夏休みの帰省時などに高齢の親と話し合っておきたい相続税の問題。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「4800万円以上の遺産があると相続税がかかり、自宅の相続にも課税されるが、親の生前から計画的に税金を減らす方法はある」という――。
(第5回)
※本稿は、荻原博子『定年後のお金の悩み、解決します』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
■不動産価格急騰時代の相続税対策
2世帯住宅にすると相続税対策になる、という話をよく耳にするのではないでしょうか。特に都心では、それほど大きくない家でも数億円の評価額がつくことが珍しくありません。そのような場合、建て替えのタイミングで2世帯住宅にして、子ども夫婦と一緒に住むことは大きなメリットになります。
2世帯住宅にして同居すると「小規模宅地の特例」という制度を活用できる可能性があります。この制度は、一定の広さまでの敷地であれば、同居している子どもが相続する際に、その土地の評価額を最大で8割ほど下げることができるというものです。
■家の中がつながってなくてもOK?
以前は、玄関が共通であったり、家の中のドアで行き来できたりすることが条件でしたが、今は、アパートの1階と2階のように完全に分かれた構造であっても、この特例が認められるようになっています。
そのため、親が亡くなった後は、空いた階を他の人に貸し出すことも可能です。そうすれば、相続税の対策になるだけでなく、自分たちの老後の貴重な収入源にもなります。
このように2世帯住宅は、親から子へと資産を上手に引き継ぐだけでなく、その後の生活を支える仕組みとしても非常に有効な選択肢と言えます。
■生前贈与で賢く節税する方法
相続税のことをもう少し考えるなら、生前贈与についても知っておいた方がいいでしょう。もしも、資産が4800万円より多く1億円以下であれば、毎年少しずつ贈与を続けていく方法が有効です。

年間110万円までは贈与しても税金がかからないので、この範囲内で子どもや孫へ、コツコツと贈与を続けていくのです。
ただし気をつけたいのは、亡くなる前の7年間に行われた贈与は、相続財産として数え直されてしまうということです。
■小分けで早めに贈与するのがコツ
例えば、90歳で亡くなった人が80歳から10年間、毎年110万円ずつ子どもに贈与を続けていたとします。この場合、亡くなる前の7年分にあたる770万円は、無税の贈与としては認められず、相続税の対象に含まれてしまいます。無税の贈与として認められるのは、それより前の3年分にあたる330万円だけ。ただし、財産を相続しない孫や兄弟姉妹の場合は大丈夫です。
だからこそ、生前贈与はできるだけ早く始めておくことをおすすめします。早く始めて、できるだけ長生きをすることで、税金のかからない贈与の枠を最大限に活かすことができます。
■死去7年前からは相続税の対象に
また、この制度はあげる側ともらう側が、お互いに納得していることが条件になります。孫に贈与する場合は「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう」と受け取る孫の意思が確認できなければならないため、生まれたばかりの孫への生前贈与は不可、ということになります。
子どもや孫、兄弟姉妹などに毎年贈与を続ければ、10年で数千万円という大きな金額を、税負担を抑えながら移すことができます。7年間、さかのぼる期間があることを考慮すると、思い立った時に、1日でも早く始めるのがいいでしょう。

■投資より先に見直す「預け先」
お金はどこに預けたらいいのかというと、今はまだ銀行預金でいいと思っています。必要な時にすぐにお金を引き出せる状態であることが大切です。
今の時代、どこの銀行も金利は似たようなものです。そんな中で、もし金利3%という話を聞いたら、それは詐欺か、あるいは裏があると思った方がいいでしょう。
例えば、高い利息を保証する代わりにリスクのある投資信託とセットで契約させられたり、仕組み預金という名のリスクがある商品に誘導されたりします。常識的に考えて、今の普通預金の金利が1%を超えることはまずありません。
■1%以上の優遇金利を得られる場合も
ただし例外として、高齢者に対して、年金受取口座に指定すれば1%にするというような優遇はあります。銀行側からすれば、年金の受取口座にしてもらえれば、引き出しや振込の手数料、あるいはその他の取引で収益が得られる見込みがあるからです。
そのような合理的な理由がない場合は、他の商品との抱き合わせや、元本割れのリスクを伴う運用商品がセットになっているなど、何かしらリスクがあると考えるべきです。低金利時代の今、1%か1%未満というのは妥当な数字であり、むしろ安心できるかもしれません。
■タンス預金にはないメリット
なぜお金を銀行に置いておくのがいいのかというと、まずオレオレ詐欺などの犯罪対策になるからです。
そういうと「詐欺に引っかかるのは高齢者だけ」「自分は大丈夫」と思う人も多いでしょう。
けれども、実際には手口も巧妙になってきて、50代で被害に遭う人は決して珍しくありません。犯人は、「今すぐ300万円用意しないと会社をクビになる」などと子どもを思う親心につけ込んで、冷静な判断力を奪おうとしてきます。もし手元に現金があれば、せかされるままにそのお金を受け子に渡してしまいかねません。
■オレオレ詐欺の多くは銀行で発覚
けれども、家に現金がないから銀行に行って下ろしてくるとなると、今は窓口で「何に使うのですか?」と確認されます。ATMでは一度にそんな大金は下ろせませんし、窓口で事情を話せば「それは詐欺ではありませんか?」と声をかけてもらえます。実際、オレオレ詐欺の約9割は銀行の窓口で発覚していると言われるほどです。
また、タンス預金を銀行に預けようとしても、マネーロンダリングへの警戒から、すんなりと預かってもらえないケースも増えています。いきなり大金を持って行っても、それが正当な方法で得たお金であることを証明するのは難しいからです。
利息がつかないからと家に置いておくより、銀行に預ける方が、将来的に身の安全とお金を守るための合理的な選択になるかもしれません。
■銀行を最大限に利用する方法
今の時代、銀行は「安全に、しかもタダでお金を預かってくれて、ちょっと利息がつく金庫」と考えるのが正解です。
ただし、今は銀行にお金を預けに行っても、それほど歓迎はされません。大手銀行などは本音を言えば、あまり預金を持ってきてほしくない。
なぜなら、低金利の中では、銀行側にとっては預金こそがリスク商品だからです。リスクがないのは、利用者の方なのです。
銀行は、預かったお金に利息をつけ、さらに人件費やシステムの維持費をまかなうために、そのお金を運用して増やさなくてはなりません。けれども、運用には常にリスクがつきまといます。だからこそ、大手の銀行は預金を預かるよりも、別の方向へ利用者を誘います。
■銀行員の営業トークに乗ってはいけない
銀行の窓口に行くと、よく「今は低金利で預けていても増えませんから、投資信託にしませんか」とすすめられるでしょう。これは、投資信託が銀行にとってノーリスクの商品だからです。
投資信託であれば、運用で損をしてもそれは利用者の責任で、銀行側は販売手数料や管理手数料を着実に受け取ることができます。銀行にとっては、預金を運用するよりも、投資信託を売って手数料をもらう方が、安全で儲かるのです。
そう考えると、銀行は高いセキュリティを備えた安全な金庫で、さらにガスや水道、電気代の引き落としまで管理してくれるありがたい存在と言えます。銀行預金の口座に、ある程度のいつでも引き出せるお金を入れておくといいでしょう。

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荻原 博子(おぎわら・ひろこ)

経済ジャーナリスト

1954年、長野県生まれ。
経済ジャーナリストとして新聞・雑誌などに執筆するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとして幅広く活躍。難しい経済と複雑なお金の仕組みを生活に即した身近な視点からわかりやすく解説することで定評がある。「中流以上でも破綻する危ない家計」に警鐘を鳴らした著書『隠れ貧困』(朝日新書)はベストセラーに。『知らないと一生バカを見る マイナカードの大問題』(宝島社新書)、『5キロ痩せたら100万円』『65歳からはお金の心配をやめなさい』(ともにPHP新書)、『年金だけで十分暮らせます』(PHP文庫)など著書多数。

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(経済ジャーナリスト 荻原 博子)
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