丸善CHIホールディングス<3159>は、M&A戦略を見直した。
見直し前の中期経営計画では、M&AをDX(デジタルトランスフォーメーション)関連や保育などの成長領域に参入するための外部成長策と位置付けていた。
見直し後は、社内組織であるイノベーションラボの運営を強化し、既存事業との相乗効果が見込める企業の買収を重視することにした。
情報収集や分析体制の不足によるM&A案件の推進の遅れや、教科書・専門書籍市場の縮小、労務費の増加、新規事業の収益貢献の遅れなどが、中期経営計画見直しの要因となった。
M&Aは相乗効果を重視
丸善CHIホールディングスは2024年3月に、2029年1月期を最終年とする5年間の中期経営計画を策定した。
この計画では、M&Aを活用して成長領域への参入を進める予定だった。
DX関連や保育のほか、教育、不動産などを成長領域に挙げ、M&Aを含む投資によって参入を進めるとともに、既存事業の機能補完や提供価値の向上につながる事業提携やM&Aを積極的に実施する方針だった。
この中期経営計画を2026年3月に見直し、新規事業の創出や事業構造改革を支援する社内組織であるイノベーションラボの運営を強化し、グループ内で相乗効果が見込めるM&A案件の情報を共有するとともに、傘下の各事業会社による買収を後押しする方針を示した。
同社は、教科書や専門書籍の販売市場の縮小が中期経営計画策定時の想定を上回って進んだことに加え、最低賃金の上昇などを背景とする労務費の増加、新規事業の収益貢献の遅れ、情報収集や分析体制の不足によるM&A案件の推進の遅れなどを、計画見直しの理由に挙げている。
全国出版協会・出版科学研究所によると、2025年の紙の出版物と電子出版を合わせた出版市場の推定販売金額は、前年比1.6%減の1兆5462億円となり、4年連続で前年を下回った。
内訳は紙の出版物が4.1%減、電子出版が2.7%増で、電子出版の伸びでは紙の落ち込みを補えなかった。
こうした状況を踏まえ、同社は業績目標も見直し、2029年1月期の売上高は2000億円から1850億円に、営業利益は85億円から55億円に下方修正した。
その一方で、新たな収益源の開拓につながるM&Aについては、2027年1月期から2029年1月期までの3年間で約70億円を投資する計画だ。
当初計画では、2025年1月期から2029年1月期までの5年間で、M&Aに約90億円を投資する計画だった。
投資額を計画年数で単純平均すると、年額は当初計画の約18億円から見直し後は約23億円に増え、計画期間中のM&A投資を加速する姿勢を見せている。
急ぐ収益構造の転換
丸善CHIホールディングスは、M&A戦略を見直すとともに、次世代・成長事業への投資を通じて収益構造の転換を進める方針も示した。
電子コンテンツやIP(知的財産)コンテンツ関連事業、ホビーリユース、図書館などの運営受託、保育コンテンツなどを次世代・成長事業と位置付け、各セグメントで成長に向けた施策を進める。
同社の直近のセグメント売上高構成比は、書籍や文具などの店舗販売やネットによる情報提供などを手がける「店舗・ネット販売事業」が44.2%を占め、大学、官公庁、企業、公共図書館向けの書籍販売などの「文教市場販売事業」は26.6%だった。
このほか、図書館の運営業務受託などを担う「図書館サポート事業」は21.2%、「出版事業」は2.0%、「その他事業」は6.0%だった。
収益構造の転換に向け、主力の「店舗・ネット販売事業」でIPコンテンツ関連事業やホビーリユース、海外展開、越境EC(電子商取引)などに注力する。
また、「文教市場販売事業」では電子コンテンツを中心とする研究者・専門家向け情報事業を構築し、「出版事業」では専門家向けコンテンツや教科書のデジタル事業の開発、絵本IPの活用などを進める。
こうした取り組みにより、2029年1月期には次世代・成長事業で営業利益45億円を確保し、全社営業利益の約82%を占める計画だ。
経営統合で事業基盤を築く
丸善CHIホールディングスは、2010年に丸善と図書館流通センターの共同株式移転による経営統合により、両社を完全子会社とする共同持ち株会社「CHIグループ」として設立された。
2011年にはジュンク堂書店をグループに加え、同年に現在の商号へ変更した。
この一連の再編を主導したのが大日本印刷だった。
大日本印刷は、2008年に図書館流通センターと丸善を、2009年にジュンク堂書店をそれぞれ子会社化し、各社の連携を深める方針を打ち出していた。
丸善は1869年創業で、大学を中心とする教育・研究機関向けの学術情報提供や、書店、出版、店舗内装事業などを展開していた。
図書館流通センターは1979年設立で、公共図書館や学校図書館向けに、書誌データベースの提供や、書籍販売、図書館の運営受託、コンサルティングなどを手がけていた。
ジュンク堂書店は1963年の創業で、書籍を中心に文具や教材用品などを販売する書店事業を展開していた。
これらの経営統合と再編により、書店、図書館、出版、デジタルコンテンツ、書籍流通をグループ内で結び付ける事業基盤が形成された。
続く厳しい市場環境
丸善CHIホールディングスの2026年1月期は、「図書館サポート事業」での人件費の高騰や、「文教市場販売事業」と「出版事業」での教科書や専門書籍の売り上げの減少など、厳しい市場環境が続いた。
一方、「店舗・ネット販売事業」では2025大阪・関西万博オフィシャルストアの売り上げが好調だったことや、「文教市場販売事業」では教育・研究施設、図書館などの設計・施工で大型案件の完工が増加したことなどで、売上高は1850億5300万円(前年度比11.6%増)と増加した。
この増収に伴い、営業利益も55億9300万円(同59.9%増)と大幅に増えた。
ただ、2027年1月期は、厳しい市場環境が続くのに加え、2025大阪・関西万博の終了に伴いオフィシャルストアの売り上げがなくなることなどから、減収、営業減益に転じる見込みだ。
丸善CHIホールディングスは、「知は社会の礎である」という価値観を持ち、「知の生成と流通に革新をもたらす企業集団となる」ことをグループビジョンとして掲げている。
過去の経営統合や再編が書店、図書館、出版機能を結び付けるものだったのに対し、今後は「知の生成と流通」に関連する成長領域のうち、既存事業との相乗効果が見込める案件を、いかに発掘し買収につなげられるかが焦点となる。
文:M&A Online記者 松本亮一

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