不祥事の連続が改正のきっかけに
2023年、ビッグモーター社が自社で行った自動車修理の費用を大幅に水増しして損害保険会社に請求し、全国で保険金を不正に受給していたことが発覚。また、同年には、大手損害保険会社4社が東急などの企業保険入札において、企業向け共同保険の保険料を不当に引き上げるカルテルを結ぶという、独占禁止法に抵触するおそれがある行為(保険料調整行為)を行っていたことが発覚。2023年に金融庁が各社に業務改善命令を、また2024年には公正取引委員会が排除措置命令と課徴金納付命令を発出した。
これらの事案の背景には、顧客本位の業務運営の不徹底や、競争環境の不健全さが存在すると指摘されていた。2025年3月、政府は保険業法の改正を通じて業界の信頼回復と健全な市場形成を図る必要があると閣議決定し、改正案を国会に提出した。
代理店・保険会社に対する「体制整備義務」が強化
改正により、保険金不正請求事案の再発を防止するため、保険代理店および保険会社に対する体制整備義務が強化される。従来、損害保険代理店に課される業務運営に関する義務は、募集(販売)業務に限定され、規模などを問わず一律に最小限のものであった。また、不正事案では、苦情や内部通報が矮小化される傾向も見られた。
このため、改正法では、複数の保険会社の商品を扱い、かつ大規模な代理店を「特定大規模乗合損害保険代理店」と定義し、新たな体制整備義務を課している。
具体的な義務の内容は以下の通り。
- 自動車修理業などを兼業する場合、保険金の支払いに不当な影響を及ぼさないように、兼業業務を適切に監視する体制を整備する義務
- 営業所ごとに法令等遵守責任者を設置し、さらに本店などにその統括責任者を設置する義務
- 苦情を適切かつ迅速に処理するための体制を整備する義務
- 内部監査や社内通報などに関する体制を整備する義務
保険会社には、営業上の利害関係による影響を遮断し、代理店の体制整備状況を管理・指導することが求められる。
契約者への「便宜供与」の禁止も拡大
保険料調整行為事案の再発防止に向け、保険契約者などへの過度な便宜供与について、対象者や禁止される行為の範囲が拡大される。改正前でも、保険料の割引・割戻しやポイント付与を通じたキャッシュバックといった特別利益の提供は禁止されていた。
しかし、明文で禁止されていない物品の購入や役務の提供、たとえば顧客である自動車会社の子会社ディーラーから自動車を購入するといった便宜供与が問題視されていた。
このような行為は保険契約者間の公平性を損なうおそれがあるため、改正法では、対象者に「保険契約者または被保険者と密接な関係を有する者」(※)を追加し、禁止行為として「取引上の社会通念に照らし相当でない物品の購入や役務の提供」が明文化された。
※保険契約者のグループ会社等
保険業界の“信頼回復”を実現できるか
今回の保険業法改正は、保険業に対する信頼を確保し、その健全な発展を図るため、従来の規制では不十分であった部分を強化するものだ。単なるルールの追加ではなく、顧客との信頼関係を重視した業務運営の徹底を業界全体に求めるものといえる。今後の実務上の運用を通じて、規制の具体的な内容がより明確になっていくことが見込まれる。

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