陸上自衛隊の訓練中の死亡事故をめぐり、隊員の遺族が国に約1億3700万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が6月24日、東京地方裁判所で開かれた。国側は請求棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。

法廷では、亡くなった隊員の妻と母が意見陳述に立ち、真相究明と自衛隊の体質改善を強く訴えた。

機関銃が胸に直撃…

この事故は2025年3月13日午後6時45分頃、長野県の陸上自衛隊松本駐屯地で発生した。約30名が参加した夜間の山岳レンジャー(アルペンレンジャー)訓練中、訓練塔の最上部(高さ約15メートル)にいた隊員が携行していた「5.56mm機関銃」(全長約1メートル、重さ約7キロ)を誤って落下させた。
銃は地上で安全係を務めていた41歳の2等陸曹(当時)の左胸に直撃。2等陸曹は病院に搬送されたが、心損傷による出血性ショックで同日午後9時25分に死亡が確認された。
陸上自衛隊の警務隊は、銃を落下させた加害隊員について業務上過失致死の容疑で検察に書類送致しているが、訓練の指導・監督に責任ある上官は送致されていない。また、隊は機関銃を落下させた隊員を停職1日、訓練の指導に関わった上官らを減給や戒告とする懲戒処分を課している。
遺族による民事訴訟は2026年3月26日に提起された。原告は、亡くなった隊員の妻と子ども、そして両親。代理人は「自衛官の人権弁護団」の佐藤博文弁護士が務める。

装具“規則なし”私物使用、4つの安全配慮義務違反を指摘

原告側は、事故は自衛隊の極めて重大な過失によるものだと主張し、主に以下4点の安全配慮義務違反を指摘している。
①降下訓練における武器や装具の脱落防止に関する規則やマニュアル、チェックリストが作成されておらず、部隊内で事故防止の統一した認識が共有されていなかった
②訓練で使われる脱落防止用のベルトや負い紐について、安全性が確保された官用品ではなく、隊員が個人で購入した私物が広く使われ、部隊もそれを認めるなど、装備品や使用方法のチェックについて共通のルールがなかった
③訓練は丸一日行われ、その間に装備の脱着が繰り返されるにもかかわらず、安全確認は訓練開始時の口頭指示にとどまり、再装着のたびに点検が行われていなかった
④個人のミスを防ぐための相互確認や第三者によるチェックといった体制がなかった
会見で佐藤弁護士は「民間事業者では労働安全衛生法に従って、危険な作業についてはマニュアル等が作成されている。自衛隊は同法の適用外ではあるが、一般の仕事と比べて危険な作業も多いため、独自の規則やマニュアルを作っていると思っていた。しかし、レンジャー訓練において、そういったものは全くなかった」と述べた。

軽すぎる処分、不誠実な対応に募る遺族の不信感

遺族が提訴に踏み切った背景には、事故後の自衛隊の対応への根強い不信感がある。
事故から約4か月後の2025年7月、隊は加害隊員を停職1日、訓練の指導や計画に関わった2名に対してはそれぞれ減給15分の1、30分の1(いずれも1か月)の懲戒処分を発表した。遺族は、この処分内容を新聞報道で初めて知ったという。
遺族が処分について説明を求めると、部隊の幹部は「今回の事故は刑法違反ではないので処分が軽い」と説明したという。
しかし、加害隊員は業務上過失致死の被疑事実で検察に送致され、現在も捜査が続いている。佐藤弁護士は「刑法違反かどうかは、まず検察が起訴・不起訴の判断をし、裁判所が決めるもので、自衛隊がこうした発言をすること自体がおかしい」と批判する。
さらに、遺族が損害賠償請求を弁護士に依頼する意向を伝えたところ、公務災害補償である遺族補償年金や子どもたちの奨学援助金の支給手続きが停止された。事故から1年以上が経過した現在も、これらの補償は支払われていないという。

「夫が戻ってくるのであれば…」法廷に響いた遺族の声

亡くなった隊員の妻は意見陳述で、夫について「真面目で優しくてひょうきんで誰からも好かれる人でした」と振り返り、「もっともっと一緒に過ごしたかった」と訴えた。
そして「当初は裁判を起こすつもりはなかった」とも明かした。
「裁判になればまた悲しい事実と長く向き合わなければなりません。夫が戻ってくるのであればどんなことでもしますが、その願いは叶いませんし、私たちは夫の分まで生きていかなくてはいけません。それよりは早く終わらせて前を向いて子どもたちと生活していくほうがよいのではないかと悩みました。

そのため、私たちは自衛隊側に事故の原因の追求と誠意ある対応、謝罪を期待しました。しかし、説明を受ければ受けるほど、曖昧な説明、質問をうやむやにし時間を稼ぐ姿勢、補償金で早く解決しようとする態度などから、歩み寄ることは難しいと感じ、弁護士に相談する決意をしました」(意見陳述より)
隊員の母も法廷で「在籍している隊員の命をおろそかにして、(自衛官の)新規募集をしたところで全体の士気が上がるとは思えません」と指摘。「この裁判が少しでも自衛隊の体質改善につながり、士気の高い隊員の命を守ることに貢献できることを祈っております」と述べた。
被告の国側は答弁書で「請求棄却を求める」とし、具体的な主張は次回以降に行うとしている。次回の期日は9月15日に指定された。


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