【M&Aリブート】トライアルHD-リサイクル店、ITから流通大手への道

企業の主力事業は通常、長い年月をかけて変化する。しかし、トライアルホールディングス<141A>は創業以来、事業の軸を何度も大胆に転換してきた企業だ。

福岡市で古物商・リサイクルショップとしてスタート。その後、小売店向けPOS(販売時点情報管理)システムの開発やコンピューターメーカー向けソフトウエア受託開発を手がけるIT企業へと姿を変え、さらに家電量販店、ディスカウントストア(DS)、スーパーセンターへと進化した。そして現在は、西友を傘下に収める国内有数の流通グループとなっている。その変貌を支えたのは、自前の技術開発とM&Aだった。

リサイクルショップから家電販売、IT、そしてDSへ

トライアルの創業は1974年。創業者の永田大海氏が福岡市で古物商・リサイクルショップ「あさひ屋」を開業したことから始まる。転機となったのが1981年だ。息子の永田久男(現 トライアルホールディングス会長)氏が同社の社長に就任、オーディオブームの到来を見越してオーディオ関連機器の販売事業に乗り出し、1984年に「トライアルカンパニー」を設立した。

同年にAV機器を中心とした家電量販店「エレビット」を開業。しかし、まもなくオーディオブームは下火となり、オーディオ販売事業は低迷。いわば副業だったソフトウエア事業に力を入れ、小売店向けPOSシステムの開発や大手コンピューターメーカーからのソフトウエア受託開発を開始した。

久男氏自身がプログラム言語を学び、システムエンジニアとして第一線に立ったものの、事業は軌道に乗らず、資金繰りに頭を悩ませる日々が続いたという。

ウォルマートに触発

なかなか成長の道が切り開けない同社だったが、久男氏は米国の大手小売企業ウォルマートに注目する。当時の同社はITを活用した小売業務の効率化に成功していた。

自社でソフトウエア事業に取り組んでいた久男氏は、日本でも同様の取り組みができるのではないかと考えた。

そこで「自分たちでやる」という思想のもと、一般的な小売企業が外部ベンダーに依存していた時代に、システムの内製化を実現。1989年に自社開発PC-POSシステムを完成させた。現在まで続く「流通×IT」という経営思想は、この時代に固まった。トライアルHDの永田洋幸社長は「私の祖父(大海氏)が福岡市で設立したリサイクルショップが前身で、POS開発やシステム開発などのITが祖業の一つ」と話す。

同社は1992年、福岡県大野城市にディスカウントストアの「トライアル」1号店を開店した。ここで事業の軸足は完全に流通小売へ移る。1996年には大型店の米国型スーパーセンターを日本へ持ち込み、現在の中核店舗であるスーパーセンターの1号店を開設した。

2000年代に入ると、大手総合スーパー(GMS)が撤退した店舗を居抜きで活用する戦略を本格化する。店舗建設コストを抑えながら全国展開を加速するこのモデルは、同社の急成長の原動力となる。こうした店舗でのノウハウや販売データを基に、自前のPOSや物流システムを充実し、小売とITを融合したIT小売テクノロジー企業として競争力を高めていく。

M&Aで全国展開を本格化

トライアルがM&Aを本格的な成長戦略として活用し始めたのは2008年以降だ。同年に北海道で食品スーパーを運営するカウボーイ(札幌市)と業務提携し、翌2009年には同社を子会社化した。

カウボーイは北海道で8店舗を出店するディスカウント食品スーパーだった。トライアルは店舗を自社ブランドへ転換し、一気に北海道での事業基盤を確立した。

この案件は、単なる店舗取得ではない。ゼロから出店するよりも短期間で商圏を獲得するロールアップ型M&Aの第一歩であり、その後は同様の手法により全国展開を進めていく。GMSの居抜き出店とロールアップ戦略で、トライアルの店舗網は急速に拡大していく。

2018年にはRetail AIを設立し、スマートショッピングカート「Skip Cart」や、買い物客の動きから購入品目をAI(人工知能)で分析し、サイネージと連動させて購買行動に合わせた情報提供を可能にするAIカメラなど、小売DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する技術開発を加速。M&Aによる規模拡大に併せて自社のIT技術を買収先にも導入し、グループ全体の生産性を引き上げた。

【M&Aリブート】トライアルHD-リサイクル店、ITから流通大手への道
トライアルHDの出店数と売上高の推移(同社決算資料より)
トライアルHDの出店数と売上高の推移(同社決算資料より)

小型の「スマート」店で食品スーパーを展開

2023年には、青森県地盤で青森地方裁判所へ民事再生手続を申し立てていた佐藤長(青森県弘前市)と同社関連会社で食品加工卸の青森食研(青森県黒石市)から一部事業を取得した。佐藤長の元店舗は「トライアルスマート」としてリニューアルし、営業を再開している。

「スマート」は小型の食品・生活必需品スーパー。「スーパーセンター」が売場面積約3000~1万㎡超で食品から衣料、家電、日用品まで幅広く扱う大型店であるのに対し、「スマート」は数百~1500㎡程度の小型店で都市部や地方の住宅地への出店を想定している。

「スマート」規模の店舗は地場食品スーパーに多く、食肉や鮮魚、惣菜などの加工センターも備えているケースも珍しくない。こうした地場食品スーパーを買収することで、「スマート」店をスピーディーに拡大できる。

特に地元の固定客を抱える食品スーパーは利益率が高いことから、スーパー各社も注目している業態だ。「スーパーセンター」が注目されるトライアルだが、M&Aによる「スマート」の全国展開が、同社にとっても重要な戦略になるだろう。

近年は地方スーパーの後継者不足や業界再編が加速している。店舗運営だけでなく、物流やAI、DXまで一体で提供できるトライアルは、今後も地方スーパー再編の受け皿にもなりそうだ。

西友買収で首都圏での店舗網を拡充

2025年にトライアルは、創業以来最大となるM&Aを実行した。関東を中心に245店舗を運営する西友(東京都港区)を完全子会社化したのである。これによりグループ店舗数は352店舗から597店舗へと約1.7倍に拡大し、売上高は約1兆2000億円規模となった。

この買収の意義は、単なる店舗数の増加ではない。トライアルは九州発祥で、郊外型のスーパーセンターを主力業態として成長してきた。一方、西友は首都圏を中心に都市部で店舗網を築いている。トライアルは買収により、首都圏での事業基盤を一挙に拡充できた。ゼロから245店舗を出店するには相当の時間を要するが、M&Aによって国内でも有数の流通グループへと飛躍したのである。

さらに、この案件は同社が長年培ってきた「流通×IT」の強みを最大限に生かせるM&Aでもあった。

トライアルはRetail AIを通じてスマートショッピングカート「Skip Cart」やAIカメラ、電子棚札、需要予測システムなどを実用化している。これらのデジタル技術を西友245店舗へ拡大できれば、省人化や在庫管理の高度化、販売データの活用など、大きなシナジーが期待されるのだ。

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(M&A Online作成)
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小型店展開の橋頭堡にも

もう一つ見逃せないのが、小型店戦略との親和性だ。トライアルはスーパーセンターに加え、前述の「スマート」や、さらに小規模な売場面積130~1000㎡未満の無人・省人店舗「トライアルGO」の出店を進めている。

従来の主戦場だった郊外ロードサイド(幹線道路沿い)の立地では、大型店が中心だった。西友買収によって獲得した首都圏の店舗網や商圏は、「スマート」や「GO」のような都市型店舗フォーマットを配置する上でも有力な基盤となる。

西友店舗が「GO」の物流拠点としても活用されるとの見方もあり、国内最大の消費地である首都圏で多層的な店舗網を構築する選択肢が大きく広がった。

M&Aでディスカウントストアや食品スーパーという新事業への転換に成功したトライアルHD。今となっては同社の祖業を知る人も少ないが、全くの異業種からの参入で国内屈指の流通大手に成長した同社の軌跡は、これから業種転換を目指す企業にとって大いに参考になるだろう。

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(M&A Online作成)
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文:糸永正行編集委員

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