カギは“暗順応”と“魔の11分間”暗い場所に入ってすぐの状態では、眼の前が何も見えなくなるという経験をした方もいるでしょう。たとえば映画館に入った直後に、足元が見えずにつまずいてしまいそうな感覚です。
暗くなった環境で、目がその暗さに慣れるまでには一般に10~30分ほど、完全に適応するにはさらに時間がかかるとされています。この現象を医学や生理学では「暗順応(あんじゅんのう)」と呼びます。
夜間のフライト時に突然航空機にトラブルが起きて、やむを得ず暗い環境で不時着するとしましょう。
そこで航空業界では、離着陸前にあらかじめ機内を暗めにしておくことで、乗客の目を外の闇に近い状態に慣らしておく工夫を採り入れているのです。
この措置が取られる背景には「魔の11分間」と呼ばれる航空業界の言葉があります。離陸滑走開始から3分間と、着陸前の8分間を合わせた11分がその時間とされています。航空機事故の多くは、離着陸の際のこの短い時間帯に集中するとされるのです。この“危険な11分間”に事故が起きてもすぐ動けるよう、照明を落として備えているのです。
同じ理由で、乗務員は離着陸時に窓の日よけ(シェード)を上げるように案内します。外の光の状況に目を慣らして、万が一のときに外の様子をすぐ確認できるようにするためです。
ただし、すべての航空会社で機内照明を暗くする運用が、ルールとして定まっているわけではありません。国内企業ではJALは会社ルールとして採り入れていますが、ANA(
全日空)はとくにルールを設けていないとのことです。
夜の空の旅でふっと消える機内照明は薄暗さを際立たせます。そのぼんやりとした明るさは、万が一のときに数秒でも早く脱出するための“知られていない安全策”だったのです。

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