「紙巻きタバコの匂いがきつい」公園で“加熱式”吸う男性の言い分…「路上で一服」消えない背景に“喫煙所不足”のジレンマ
「ああ、箱型のあれね。あるのは知ってるけど、あそこ、紙巻きタバコを吸う人が多くて、匂いがきついんですよ。
服に匂いがついちゃうから、ついつい、こっちで吸ってしまうんですよね」
7月某日、東京都千代田区の秋葉原周辺。土日になると家族連れでにぎわうこぢんまりした公園を抜けた先の駐車場で、スマホを片手に加熱式タバコを吸っていた30代半ばの男性は、悪びれる様子もなくそう語った。
歩いてわずか2分ほどの距離には、区営の立派な公衆喫煙所がある。それなのに、なぜ路上で吸うのか。それとなく声をかけた筆者は、同じ喫煙者として、冒頭の言葉に申し訳ないが納得してしまった。
私も最近、紙巻きタバコから加熱式に代えた。匂いは圧倒的に少ない。だから甘えも出てしまうのだろう。
自戒を込めて言うが、路上喫煙が減らない一番の理由は、つまるところ喫煙者側のモラルが追いついていないことにある。
しかし、そうした「喫煙者の甘え」をこれ以上許さないという強い姿勢を示す自治体も現れてきている。(ライター・末並俊司)

姫路市は過料1000円→2万円へ“厳罰化”

7月1日、兵庫県姫路市は路上喫煙禁止区域で勧告・命令に従わない場合の過料を、従来の1000円から2万円へ引き上げた。実に20倍だ。
ご存じのように、タバコを吸う人の数は年々減少している。
1960年代には成人男性の8割以上がタバコを吸っていたというが、現在の日本の成人喫煙率は15%ほどになっている。私はそのうちのひとりだ。年々厳しくなる禁煙ムーブに、肩身の狭い思いをしている。
姫路市の担当者は今回の決定について、以下のように話す。
「姫路市においては、コロナ禍以降、観光客や飲食店利用者の増加にともない、姫路駅前のタバコのポイ捨て件数も増加傾向にありました。
タバコのポイ捨てを減少させるため公衆喫煙所の整備を検討してきましたが、整備のために一定の公金を投入する必要があり、喫煙者に配慮するだけではなく、ルールを守らない喫煙者には、罰則を強化すべきとの意見があり、過料を改正しました」(姫路市美化業務課・まち美化担当)
金額を2万円とした理由については、「関東地区で2万円以下の過料を設定する自治体が複数あることを確認し、抑止効果とPR効果を期待した」と説明する。2002年10月に、全国で初めて罰則をともなう路上喫煙禁止条例を施行した東京都千代田区も、過料の額は「当面2000円」としているが、上限は2万円だ。
こうした罰則規定がどこまで路上喫煙の抑止効果を持つのか。千代田区が公表する数字を見ると、簡単ではないことがわかる。
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2002年以降、路上喫煙で過料処分を適用した件数(千代田区HPより)


条例が施行された2002年度の過料処分件数は2583件だった。これが右肩上がりに増え、ピークは2006年度の1万799件だ。そこから徐々に減っていき、コロナ禍の2022年度は2344件となった。
しかしコロナ禍が明けると路上喫煙で過料を科される者は急激に増え、2025年度は8862件となった。

千代田区内で処分件数が多い「秋葉原」を歩いてみると…

東京都千代田区は、秋葉原や神田、丸の内、大手町といった人流の多い街を抱える。区が発表する過料処分件数の詳細を見ると、累計は秋葉原地区が飛び抜けて多い(4万6747件)。
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秋葉原駅周辺の路上に貼られた禁煙マーク(筆者撮影)


付近を歩いてみるとわかるのだが、駅まわりを含め、表通りは一見きれいに見える。だが、一本裏道に入ると様子が変わる。ガードレール脇や路地の隅に吸い殻が落ちている。紙巻きだけではない。加熱式タバコの吸い殻も目立つ。
千代田区は、秋葉原での路上喫煙が多いことについて、以下のように回答する。
「路上喫煙が依然として見受けられる要因としては、インバウンドを含む来街者数の増加や、人の往来の活発化が大きな要因のひとつであると認識しております。
また、区では継続的に啓発や巡回指導を実施しておりますが、路上喫煙禁止のルールが十分に浸透していない方や、ルールを認識していても守られないケースが一定数存在していることも要因であると考えております」(千代田区安全生活課)
千代田区では委託警備員が巡回の際に英語、中国語、韓国語で記載された資料を持ち、必要に応じてスマートフォンの翻訳アプリなども使う。だが、2025年度の過料処分件数8862件のうち、約20%が外国籍だったそうだ。

「喫煙所が少ない」の声も…立ちはだかる“コスト”問題

街を歩いていて感じるのは、目立った路上喫煙はないということ。道を歩きながら堂々と煙を吐く人は私の見る限りいなかった。
ただし、駐車場の隅や、店と店の間の細い路地での路上喫煙者は数人いた。
繰り返すが、私も喫煙者だ。まわりの喫煙仲間に話を聞くと、みな「喫煙場所が少ないこと」を嘆く。喫煙者たちは、行政や民間が用意した喫煙所の場所をいくつか頭にいれて出掛ける。どうしても見つからない場合は、喫茶店のドトールなど、喫煙室を用意した店に逃げ込む。私もそうだ。ここに、路上喫煙が減らない大きな理由があるように感じる。
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秋葉原駅近くの喫煙所。日中は長蛇の列ができる(筆者撮影)


行政側も、喫煙場所が少ないことに問題意識を持っている。千代田区の場合、今年7月現在での喫煙所の数は区営が5カ所、区が補助した民間喫煙所は75カ所あるという(喫茶店や居酒屋などタバコが吸える場所を除く)。
区営の喫煙所が少ないようにも見えるが、これをひとつ建てるとなると、かなりのお金がかかる。それよりも、補助金を出して民間に委託したほうが、合理的なわけだ。

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千代田区営の喫煙所のひとつ(外神田3-5-18 芳林公園内)。なるほど、かなりのコストがかかっていそうだ(筆者撮影)


冒頭で紹介した、秋葉原付近にある千代田区営の喫煙所は、全面がガラス張りで中の様子が見えるようになっており、利用しやすそうだ。
ただし、利用時間の制限がある。オープンは午前7時で、クローズは午後7時だ。施錠解錠はその都度区のスタッフがやってきて行う。建物そのものもかなり頑丈で、中の空調設備もしっかりしている。初期投資も維持費も、かなりのコストがかかっていそうだ。確かにこれを無尽蔵に増やすのには無理がある。

立ちはだかる“家賃”問題…補助金だけでは賄えない「民間喫煙所」運営の裏側

そこで期待されるのが民間委託の制度だ。民間喫煙所「THE TOBACCO(ザ・タバコ)」を展開する株式会社コソドの代表取締役・山下悟郎氏も、路上喫煙を減らすためにもっとも手っ取り早く、効果があるのは「やっぱり吸える場所を増やすことですよ」と語る。
「紙巻きタバコの匂いがきつい」公園で“加熱式”吸う男性の言い分…「路上で一服」消えない背景に“喫煙所不足”のジレンマ

株式会社コソドの代表取締役・山下悟郎氏(本人提供)


現在、「THE TOBACCO(ザ・タバコ)」は首都圏を中心に、全国約300カ所に展開している。100%自前で場所を借り上げる場合もあるが、一部は自治体の補助金を使って開設している。
ただし、自治体によって補助される金額はまちまちで、採算の合わないケースもあるという。
「人流が多く喫煙所が必要な場所ほど家賃が高い。銀座、大手町、丸の内、有楽町では喫煙所として提供される物件そのものが少ない。あっても家賃が非常に高いんですよ」(山下氏)
喫煙所は、部屋を借りて灰皿を置けば終わりではない。換気、排気、脱臭、清掃、セキュリティが必要であり、火災保険料や光熱費がかかる。
「千代田区の場合、設置助成金は上限約700万円、維持管理助成金は年額260万円程度です。それでも都心一等地のコストを丸ごと吸収できるわけではありません。喫煙所内にモニターを置き、これでスポンサー企業のコマーシャルを流したり、利用する喫煙者に向けた商品PRの場として使っていただいたりすることで売り上げを立てています」(山下氏)
われわれ喫煙者としては、こうした施設がひとつでも多くできることを願うばかりだ。
「紙巻きタバコの匂いがきつい」公園で“加熱式”吸う男性の言い分…「路上で一服」消えない背景に“喫煙所不足”のジレンマ

「THE TOBACCO(ザ・タバコ)」の一例(株式会社コソド提供)


過料を含む喫煙規制とマナーの徹底、そしてなにより喫煙場所の確保。この三つが路上喫煙を減らすための大きな柱だ。でもそれは、結局われわれ喫煙者側の理屈であって、タバコを吸わない人たちからすれば、「つべこべいわずに路上で喫煙するな」というだけのことだ。
ただし、一方で喫煙場所が増えてほしいとも願っている。
千代田区は「民間事業者による公衆喫煙所の設置助成金を増額し、駅周辺では区直営の喫煙所の新設も検討している」と語る。
姫路市も過料を2万円に引き上げるのに先立ち、姫路駅北側に密閉型の公衆喫煙所を新設した。こうした公衆喫煙所の利用状況を踏まえ、増設などについても検討していくという。
違反者に対する罰は必要だ。しかし罰だけでは街はきれいにならない。吸わない人の権利を守るためにも、吸う人の甘えを断つためにも、必要なのは「禁止」と「受け皿」を同時に設計すること。路上喫煙をなくすとは、喫煙者を見えなくすることではなく、吸う人にも、吸わない人にも、納得できるルールをつくることなのだろう。
■末並俊司
福岡県生まれ。93年日本大学芸術学部を卒業後、テレビ番組制作会社に所属。09年からライターとして活動開始。両親の自宅介護をきっかけに介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)修了。現在、『週刊ポスト』を中心として取材・執筆を行っている。


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