やっぱり怪物だな──。ボールを託す側は、そう思わずにいられなかった。
7月17日の「ACNバレーボールネーションズリーグ2026男子大阪大会」3日目、ベルギー戦でスタメンを飾ったのは22歳のアウトサイドヒッター、甲斐優斗(大阪ブルテオン)だった。
前日のカナダ戦、前々日のイタリア戦で、ともにフルセットの激闘を演じ、加えて、すでにファイナルラウンド進出を決めていたことも背景にあっただろう。この日、石川祐希(ジラート・バンク・アンカラ/トルコ)や髙橋藍(ボグダンカ・LUK・ルブリン/ポーランド)ら、これまでのレギュラーメンバーたちは温存された。そのぶん、甲斐は「自分が一番元気だと思ったので」と、意気揚々とコートに立っていた。
そうはいっても、今大会においてはこの試合が初スタメンである。相手のベルギーには、世界で指折りのオポジットと評されるフェレ・レッガーズがいた。ローテーションの関係で、甲斐は前衛でマッチアップする形になり、セッターの深津英臣(ウルフドッグス名古屋)は少しばかり案じながらトスを上げていた。
「相手は世界的にもすばらしい選手ですから。そこで甲斐にトスを上げたらどうなるのかな?と思いながらセットしたボールは何本かありました。ですが、もう相手(レッガーズ)のブロックに対して、(甲斐は)何も臆することなくスパイクを打っていましたね。やっぱり怪物だな、すごいなと思いました」
第1セット序盤、3-2の場面で甲斐は、ベルギーのレッガーズ(身長204cm)とミドルブロッカーのサミュエル・ファフシャン(身長201cm)の2枚ブロックに対し、冷静にブロックアウトを取ることで、自身にとってこの試合最初の得点を挙げた。以降もブロッカーが複数枚つこうとも腕を振り抜き、得点を重ねていく。
第1セットだけで9得点。終わってみればチーム最多18得点を叩き出す活躍で、無傷の開幕11連勝の立役者となった。
【無表情でえげつないアタック】
甲斐のプレーに、深津は感嘆の声を漏らした。
「怖い、ですね。無表情でえげつないプレーをしてきますから。対戦相手としても怖いですけれど(笑)、味方としても、見ていて『おぉ!!』と思わず時が止まるような場面がある。そこは頼もしいなと感じています」
ベルギー戦でも、そのあまりのすごさに「時が止まる」瞬間があった。
第3セット中盤、18-13の場面で大塚達宣(パワーバレー・ミラノ/イタリア)のサーブレシーブが乱れ、リベロの山本智大(大阪ブルテオン)がアンダーハンドでレフトにいた甲斐へ二段トスを上げる。
ベルギーとしては、3枚ブロックでしっかりと仕留めにいくシチュエーション。そこで甲斐はストレート方向に、サイドライン上へ着弾するスパイクを決めきってみせたのである。ほんの一瞬、会場が静まり返り、すぐさま歓声が上がったなか、「無表情でえげつない」アタックを決めた甲斐は、満面の笑みでチームの輪に加わった。
そのシーンに代表されるように、思いきりのいいプレーで得点を量産した甲斐の姿を、対角に入っていたアウトサイドヒッターの大塚はこのように評価する。
「打点も高いですし、自分自身が最もインパクトできる位置でしっかりとボールを叩き続けられる。
またチームとして戦う際に、それぞれの選手が考える『どの部分でがんばるか』は常々変わってくるものですが、今日でいえば甲斐選手にとって得点することが最も求められていました。この試合、日本のトップスコアラーですよね。それはチームとしても最適な形で戦えた証だと思います。
自分たちのコートにボールがある時に、その状況をしっかりとコントロールできたからこそ、アタッカー陣がいい状態でアタックを打てました。そこが大崩れすることなく、リードされても逆転する戦い方ができた点に、個人的には満足しています」
今大会はまだ出場機会が多いとはいえない甲斐だが、それでも、いざコートに立った時に力を十二分に発揮できる環境を、周囲もしっかりと整えていた。それが、将来性豊かな若武者のパフォーマンスを支えている。
【穏やかそうに見えて、実は......】
守備に関してもそうだった。第3セット開始早々、甲斐はレッガーズのサーブを返せず、サービスエースを許した。強烈なサーブに対応できなかったわけだが、「いいサーブでしたからね」と大塚は認めたうえで、このように続けた。
「彼(レッガーズ)はこの試合、序盤からそれほどサーブが入っていませんでした。そういう時の彼は、コートの真ん中にサーブを集めがちなんです。
ただ、甲斐選手ともすぐに『真ん中を意識しつつアタックに入ろう。こっちにサーブがきたら頼むよ』という会話ができたので、甲斐選手もうまく切り替えることができていたのではないかと感じました」
2023年から本格的にシニアの日本代表に帯同した甲斐が当時、リリーフサーバーとしてサーブを入れただけで、あるいはコート上でディグ(スパイクレシーブ)に成功しただけで、周囲の先輩たちが歓喜していたのも、今では遠い昔の話だ。
2024年にパリオリンピックに出場し、2025年のネーションズリーグでは何度もスタメンを飾り、本人も「2028年のロサンゼルスオリンピックではエースとしてコートに立つことが目標です」と公言。普段は穏やかに見える甲斐だが、貪欲なまでに成長を求め、その胸の内に闘志を燃やしている。
あらためてベルギー戦を振り返った深津は、甲斐の試合前の様子をこのように明かした。
「ウォームアップのスパイク練習からすばらしいボールを打っていて、セッターとしても『こいつキレキレだな』と感じました。それに『俺が試合に出て活躍したい』という気持ちも伝わってきましたから。もちろん勝つためにトスを配分しますが、甲斐と一緒に勝ちたい気持ちが今日はありました」
一緒に勝ちたい──と仲間に思わせる"怪物"が今、快進撃を続ける日本代表にはいる。



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