MABP、創部2年目のトラックシーズン総括(前編)

【駅伝】「山の神」神野大地監督が挑む2年目のシーズン――MA...の画像はこちら >>

 昨季、創部1年目にして、いきなり全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)出場の快挙を達成したものの、本番では最下位に終わったMABPマーヴェリック(M&Aベストパートナーズ)。ふたりの新卒組が加わった今季はどんな走りを見せるのか。

この前編では、箱根駅伝で「3代目・山の神」と呼ばれ、青山学院大の初優勝に貢献した経歴を持つ神野大地プレイングマネージャー(選手兼監督)に話を聞いた。

【苦しい状況が続いたシーズン序盤】

「トラックシーズンは85点をあげられます」

 7月8日のホクレン・ディスタンスチャレンジ(以下、ホクレン)網走大会終了後、MABPの神野大地プレイングマネージャーは、笑顔でそう言った。

 今季の序盤は、苦しい状況が続いた。主力の堀尾謙介がケガで離脱し、新卒の鈴木天智(東海大卒)も故障のためにチームを離れた。6月の日本選手権の1500mに出場した栗原直央は予選2組11位(3分42秒10)で決勝に進めず、5000m出場の山平怜生は体調不良の影響で、予選3組23位(14分06秒33)と自分らしい走りができなかった。唯一、キャプテンの木付琳が4月の日体大記録会の5000mで5年ぶりの自己ベスト(PB)となる13分52秒10をマークし、意地を見せた。

「栗原は練習ができていたけど、レースではうまく出しきれませんでした。山平は5月の体調不良から(状態を)上げていく途中で選手権が来てしまった。ただ、いい意味で割りきれるくらいの結果だったので、そこから山平も栗原も気持ちを切り替えて臨んだ(ホクレン前の)菅平高原での合宿ではめちゃくちゃ動きがよかったです」

 日本選手権とは別に、今季、チームとして重視していたのがホクレンだった。昨季もこの大会をメインターゲットに据え、山平が5000mで13分33秒85と日本選手権の標準記録を突破。一方でほかの選手たちは目標としていたタイムをクリアできなかった。神野は「このままでは東日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝の東日本地区予選)は勝てない」と危機感を覚え、試合後の夜のミーティングでは厳しい声で奮起を促した。

 今季、MABPは8名の選手をホクレンに送り出した。

「元日のニューイヤー駅伝が終わって新年度の予定を固める段階(1月末)で、ホクレンの千歳大会と網走大会に出ることを決めました。僕らのターゲットはニューイヤー駅伝です。(各区間が20km前後の)箱根駅伝とは異なり、ニューイヤー駅伝の区間距離は比較的短く、5000mや10000mのタイムを上げることが駅伝にもつながるんです。そのためにホクレンでしっかり結果を出していくことがチームとしては大事になります。また、昨年、ホクレンの後に1回リセットして、夏合宿から駅伝シーズンまでノンストップで行く流れがよかったので、今回もそれを踏襲します」

 ホクレンで結果を出すために、今季はアプローチを少し変えた。

 昨季は拠点を置く東京の暑さのなかで練習をやりすぎ、疲労が抜けきらず、ホクレンに向けての合宿も行なわず、この大会で結果を出すというムードをつくれなかった。今回は菅平でホクレンのための合宿を組み、涼しい環境で質の高い練習ができた。昨年のこの時期にはなかった合宿が組まれたことで、チームの本気度が選手に伝わった。

「今回は、まず昨年の失敗を繰り返さないことを意識しました。合宿や遠征にお金をかけてきたのに、結果が出ませんでしたというのはもったいないですから。そのために、合宿では『これはホクレンのための合宿だから、結果を出すために頑張っていこう』と言い続けました。それですぐに結果が変わるのかと言われると、なかなか難しいですが、少なくとも気持ちの部分で変わってくると思うんです。

言い続けることで集中力が高まったり、いざという時に引かないレースができたり、そういうところにつながってくると思います」

【出場8名中5名がPBを更新】

 神野らスタッフと選手の気持ちがマッチし、結果を出すんだというムードづくりに成功。その結果、今季のホクレンでは8名中5名がPBを更新した。

 中川雄太は千歳大会(7月4日)の5000mで、実に高校生以来となる7年ぶりのPB(13分52秒55)を達成すると、その4日後の網走大会でも13分48秒46とさらにタイムを縮めた。山平も5000mで13分32秒07、1500mがメインの栗原も13分43秒98といずれもPBで続いた。外国人選手のムモ・ジョセフ・ムトゥワンテイも千歳で13分35秒33、チェルイヨット・フェスタス・キプロノも網走で13分26秒27とPBを更新した。

「結果を出した選手たちは、これまでの積み重ねがしっかり結果に反映されているなと思います。一方、今季、ここまでPBが出ていない選手については、堀尾はまだ復帰に時間が必要ですし、鬼塚(翔太)は日体大記録会の5000mで13分42秒16のシーズンベストを出しているので悪くない。板垣(俊佑)はこれから死に物狂いでやるしかないですね」

 秋吉拓真(東大大学院との二刀流)と鈴木天智、ふたりの新戦力についてはどうか。

「秋吉はホクレンで結果を出せませんでしたが、新しい取り組みにチャレンジするなど、自分の成長を楽しみつつ練習しています。意識も高いので、これからが楽しみですね。天智は3月に故障して、復帰まで2カ月半ぐらいかかりました。シーズン前半は試合に出場することを目標にしようということで、網走大会に出るところまで持ってこられました」

 ホクレンで多くの選手が結果を出せたのは、神野が言う「練習の積み重ね」が大きい。実際、山平、中川、栗原はポイント練習をほとんど外すことなく、レースを迎えられた。

今、MABPの練習メニューは、東大時代に関東学生連合の一員として箱根を走り、実業団選手(GMOインターネットグループ)としての経験もある近藤秀一コーチがベースを考え、神野とすり合わせているが、今季は峠走や坂走を取り入れるなど有酸素系のトレーニングが増えた。

「東京ではヤビツ峠(神奈川県秦野市)や坂道ダッシュなどで土台づくりを行なって、合宿では質を追う練習を行ない、それがうまく噛み合ったかなと思います。ヤビツ峠走は、涼しいなかでLT走(乳酸性作業閾値)より高い負荷をかけられます。峠走の上りは苦しくなるのが早く、かつ、長く我慢しなければいけないので、嫌な練習なんですよ。でも、その嫌な練習に向き合うのはすごく大事。そういう練習をあきらめずにやりきれたかどうかというのが結果につながってくると考えています」

【また戦える集団になってきた】

 実業団チームのなかには、選手が個々で練習しているところも多いが、MABPはこのヤビツの峠走をはじめ、チーム全体で練習することが多い。

「うちはまだ個別で練習を行なうというフェーズではありません。皆でモチベーションをつくってやっていくチームだと思っています。逆に個人にまかせて、『レースに合わせてきてね』という感じでやっていたら、今回のホクレンのような結果は出せなかったでしょう」

 ホクレンでの「PB祭り」を受け、チームの士気は上がっているが、2年連続のニューイヤー駅伝出場に向けて、ここから大事な時期を迎えることになる。昨季はホクレンで危機感を覚え、チームがピリッと引き締まり、合宿を重ねて全体の調子を上げ、災い転じて福となした。今季はホクレンで結果を出せたが、それを今後にどう生かしていくのか。昨季とは異なるテーマに向き合うことになる。

「ホクレンで結果が出ましたが、ここで慢心したら予選(東日本実業団駅伝)で負けてしまうでしょう。自分たちのチームは80%の力で予選を通過できるチームではないので、目指す基準をしっかり上げて合宿や練習をやっていかないといけません。昨年と同じぐらいでいいだろうという考えでは、絶対に足元をすくわれます。ただ、昨年よりもいい状態で夏合宿に入れるので、慢心さえしなければ昨年よりも上を目指せると思います」

 1年目の反省を生かしてチームの強化に取り組む神野だが、監督として2年目の今季はどんなことを心がけているのだろうか。

「特に大きな変化はありません。立ち上げ1年目の昨年は、箱根駅伝を走れずに大学を卒業した新卒組と、ケガなどで大舞台から遠ざかっていた移籍組が集まり、ひとつの目標に向かってやろうということでコントロールがしやすかった。そこで一体感が生まれ、いきなり東日本実業団駅伝で6位というとんでもない結果が生まれました。

 今年もチームのまとまりはあるので、『やるぞ』『結果を出すぞ』と言い続けているくらいですね。『自分たちはやれる』と思うのはいいですが、1回達成したことで安心感が生まれてしまうのが怖い。そうならないように、これからも『甘くない』『しっかりやるぞ』と言い続けていきます」

 11月15日の東日本実業団駅伝に向けて、すでにチームは夏合宿に入っている。その後も各地で合宿を行ない、最後に菅平で調整する流れは昨季と変わらない。「合宿ばかりですよ」と神野は苦笑するが、その明るい表情からは今後に向けての自信も感じられる。

「また戦える集団になってきたなと思います」

 2度目のニューイヤー駅伝出場に向けた夏が始まった。

後編を読む>>>東大大学院在学中の「二刀流」ルーキーも加入 創部2年目のMABP、ニューイヤー駅伝連続出場に向けた選手たちの現在地

佐藤俊●取材・文 text by Shun Sato

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