総合エンジニアリング国内首位の日揮ホールディングス(HD)<1963>は、大型EPC(設計、調達、建設)に偏った事業ポートフォリオ(事業構成)を見直す。
近年、複数案件で生じた採算悪化の反省を踏まえ、EPCの前後領域の取り込みと採算管理の強化を進めるとともに、非EPC事業である機能材製造事業とソリューションビジネスを拡大する。
今後5年間で約2800億円の成長投資を実施し、M&Aも活用してEPCを中心とする総合エンジニアリング事業の領域拡大や機能材製造事業の能力補完を進め、収益変動の緩和につなげる。
損失計上の経験が推進力に
EPCは、Engineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設)の頭文字で、プラントや工場、インフラ設備などを建設する際に、企業が設計から資機材の調達、建設工事までを一括して請け負う事業形態を指す。
日揮HDは、LNG(液化天然ガス)プラントや、石油、発電プラント、医薬品工場、病院、環境施設などの建設で、このEPC事業を手がけている。
大型EPCは収益規模が大きい一方、プロジェクト遂行上のリスクが収益変動につながりやすい。
日揮HDは2024年3月期に、タイの化学プラント建設プロジェクトやサウジアラビアの石油・ガス関連案件などで損失引当や追加損失を計上した結果、189億9500万円の営業赤字となった。
翌2025年3月期も、受注を予定していた案件の顧客投資決定が遅れ、不稼働損が発生したほか、台湾、サウジアラビア、カナダで進めていた四つのプロジェクトで工事採算が悪化し、114億7400万円の営業赤字となった。
2026年3月期は、海外大型プロジェクトが複数完工するなど国内外の大型プロジェクトが着実に進んだ結果、採算が改善し、営業利益は353億9900万円となり、3期ぶりに営業黒字に転換した。
こうした海外の複数のEPC案件で損失を計上した経験を踏まえ、大型EPCに偏った事業ポートフォリオの見直しを収益安定化の課題に位置付けた。
EPCの前後サービスに関与
日揮HDは、EPCビジネスを中心とする総合エンジニアリング部門が、2026年3月期時点で売上高全体の約91.2%を占める。
このほか、触媒分野、ナノ粒子技術分野、電子材料、高性能セラミックス分野などで、製品を製造、販売する機能材製造部門が同7.6%、コンサルティング事業やオフィスサポート事業、造水事業などのその他が同1.2%だった。
同社は今後の市場について、エネルギーを含む各種需要が増加・多様化している一方で、戦争や国際紛争、各国の政策変更などによる地政学リスクや環境リスクが重なり、先行きを見通しにくくなっていると分析する。
そのうえで、エネルギーの安定供給と価格面での利用しやすさを両立する現実的な選択肢として、比較的クリーンで安価なLNGの重要性は今後も高まるとの見通しを持つ。
こうした事業環境を踏まえ、総合エンジニアリング事業で、同社が強みとするランプサムプロジェクト(一括請負契約によるプロジェクト)のリスクを抑え、着実に案件を進める体制を整える。
ランプサムプロジェクトのリスク低減に向け、案件の内容やリスクを専門的に確認する組織や委員会を新設し、設計品質や工程管理の改善を進めるほか、人材の育成・拡充により、案件遂行体制を強化する。
また、EPCの前段階にあたるFS(事業化調査)・FEED(基本設計)から関与することで、案件リスクを早期に把握する。
さらに、EPCの後段階にあたる既設設備の改修・改造やメンテナンスなどのサービス領域を広げ、総合エンジニアリング事業の収益変動を抑える施策を進める。
同社は、総合エンジニアリング事業の領域拡大と、機能材製造事業の能力補完でM&Aを活用する方針を示しており、総合エンジニアリング事業ではFS・FEED、既設設備の改修・改造、メンテナンスなどの領域が対象となる可能性がある。
また、EPCビジネスの競争力強化に向け、デジタル技術やモジュール技術を活用するほか、市場の成熟度に応じて有望な技術やパートナーの発掘にも取り組む計画だ。
こうした技術の獲得やパートナーの発掘などでも、M&Aが活用される可能性がある。
機能材と新事業を育成
一方、機能材製造事業では、半導体関連市場での販売拡大、開発力の強化、海外市場の開拓を重点施策に掲げており、M&Aは開発力の強化に向けた施策として活用する。
同事業は従来、顧客の仕様に基づく製造を中心に、製造効率化や仕様改善によって利益率を高めてきた。
今後は、マーケティング機能を強化して将来の顧客ニーズを先に把握し、先行開発と技術提案を組み合わせて高付加価値案件を創出し、利益率を高める。
この転換を進めるため、M&Aや外部協業を積極的に活用し、提案型案件の実現と利益率の向上を目指す。
さらに同社は、大型EPCに偏った事業ポートフォリオを中長期的に変革する取り組みとして、総合エンジニアリング事業と機能材製造事業に加え、ソリューションビジネスを拡充する。
同ビジネスでは、総合エンジニアリング事業と機能材製造事業で培った技術や顧客基盤を活用し、サービスメニューの拡充と新規事業の立ち上げに取り組む。
サービスメニューの拡充では、オープンイノベーション(社内外の技術やサービスを組み合わせて革新的な価値を創り出す取り組み)を通じて、外部の技術やパートナーを取り込み、顧客に提供するソリューションを広げる。
新規事業では、脱化石資源や循環型社会に対応する領域として、バイオものづくりの育成に取り組む。
微生物培養技術、ガスハンドリング技術、スケールアップ技術を組み合わせ、新たな事業モデルの構築を進める。
こうした外部の技術やパートナーを取り込むソリューションビジネスでも、M&Aが活用される可能性がある。
事業取得と譲渡を重ねる
日揮HDは1928年に、日本揮発油として創立された。
同年、米国ユニバーサル・オイル・プロダクツ・カンパニー(現Honeywell UOP)から、熱分解蒸留法装置の日本での特許を譲り受け、事業の拡大に向け動き出した。
1958年に、旭硝子と共同出資により触媒化成工業を設立し、触媒関連事業の基盤を広げ、2004年には触媒化成工業を100%子会社化した。
これまでの主なM&Aとして、2014年のCRO(医薬品開発業務受託機関)事業の日揮ファーマサービスの譲渡と、2018年のWEB購買代行システムを手がけるトライアンフ・ニジュウイチの譲渡がある。
2019年に、持株会社体制に移行し、社名を日揮ホールディングスに変更した後、2022年にIHIプラントの医薬品製造プラントEPC事業を譲り受け、同年に昭和電工マテリアルズのセラミック事業を取得した。
さらに近年では保有割合が50%未満の案件として、2025年に高田工業所の20.31%を取得した事例などもある。
大型EPC偏重の見直しに向け、次にどの領域でM&Aを実行するのかが焦点となる。
文:M&A Online記者 松本亮一
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