フジテレビで『めちゃ×2イケてるッ!』を長年手がけた演出家・片岡飛鳥氏は、NHK『アイカタ~大切な人の【イイところ】撮ってきてください~』で何を撮ろうとしているのか。
春風亭一之輔の見たことのない表情、水戸の“伝説の不良”が妻へ仕掛けたサプライズ、そして25年前に加藤浩次を撮った記憶。
水戸の伝説の不良が教えてくれた『アイカタ』の本質
—『アイカタ』の番組MCの加藤浩次さんが今シーズンで印象に残った組だと挙げていた春風亭一之輔さんの回。これはスクープといっていいほど、あの一之輔さんがどこにも見せたことのない表情を見せていますよね。
片岡飛鳥(以下同) 落語家である一之輔さんのアイカタが写真家のキッチンミノルさんというのが新鮮。近寄りがたいイメージもある一之輔さんをあんな柔和な顔にさせているんですよ。あの写真にはキッチンミノルというアイカタの人間力が表れている。
要は自分のレンズの前で被写体にどんな顔をさせられるかで、カメラマンとしての腕が決まるわけです。そういう空気が作れる「力」を感じますよね。天才落語家「一之輔」ではなく、(肩書きもキャリアも関係ない)カタカナである人間「イチノスケ」(前編参照)の表情が出るというか。
—そして加藤さんと春菜さんの「照れ屋論争」も大いに盛り上がる第3回(7月14日放送予定)は「水戸の伝説の不良」が登場します。
加藤さんとタメ歳(57歳)の元不良が「妻にサプライズしたい」と言い出すんですよ。あの回はスタッフの会議で非常に議論になった。よく私は冗談半分でディレクターたちに「サプライズとか平成のテレビじゃないんだからもうやめない?(笑)」って言ったりするんですけど、「今日はご本人がいらしてます!」とか「実は手紙を書いてきました!」みたいなやつ…すごく恥ずかしいんです(笑)。
自分がさんざん平成のテレビをやってきたくせに言うんですけど、この『アイカタ』という番組においては、そのサプライズが“撮影者の本当の思い”に端を発してなければやってはならないと思っていて。
—テレビ発信ではなく、本人発信。
まず、水戸の伝説の不良はガチの照れ屋で。絶対にそんなことやらないはずの夫が『アイカタ』という番組に背中を押されて、妻にサプライズを仕掛ける。「『アイカタ』のせいにすればできるような気がする」って。やってることは一見、平成のテレビみたいなサプライズなんですけど、不器用に生きてきた男が自分で考えて、準備して、実行して…妻を泣かせちゃった。
—面白いです。平成のテレビってある種、傲慢で一方的に演出サイドが「こういう画にしたい」っていう作り方だったと思うんです。
ハイ、死ぬほどたくさんやってきました(笑)。ただそんな傲慢な平成テレビの関係者として自戒を込めてですが。少なくともこの『アイカタ』では「そこに出演者の思いはあるのか?」ってことが大事なんじゃないかと。昔はやりたくもないことをやらせるテレビもたくさんあったんじゃないかと思います。
『めちゃイケ』は特に一般の方も巻き込んでいたし…「ヨモギダ少年愚連隊」(※注1)みたいな。まだ10代で多感だったヨモギダ君はどこまであれを楽しんでくれてたのかなって今になって心苦しくなったり。
そういう意味でこの『アイカタ』は過去の自分との会話になってるところもあります。もちろんコンプライアンスは日々考えていますが、会議室で「クレームの可能性があるからNG」と言われたところで頭も身体も反応しないというかピンとこないことがある。
だけど『アイカタ』っていうリアルなフィールドに一歩足を踏み入れると、【とにかく撮影者とアイカタの気持ちを優先する】という明確な物差しができるから、自然と“大切な一線”は守れるようになっていく気がするんです。
2001年に片岡飛鳥が自ら撮った加藤浩次の顔
—過去の自分との対話。いいですね。
25年も前の『めちゃイケ』の話ですが、加藤さんが妻・香織さんとの結婚と第一子の妊娠・出産を隠していた半年間を、当時流行っていた『冷静と情熱のあいだ』(※注2)になぞらえ『結婚と出産のあいだ』として、極秘にカメラを回していたドキュメンタリーがありました。
律儀に一番最初に私のところへ報告にやってきた加藤さんに「加藤、面白いからこのことはメンバーには黙ってようか?」って言って。「狂犬・加藤浩次が半年後に突然メンバーの前に赤ちゃんを抱いて現れたらみんな腰抜かすから」って(笑)。
いざ極秘企画を立ち上げてみたらチーフカメラマンの辻(稔)にさえ事情を説明できないから私自身がカメラを回して撮影するしかなかったんですけど、放送後に作家の高須(光聖)さんに「あの加藤の顔は飛鳥じゃないと撮られへんな」って言われて…お互いに強い絆のようなものを感じながら撮っていたのはたしかで。
—その時の加藤さんのリアルな表情は、片岡さんとの関係性があったからこそ撮れたものだったと。
考えるとカメラ1台でタレント1人と向き合うディレクターの仕事って、被写体との距離感が測れて、画が作れて、編集のことも考えられて、そのうえ空気が読めて喋り相手までできなければならない。
ならば、仮説として「撮る側」と「撮られる側」の間にすでに愛情が担保されている2人で撮影を始めてみたら? という検証がこの『アイカタ』の企画のキッカケ。世の中の夫婦だったら、きょうだいだったら、師匠と弟子だったら、最初から愛情は担保されている。じゃあ手っ取り早くそこにカメラを渡しちゃえば面白いのが撮れるんじゃないかって。
—『めちゃイケ』と『アイカタ』の違いってなんでしょうか。
『めちゃイケ』も『アイカタ』も私の中では地続きというか、やってることの本質は同じだと思います。その人と向き合い、その人の魅力的な部分をカメラで切り取る。それはテレビでも配信でも映画でも変わらないはずなので。
以前NHKの編成のエラい人から「『アイカタ』の命は“選択”だと思います」っていうメッセージをいただいたことがありました。誰をキャスティングするかってことですよね。
そして出演していただけることになればタレントさんはもちろん一般の方にとっても「何が起きても大丈夫」な包容力のある番組なのかなと。『めちゃイケ』とも線引きしていないのは、「『アイカタ』だってなんでもできるよ」って思ってやってたほうが面白いものになるから。「この番組はこうじゃなきゃいけない」とか思い込まないほうがいい。平成も令和もそこは一緒です(笑)。
NHKで気づいた“民放の思い込み”
—NHKであるということは特に意識はされていませんか?
フジテレビで学んできたことが、NHKで仕事させていただくことによって広がっていくのは感じますね。新しい文化に触れながらNHKに感謝してるのは…何というか私の芸風が制限されることがないんですよ。逆に民放で育ったこちらのほうがいろいろ思い込んでいたのかもと。
—たとえばどのような?
よく「番組には“情報性”を入れるべき」という呪縛がありますよね。ただ面白いことをやるんじゃなくて【視聴者のタメになる情報】を取り込めと。
私はもちろん「知性と教養のNHK」にもその傾向は強いはずだと構えていましたが…全然ないんです(笑)。少なくとも私が存じ上げている制作者の方々はドキュメンタリーとしての面白さを追求し続けていて、プロデューサーの末次(徹)さんはじめ、みなさんの口から“情報性”の3文字が出てきたことは…うん、ないなあ。
—情報性の少ない番組。
行列のできるパン屋さん夫婦のVTRで、美味しそうなパンをアップで撮るみたいなことが重視されない。どこかのテレビ局にはそういうプロデューサーがいると思うんですよ。「ラーメンの湯気ちゃんと撮ってこいよ」って。でもそのラーメンは本当にその番組に必要なのか? その湯気は一体誰が求めていて、また誰に配慮して放送されるのか?
私は番組作りにおいては基本的に「視聴者への配慮」以外は何も必要ないんじゃないかと思うんです。だって見ている視聴者がめっちゃ幸せになれる番組が作れたら、たとえば出演者もスポンサーもテレビ局もみんな幸せなんじゃないのって。
もちろんテレビである以上は視聴率があって、その漠然とした不安から「とりあえずのグルメ」とか「とりあえずのイケメン」とか、番組の本質とは特に関係ないものをゴチャゴチャ取り込むことを「足し算」と呼ぶなら、2人の人間だけを扱うこの『アイカタ』は「引き算」そのもの。番組の空気がとても澄んでいるからその関係性もよりクリアに見えているのではないかと。
片岡飛鳥の「アイカタ」は誰なのか?
—今までこの番組にはたくさんのアイカタが登場しましたが、片岡飛鳥さんの「アイカタ」とは一体誰なのか、最後に伺ってもよろしいですか?
そういう意味では演出という仕事もとても幸せでアイカタはたくさんいます。加藤さんともそういう瞬間があるだろうし、企画を変えれば、岡村(隆史)さんや矢部(浩之)さんがアイカタになる日もある。フジテレビを離れてもカメラマンの辻(稔)との関係は変わらないし、安藤(雄郎)以外の照明で番組を作ったこともない。
そう考えると「あなたのアイカタは誰ですか?」という番組の冒頭の問いから“人はみないろんな局面でいろんなアイカタがいる”という想像をしてみるのも面白いと思うんです。
まさにこういうインタビューでも、今この瞬間は私と(ライターの)西澤さんも意識の持ち方次第で「アイカタ」にもなり得る。
私はこの番組はミニマムでも10万回できるって思ってるからです(笑)…たぶんこの先も“情報性”はずっと少ないままで。
注1…1996年に茨城県の中学生・ヨモギダ君が『めちゃイケ』の前身番組にて一般視聴者ながら主演を務め、その後も大学受験、就職、結婚と人生の節目をドキュメントで見せてきた大人気シリーズ
注2…2001年に公開された、10年にわたる男女の愛と再会を描いたラブストーリー映画(竹野内豊、ケリー・チャン主演)で一大ブームを巻き起こした
取材・文/西澤千央 撮影/井上たろう

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