「医師の少ない県で診療所を開業・承継する人を支援したい」——。岩手県の達増拓也(たっそ・たくや)知事は24日、都内で会見し、地方の医師不足や地域間偏在解消のため、県境を越えた医師の「マッチング」の仕組みなど、偏在是正に向けた対策の実施を国に求めたと明らかにした。

医師が多い都市部の県から、足りない県へ。医師と地域を引き合わせる“お見合い”の仕組みが要る、という訴えだ。
国は医学部の定員削減に向かい、医師不足の県で医師を増やしてきた「臨時定員」の枠組みも1年の延長にとどまる。医師を育てる入り口が狭まる中、地方が求めたのは、今いる医師を呼び込む具体策だった。
達増知事は、医師の少ない16県の知事でつくる「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」の会長として、同日、栗原渉(くりはら・わたる)厚生労働大臣政務官に、医師確保と医療機関の経営安定化を求める2本の提言書を手渡した。

「少数県への移動・開業」に優遇措置求める

厚生労働省の統計によると、医療施設に従事する人口10万人あたりの医師数(2024年12月末時点)は、最も多い徳島県の345.4人に対し、最も少ない埼玉県は189.1人と1.8倍の開きがある。
国が2024年12月に策定した「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」には、こうした状況の是正も見据え、医師不足が深刻な地域で診療所の承継・開業を後押しする事業が盛り込まれた。ただ、支援を受けて開業する医師が同じ県内で動くだけでは、地域ごとの医師の偏りは変わらない。
「同じ都道府県の中での開業ばかりでは、偏在是正効果があまりない。医師多数県から少数県に移動したうえでの開業のために、特に(医師と少数県の)マッチングの仕組みを創設するなど、優遇措置を取ることを要望しました」(達増知事)
提言書も、県境を越えたマッチングの仕組みの創設と、医師多数県から医師少数県へ移って承継・開業する場合の補助単価の引き上げを求めた。達増知事によると、国側は「全くその通り」としつつ、「具体的にどのような優遇措置を講じるかはいろいろ考えなければならない」との説明したという。

医学部の定員、国は削減の方針も…

要望書のもう1つの柱が、医学部の定員についてだ。
入学定員には、大学ごとに認められた「恒久定員」と、医師不足対策として上乗せされてきた期限付きの「臨時定員」がある。臨時定員は、卒業後に一定期間その地域で働くことを条件とする「地域枠」などに使われてきた。

提言書によると、2026年度末が期限だった臨時定員増の枠組みは、2027年度末までの1年間の延長にとどまった。2027年度の医学部の総定員は2025年度と比べて全体として削減され、2028年度以降も削減の方針が示されている。
達増知事は「医学部定員の削減が示されているが、やはり医師少数県の医学部臨時定員増は(医師確保に)必要なので、これを延長し、さらには恒久的な措置にしてほしい」と説明。提言書も「総数の削減ありきの検討や全国一律の対応は避けるべき」と明記している。
だが、削減の流れは強まっている。政府が7月21日に閣議決定した「骨太の方針2026」には、2028年度以降の医学部定員の削減が盛り込まれた。
国側の受け止めについて、達増知事は次のように述べた。
「地域の実情を考慮するという文言が、国のいわゆる定員適正化の方針の中に入っている。医師少数県の状況を改めて説明したが、そのことは政府にも伝わっていて、『検討していきたい』という話だった」

病院はなお「巨額の赤字」

同時に手渡したもう1本の提言書では、公立・公的病院が2026年度の診療報酬改定の後も「なお巨額の赤字を見込まざるを得ない状況」だと指摘した。
中東情勢の緊迫化による石油製品の価格上昇にも触れ、繰出金に対する地方財政措置の拡充や、控除対象外消費税(医療機関が負担する消費税のうち、診療報酬で補填しきれない部分)への抜本的な対応を求めた。
「物価高騰を契機に病院の経営が大変になっているので、経営安定化のための対策を提言しました」と達増知事。
国側からは、昨年からさまざまな対策が講じられているとの説明があったといい、「来年度予算案の編成過程でもあり、物価高騰の状況や病院と医療機関の経営の状況を見ながらしっかり対応していきたい」との回答だったという。

「問題意識が高まってきている」

「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」は2020年1月、青森、岩手、福島、新潟、長野、静岡の6県で発足。
昨年12月に4県が加わり、今回の提言書には青森、岩手、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、長野、岐阜、静岡、三重、山口、宮崎の16県の知事が名を連ねた。会は7月17日に総会を開き、今回提出された2本の提言を決議した。
参加県の増加を「問題意識が高まってきている」と達増知事は受け止める。
「人手不足時代、人口減少時代の中で、地方にとっての深刻さが増しているということが一つあると思います。あとは病院等の医療機関の経営問題も深刻で、それも相まって参加する県が増えた。先週の総会も今までで一番参加知事数が多く、非常に有意義な総会となった」(達増知事)
現在、同会の主な活動は、国への政策提言、シンポジウム、新聞広告の三本柱。達増知事は「参加県が増えれば取り組みの幅も広げられる」として、今後さらに手法を工夫していく考えを示し、最後にこう語った。
「ともすれば財政健全化の論理から思い切った対応とか、表面的な数字で基準を設けることで、いわゆる(地方)切り捨てのようなことが起きかねない。
医師偏在是正、医師確保の問題は、地方自治にとって決定的に重要で、住民の命、健康、幸福、ウェルビーイングの中核部分に関わる。地域の実情を国にもしっかり押さえてもらい、そこから外れないような政策を求めていきたい」


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