ファミリーコンピュータやアーケードゲームの時代にも多くのレースゲームが存在しましたが、グラフィックの表現には制約がありました。画面に表示されるのは「レースをする車両みたいなもの」であり、現実のような車両を描くのはまだ難しい状況でした。
しかし、ゲームハードの性能が向上し、ポリゴンで構成された3Dモデルが空間に表示されるようになると、レースゲームのリアリティは一気に引き上げられました。これにより、現実の車両に近い形状や色味を模して表現することが可能になったのです。
ここから、ゲームにおける「実車」の取り扱いが本格化します。特にリアル路線を売りにするゲームには、実車に近い形状の車両が多く登場するようになります。『PlayStation』や『セガサターン』がリリースされた1990年代中頃のゲームでは、実車を登場させつつも、商標やライセンスの問題からか、名称を微妙に変更して登場させるといったケースが散見されました。
時代が進み、『Playstation2』がリリースされる頃になると、より一層リアルな表現が可能となります。この時期を境に、「登場車種を実名、実デザインで出す為に、自動車メーカーから正規にライセンスを取得する」という方式が業界の主流になりました。これは、メーカーから堂々と権利を取得することで、「正当な許可を得てゲーム内に車両を出している」とアピールできるためです。
こうして実車がゲーム内に登場する機会は増えた一方で、ゲーム製作のコストは急激に増加しました。また、表現が現実的になったことで、メーカー側が「アザーカー(一般車)と衝突・走行する」「車体が激しく損壊する」といったゲーム内の描写に難色を示すケースが出て来るようにもなります。これにより、ユーザーの好きなクルマがゲームに登場しない事態が度々発生する、一種の“冬の時代”が到来することとなりました。
ちなみに、自動車メーカーの「ポルシェ」は、アメリカのゲーム会社「エレクトロニック・アーツ(EA)」と専属のライセンス契約を締結。
長らくクローズドだったライセンス事情ですが、2010年代後半に入ると状況は大きく好転します。ゲームが社会的に一定の地位を獲得し、単なる娯楽ではなく「強力なコマーシャル(宣伝)ツール」としても機能すると自動車メーカーの間で認知され始めました。
その結果、先述したポルシェの独占契約終了に伴う他作品への解禁や、従来は出演に消極的だった日本メーカーの車種などが続々と登場するようになります。特にトヨタやホンダは、昨今の主要なレースゲームにおいて、最新モデルから往年の名車に至るまで積極的に車両展開を行っています。
この方針転換の背景には、ゲームが若者を中心とした層への広告塔として機能することに加え、昨今問題視されている「若者のクルマ離れ」に対する揺り戻し(購買意欲の喚起)を狙っているという切実な側面があるからです。実車に対する憧れや魅力を、ゲームを通じて訴求することが、メーカーにとってもプラスに働くと判断されたと考えられます。
2026年5月19日にマイクロソフトからリリースされた『Forza Horizon 6』では、日本をはじめ、世界中の自動車メーカーが自社モデルを同作に登場させました。広大なオープンワールドを舞台に、圧倒的なクオリティで再現されたこれぞという1台に巡り合ったユーザーからは、SNS上で「実車でこの目で見てみたい」と、現実のクルマに対して強い興味を示すような声が複数上がっています。
完成度の高いレースゲームが、単に仮想世界での娯楽で終わらず、ユーザーの実車購入やファン化の背中を押す「アドバイザー」として機能する。こうしたシナジーこそが、今後、自動車メーカーとゲーム業界、双方が期待し、目指すべき未来なのかもしれません。

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