約5000人の出資者から総額250億円を集めた大規模な詐欺事件。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、駆け出し時代に、ある巨大詐欺事件の残党と接触したことがあり、その際、“詐欺師の手法についての講義”を受けたという。そこで説かれたのは、騙すための「舞台装置」の重要性だった――。(本文・井上トシユキ)
詐欺師は舞台設定にもっとも労力を割く
こうした報道に接するたびに、思い出すことがある。「詐欺師は、詐欺の舞台設定にもっとも労力を割く」と聞かされたことだ。
2000年代初頭、駆け出しでネットバブルの裏や闇の取材に四苦八苦していた頃、知人から「毛色の変わった、面白い人と飲むけど来ないか」と誘われた。
仕事をやりくりして約束した店へ行くと、すでに2軒目だという知人とそのA氏はすでにほどよく酔いが回っている様子だった。
ほろ酔い気分も手伝ってか、その場は期せずしてA氏による「詐欺師の手法についての講義」となった。饒舌さに引き込まれたその話の要諦は、「詐欺師は舞台設定にもっとも労力を割く」ということだった。
一流のホテルやリゾートの一室でのセミナー、豪華な別荘や客船へ招待されてのパーティ…。怪しく、おいしそうな儲け話が行われる会場はたいてい、一流の場所だ。だが注意しなければならないのは、それらすべてが「借り物」ということ。
詐欺師にとっては、それは場所や物理的なものだけにとどまらない。カモとなるターゲットとの信頼関係の構築ですら、詐欺の舞台設定の一要素でしかない。つまり、そこには本当の意味での信用や信頼など存在しない「借り物の人間関係」なのだ。
A氏は、問わず語りに上機嫌で講釈した。「あんたみたいな人は、特に気をつけた方がいい」と、忠告までいただいた。
その後、世間を賑わすいくつかの詐欺事件が起こった。ほぼ例外なく、教えられたとおり舞台設定が巧妙なものばかりだった。「あの人の話は本当だったのか…」と妙に感心もしつつ、少し怖くもなったことを思い出す。
しばらくして、知人に「あの人は警察関係か何かだったのか」と訊ねた。すると、昔の巨大詐欺事件の生き残りで、今もややこしいことをやっている人だ、と耳元で明かされた。
それ以来、借り物を上手く使う舞台設定という詐欺の基本手法は、私の頭の片隅に常に残っていた。
ITやネットに根差した、あるいはそれらに隣接した分野の詐欺は、実物や実態を目で確かめるのが難しいことが多い。
20年前の詐欺事件とクリアースカイ社事件の強い類似
今から20年前の2006年、近未来通信による「中継局オーナー詐欺事件」が発覚した。総務省に届け出た正式の通信事業者であることを前面に出し(届出だけであり、総務省による許可や認可ではない)、ネットを使ったIP電話が従来の有線電話網に取って代わるとうたい、1000万円の投資に対して毎月100万円の配当があると触れ回った。
いかにも怪しさがプンプンするが、わかっているだけで約200億円(一説には約400億円)を集めた。
年利換算でなんと120%である。ネットバブルがしぼんだ後では、とりわけ異様な数値にしか見えない。しかし、騙された人が千人単位でいた。
その実態は、古くからあるポンジスキーム(※)にほかならなかったと判明する。
※新規投資家から集めた資金を既存投資家への配当として支払い、実際には資産運用を行わない投資詐欺の手法
詐偽被害者の声に透ける巧妙なだましの手口
後に被害者の集まりに参加して、1000万円から3000万円の投資をしてしまった複数の被害者に直接取材する機会を得た。そのなかには、親戚や友人と数百万円ずつ持ち寄って複数口を購入した人もいた。
取材では舞台装置を意識しながら質問した。聞けた証言は、一流ホテルや豪華客船ではなかったものの、やはり巧妙な舞台設定に騙されたという内容だった。
IP電話の中継局と称して案内されたのは、パソコンや通信機らしきものが置かれた郊外のプレハブ小屋や駅前の雑居ビルの一室。この時点で、疑う要素は多分にありそうだが、「まだ稼働していないので電源はオフにしてある」「ビジネスがスタートすればこの何倍もの機器が動き出す」「この中継局=機器ごとの権利を買うのだ」と畳みかけるように説明されたという。
「あなたが中継局のオーナーになり、同時に一大ビジネスの当事者になる」
そのような説得も受けたという。
「通信機器を何台も稼働させるなら、室温や騒音の管理が必須だろう」「電気も半端なく食うはずだから、そんなプレハブ小屋や雑居ビルの一室でできるようなことではない」「そう簡単に毎月100万円も配当するほどの利益が出るはずもない」
突っ込みどころが満載なだけに、私はストレートにそう聞き返した。
すると、「今から思えばそのとおりだし、電源を入れていなかったのも、廃棄予定のただのパソコンや機器を見せられていただけかもしれない」と被害者は口を揃えた。やるせない、後悔の色が濃く浮かんでいた。
なんでも、「親切に、何度も、何時間でも嫌がらずに説明してくれた」「迷っても強引にならず、会社の届出書類もすべて見せてくれた」といったことにほだされ、最後は「そろそろ急いだ方がいいですよ」と背中を押されるままになったのだという。
借り物といっても信頼関係の構築にも、余念がなかったのだ。
明らかに怪しくてもだまされてしまうのはなぜなのか
今回のクリアースカイ社の事件は、報道されている情報からだけだと、この近未来通信事件と酷似している部分が垣間見える。良くも悪くもデータセンターの建設や増設が話題となるなか、国も推進するデータサーバー事業と銘打って権利を販売。3か月後に10%の配当をつけて会社が買い戻すとしていたという。年間では、40%程度の利回りだ。
堅実な運用では年5%ぐらいが上限、アグレッシブな運用でも7~8%いけば上々とされるなかで、突出した異常な数値である。
だが、被害者が見学したサーバールームやデータセンターは「借り物」だった可能性が高いと、被害弁護団はコメントしている。
集めた金は他の客への返済にあてていたと、ポンジスキームであることを元勧誘員が証言しているとする報道もあった。
本物の警察官を登壇者にした理由とは
目新しいのは、現職の警察官がセミナーの登壇者となっていたという部分だ。だが、これも事情はどうあれ、カモを信用させて騙すための巧妙な舞台装置のひとつだったように思える。最近の匿名・流動型犯罪グループによる詐欺事件には偽警官が出てくる。それを逆手に取って本物の警察官を舞台に上げ、信用度を高めたのだとしたら、かなりの悪知恵を働かせた舞台設定といえる。
尋常ではない利回りに警戒を緩めなくても、そこに本物の警官が出てくれば「大丈夫だろう」と安心してしまうのか…。
手練れの犯罪者が他人の金を騙し取る気で整えた舞台。そこに素人の“演者”が立たされれば、せいぜい意味も分からず踊らされるのが関の山ということなのだろう。
いま自分が立っているのは偽りか本物の舞台なのか。儲け話につきものの異常な利回りに目を奪われることなく、調べる手間と慎重に見極める時間を確保し、「演出された信頼関係」といった舞台装置にほだされない冷静さを忘れない。難しいようだが、相手が騙しのプロだからこそ、変に知識武装せず、感性にゆだねてみるのが、案外、有効な自衛策になり得るのかもしれない。
■ 井上 トシユキ
1964年京都市生まれ、同志社大学卒業。会社員を経て1998年より取材執筆活動を開始。

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