最新鋭空母を悩ませた「エレベーター問題」

 高層ビルではエレベーターを使います。朝夕の通勤時間帯や昼休みになると、エレベーターが来なくてイライラすることもあります。

日本エレベーター協会の設計目標では、待ち時間はオフィスビルなら30~50秒程度、マンションでは2基以上の場合で60秒以下が望ましいとされています。60秒以上待たされることを「長待ち」と呼びます。エレベーターを増やせば待ち時間を短くできるでしょうが、その分だけ建物の床面積は減ってしまいます。エレベーターのジレンマです。

米最新鋭空母に「意外な弱点」!? 戦争を左右しかねない「エレ...の画像はこちら >>

 空母も同じ問題を抱えています。しかし長待ちは「イライラする」だけでは済みません。エレベーターの待ち時間が、艦載機の出撃率ひいては作戦そのもの、戦争を左右する可能性すらあるのです。

 アメリカ海軍の最新鋭空母「ジェラルド・R・フォード」が、そのエレベーター問題に直面しました。空母は「海に浮かぶ飛行場」と思われています。しかし、艦内には艦載機だけでなく、燃料、爆弾やミサイル、航空機の部品、食料、そして乗組員と日用品まで、膨大な物資と人員が存在します。そしてそれらを限られた艦内で縦横に移動させなければなりません。空母は「巨大な立体倉庫」でもあります。

「ジェラルド・R・フォード」は、2025年6月24日に米バージニア州ノーフォーク海軍基地を出航し、ベネズエラやイランで実戦任務に従事しました。2026年5月16日に帰港しましたが、展開期間326日というのは異例の長さです。ところが戦争省の運用試験評価局(DOT&E)の年次報告書で、公試(新造艦が設計どおりの機能、各種装備の性能を発揮できるか、実際に海上で確認する試験)が完了していないことが明らかになりました。

 追試験が必要とされているものの一つが、艦載機をどれだけの頻度で発着艦させられるかを測る「出撃率(SGR)」の実証試験です。フォード級はニミッツ級から飛行甲板の設計を見直し、電磁式カタパルト(EMALS)と先進着艦装置(AAG)を採用して前級を上回る出撃率を目指しました。ところが、EMALSの信頼性や整備性の問題が解決できていないとDOT&Eが指摘しています。

 さらに8月13日、トランプ大統領が計画中のフォード級4番艦からEMALSを止め、従来の蒸気式カタパルトに戻すよう命じたと報じられています。トランプ大統領は以前からフォード級が「うまくいかない最新技術に固執しすぎている」ことに不満を示していました。

 EMALS以外にも最新技術で悩みの種となっていたのが、「先進兵器エレベーター(AWE)」です。目立たないですが出撃率に直結する「長待ち」問題を抱えていたのです。

制約が多い空母のエレベーター

 艦載機の兵器は、艦内深くにある弾薬庫から兵器取扱エリアを経て格納庫へ、さらに飛行甲板へと運び上げられ艦載機に搭載されます。その縦方向の物流を支える設備が兵器エレベーターです。

エレベーター乗場でミサイルや爆弾が順番待ち渋滞をしていたら艦載機の出撃は遅れます。

 フォード級のAWEの特徴は駆動方式にあります。ニミッツ級の兵器エレベーターは、建物のエレベーターと同じように、巻上機で釣合い重り(カウンターウエイト)の付いたワイヤーロープを巻き上げ、「かご」を上下させる方式でした。しかし、空母には建物とは異なる設置条件があります。

 空母のレイアウトには制約も多く、乗り場と昇降路、巻上機をどこに配置するかが問題になります。そこでフォード級が採用したのが、リニアモーター方式です。従来のワイヤー式に比べ、電磁式のリニア同期モーターを使うことで、エレベーターをより高速かつ大容量にできるのが特徴です。フォード級のAWEは最大約10.9tの兵器を毎分約45.7mで搬送でき、ニミッツ級の約4.8t、毎分約30.5mを大きく上回ります。

 エレベーターといえば、完成された「枯れた技術」のように思えます。しかし、空母という特殊な環境に最新技術を組み込むのは、簡単ではありませんでした。AWEは開発段階から難航しました。

 要因は新型の駆動方式だけでなく、防爆扉、安全装置、ソフトウェア、艦体のたわみなど複数の問題が複雑に絡んだものでした。

「ジェラルド・R・フォード」には、AWEが11基搭載されていますが、2017年7月の就役時に稼働していたのは4基だったとされ、11基全てが認証されたのは2021年です。

 11基のうち4基しか動かなければ、当然ながら「長待ち」が発生します。ここで思い出されるのが、太平洋戦争中のミッドウェー海戦です。日本海軍の艦載機で生じた魚雷と爆弾の兵装転換作業の混乱が戦況に影響を与えたといわれます。単純比較はできませんが、「艦載機に必要な兵器を、限られた時間内にどれだけ効率良く供給できるか」という問題は、空母にとって重要な課題なのです。

 飛行甲板からステルス戦闘機F-35Cが轟音とともに発艦する画は、アメリカの力の象徴です。しかし、その華やかな光景を陰で支えているのは、艦内を黙々と上下するエレベーターです。最新技術、枯れた技術に関わりなく、必要な時に動き続けることができる物流システムが連接して初めてF-35Cは出撃できます。電磁式カタパルト以前の問題です。

【写真】空母の兵器エレベーターを見る

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