MABP、創部2年目のトラックシーズン総括(後編)

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 昨季、創部1年目にして、いきなり全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)出場の快挙を達成したものの、本番では最下位に終わったMABPマーヴェリック(M&Aベストパートナーズ)。箱根駅伝の「3代目・山の神」こと神野大地プレイングマネージャー(選手兼監督)が率いる少数精鋭のチームに、ふたりの新卒組が加わった今季はどんな走りを見せるのか。

この後編ではトラックシーズンに好走した選手たちを紹介する。

前編を読む>>>「山の神」神野大地監督が挑む2年目のシーズンーーMABP、今季のトラックで「PB祭り」のワケ

【高校生以来となる7年ぶりのPB更新】

 今シーズン前半、MABPが6月の日本選手権以外で最も重視していた大会が、7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ(以下、ホクレン)だった。早くも年明けには千歳大会と網走大会への出場を決め、各選手が目標タイムを設定し、練習を重ねてきた。

 MABPは昨年もホクレンに参戦し、チームとして5000mなら13分40秒、10000mなら28分20秒を切ることを選手に求めた。だが、クリアできたのは、山平怜生ひとりだけで、神野大地プレイングマネージャー(選手兼監督)も「惨敗」と厳しい表情を見せていた。「前回の失敗は繰り返さない」と臨んだ今季は、8名の選手がホクレンに出場し、そのうち5名が自己ベスト(PB)を更新するなど、昨季との違いを見せた。

 7月4日の千歳大会で勢いをつけたのは中川雄太だった。5000mに出場し、初の13分台となる13分52秒55をマーク。高校生以来となる7年ぶりのPB更新を果たした。4日後の網走大会でも13分48秒46と2レース連続のPB更新。最初の記録がフロックではないことを証明した。

「7年間、長かったですね」

 中川は、長い停滞を突き破った安堵の笑みを見せた。

「本当は高校で13分台を出しておきたかったんですけど、出せずに(國學院)大学に進み、大学では5000mを走る機会が少なかったのとケガもあって、更新できませんでした。

やっぱり陸上はタイムですし、大学時代はとても苦しかったですね。でも、MABPに入って1年半でようやく13分台を出せて、高校の先生も喜んでくれましたし、(國學院大の)前田康弘監督にも(13分台を)2本揃えたところを評価していただけてよかったです」

 國學院大時代は土壇場でのエントリーメンバー変更を経験するなど、一度も箱根駅伝を走れず、苦しい時間を過ごした。だが、今は「大学時代に比べると、すごく順調です」と語る。

 今季のトラックシーズンが始まる前、中川は初マラソンを走る予定だった。2月の別府大分毎日マラソンを目指して練習を行なっていたが、レース1週間前に右膝に痛みが出て、出場を取りやめた。

「痛みでジョグをするのも難しく、神野さんとも相談して出場を見送りました。マラソン挑戦を決めたのは、僕はスピードがあるタイプではなく、長い距離を一定のペースで走るのが得意ですし、距離が長くなればなるほど自分の強みを出せるかなと思ったからです」

 膝のケガは思った以上に重く、ポイント練習ができるようになったのは5月だった。ホクレンまであまり時間はなかったが、それでもヤビツ峠(神奈川県秦野市)を走って心肺機能と筋力をパワーアップすることができた。

「峠走では、心肺の強化はもちろん、メンタル面も鍛えられました。ホクレンではペースが落ちそうなところで積極的に前に出て、ペースを落とさずに走りきれたので、練習の成果が出たんじゃないかなと思います」

 また、スピードを磨く400mのインターバル走ではタイム設定を昨年よりも大幅に上げた。

「リカバリー(1本ごとの休息時間)を少し長く取り、速いペースで粘る練習をしました。神野さんはよく『ひと波を超える』という言い方をするのですが、自分もその気持ちで毎回の練習に臨んでいました。

駅伝シーズンに向けていい流れがつくれたと思います」

 中川は昨年の東日本実業団対抗駅伝でアンカーを務め、区間9位だった。

「今年もラストの区間をまかされたら、少なくとも前回以上の区間順位で走り、貢献したいです。でも、そこが本命じゃありません。ニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)では(最長区間21.9kmの)2区で区間37位とチームに迷惑をかけたので、来年はその屈辱を晴らしたいと思っています」

【ホクレンで2年連続PB更新】

 中央大時代、やはり競争の激しさから箱根を走れなかった山平は、今季のトラックシーズンの最大の目標として、6月の日本選手権5000mでの決勝進出と入賞を掲げていた。春先から順調に練習を積み重ねてきたが、途中で貧血による体調不良となってしまった。

「疲労のせいか、風邪みたいな症状が出てしまいました。ただ、日本選手権の直前の菅平高原での合宿ではある程度うまく調整ができたので、スタートラインに立った時は予選突破をするつもりでした」

 しかし、結果は14分06秒33で組23位。昨年に続いて決勝に進めなかった。

「自分の力は60%ぐらいしか発揮できなかったです。ただ、そもそも自分の状態が万全だったとしても、予選通過できるかどうかわからないほどレースのレベルが高く、13分30秒を切らないと厳しかった。しっかりと調子を合わせなければ、勝負にならないと痛感しました」

 とはいえ、すぐに気持ちを切り替えることができた。ホクレンの網走大会で5000mのPBを更新するという、もうひとつの目標があったからだ。また、貧血の症状改善のために鉄剤を飲み続けていたが、その効果も見えはじめ、体が回復してきた。

事前の合宿も順調に練習メニューをこなし、「ある程度はタイムを狙えるな」という状態まで上がった。

「直前に(チームメイトの)中川や栗原(直央)がPBを出していて、自分は彼らよりも練習ができていたので、もっといけるだろうと思っていました(笑)」

 山平にとってホクレンは相性のいい大会だった。大学2年時には組トップを取り、3年時には5000mでPBを出した。昨年も深川大会の5000mで13分33秒85のPBをマークしており、今回も自信を持ってスタートした。

「3000m通過時点で、今日はいけそうだなと思いました。でも、ラスト2周からはかなりきつくて、ラスト1周は全然上がらず、太ももがパンパンでいっぱいいっぱいでした。それでも、1秒(※1秒78)でもPBを更新できたのはよかったです」

 最後まで粘りの力走を見せ、13分32秒07のPBをマークした。

「2年連続でPBを出せたのは、練習の成果です。ポイント練習の内容は昨年とそれほど変えていませんが、今年はジョグや坂道ダッシュ、峠走で心肺や筋力を鍛え、また、休む時はしっかり休むなどメリハリをつけてやってきました。それがよかったと思います」

 秋からの駅伝シーズンに向け、山平にはエースとしての自覚と、それにふさわしい走りが求められる。

「自分で言うのもなんですけど、昨年の東日本実業団対抗駅伝は1区で自分が(区間4位で)いい流れをつくることができたので、一番貢献したかなと思っています(笑)。今年も自分が引っ張っていく覚悟ですし、区間賞争いをするなかでの区間3位以内を目標にしています。

そして、ニューイヤー駅伝でもしっかりと結果を出したいですね。昨年は区間最下位(3区で区間40位)でしたが、今年は10位以内が目標です。そのために夏にしっかり準備したいと思います」

【駅伝は個人種目とは違う喜びがある】

 城西大出身で中距離種目の1500mをメインにする栗原直央は、ホクレン網走大会の5000mに出場し、13分43秒98のPBを出した。

「日本選手権の1500mが終わってから急いで仕上げたのですが、自分が思った以上に順応できました。もっとしっかり準備すれば13分30秒台も出るかなという手応えを感じられたことも大きいです」

 トラックシーズンの目標は、日本選手権1500mでの決勝進出と入賞、そして5000mでのPB更新だった。日本選手権1500mに向けては、4月の日体大記録会で3分40秒08のセカンドベストを出して参加標準記録を突破すると、5月の東日本実業団選手権では3分40秒88で優勝するなど順調に歩みを進めた。

「MABPに入ってから距離を踏む練習が増えて、土台となるスピードを持続する力がついてきました。そうした練習の積み重ねが生きていると感じます」

 調子はまずまず、自分自身に期待して臨んだ日本選手権。だが、磨いてきた力をレースで出しきれず、決勝に進めなかった。

「自分の調子うんぬんの前に全体のレベルが非常に高かったですね。3分37秒とか38秒ぐらいじゃないと上(決勝)に残れなかったので、距離プラス絶対的なスピードをもっとつけていかないといけません。あとは調整の部分で、試合が続くとどうしても練習のボリュームが落ちてしまう。練習量を追う期間がもっとあってもよかったかなと思いました」

 日本選手権では結果を出せなかったものの、競技力の向上には手応えを感じている。

ジョグで距離を踏み、1月から3月の鍛錬期にはチームメイトとともに坂道ダッシュや峠走に取り組んだ。

「僕と板垣(俊佑)はヤビツ峠の練習にかなり行きました。しんどいですが、精神的な面で効果がありましたし、シーズンインの時点でかなり体が仕上がり、いい状態でレースに臨めました。それが1500mや5000mの結果にもつながったと思います」

 来季は、1500mはもちろん、5000mにも意欲的に挑戦するつもりだ。そして、その前にまず駅伝でのチームへの貢献を目指す。箱根常連校の城西大時代は1500m専門だったので、駅伝を走る機会はなかった。

「箱根はハーフマラソンを走る力が必要なので、なかなか踏みきれなかったですね。でも、箱根に向けて皆が盛り上がっていく様子を間近で見ていて、いいなあと思っていました。実業団に入れたらチャレンジしようと思っていたので、昨年、ようやく実現しました(笑)。不安はありましたが、東日本を走った時(距離8.2kmの5区で区間8位)、めちゃくちゃ応援されて感動しました。駅伝は個人種目とは違う喜びがあり、プレッシャーを感じつつも楽しかったです」

 ただ、駅伝にシフトする際は少し苦労もあった。

「厚底シューズにはかなり苦労しました。

厚底でロードを走ったり、トラックでタイムを追ったりする経験があまりなかったので、走りづらさを感じました。でも、今年は昨年の経験があるので、よりポジティブに走れると思います」

【期待のルーキーは東大大学院に在学中】

 中川、山平、栗原以外では、ルーキーの秋吉拓真の走りが目を引いた。秋吉は東大時代に関東学生連合の一員として2年連続で箱根駅伝を走った。特に今年は7区で区間4位相当の激走を見せ、注目を集めた存在だ。

 現在は東大大学院で学びながら陸上を続ける二刀流だ。勉強との両立による忙しさを言い訳にせず、練習では果敢に新しい取り組みに挑戦し、レースでも気持ちのこもった走りでメンバーに刺激を与えている。

 今回のホクレン千歳大会は、直前の合宿で調子を上げて臨んだが、PBに及ばない13分56秒06だった。レース後は悔しそうな表情を見せていたが、スタッフやチームメイトからの「練習への姿勢がいいし、強い」という高い評価は変わらない。シーズン前半は新たな環境への適応で、見えない疲労もたまっていたはず。夏合宿できっちり走りこめれば、チームの主力としての活躍を期待できるだろう。

 同じ新卒組の鈴木天智(東海大卒)は、3月の合宿中に故障してチームを離脱した。だが、そこから無事に回復し、ホクレン網走大会が復帰レースになった。神野プレイングマネージャーは「夏合宿でしっかり状態を上げていければ、駅伝に絡める」と期待をかけるが、どこまで上げていけるか。

 中川と同じ國學院大出身の板垣俊佑は、網走大会の5000mで14分09秒53と、13分台に届かなかった。昨年も同大会で14分50秒27とまったく振るわず、今年こそはという気持ちで臨んだが、神野プレイングマネージャーいわく「まだ甘いところがある」と厳しい表情だった。

 その他では、エース格の堀尾謙介は故障で離脱中。復帰には少し時間を要するとのことで、ニューイヤー駅伝までに戻ってこられるかどうか。同じく主力の鬼塚翔太は、ホクレンを目指さず、5週間のオフを挟んで7月上旬から動きはじめたところだ。夏合宿にはフレッシュな体と気持ちで臨めるだろう。もとよりレベルが高い選手なので、東日本実業団駅伝にはぴったりとコンディションを合わせてくるはずだ。

 キャプテンの木付琳は、網走大会で5000mではなく10000mにトライした。秋は駅伝にピーキングを合わせることになるので、10000mのタイムを追うのが難しくなる。そのために今回は10000mに出場し、27分台を目指すペースにトライした。前半の5000mまでを14分フラットで走れていたが、最終的に29分04秒63と後半は苦しい展開になった。ただ、4月の日体大記録会の5000mではPBを更新している。状態は決して悪くなさそうだ。

 トラックシーズンでPBを出した選手が複数いるのは好材料だが、選手層という点ではまだまだ不安を残す。ここから続く夏合宿は、秋の駅伝シーズンを占う大事な時間になる。

佐藤俊●取材・文 text by Shun Sato

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