『めちゃイケ』総監督の片岡飛鳥がNHKでたどり着いた新境地…「今は人と人の関わり合いに心惹かれる」理由
『めちゃイケ』総監督の片岡飛鳥がNHKでたどり着いた新境地…「今は人と人の関わり合いに心惹かれる」理由

22年間にわたり『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)を手がけた演出家・片岡飛鳥氏が、『めちゃイケ』終了後に取り組む番組『アイカタ~大切な人の【イイところ】撮ってきてください~』(NHK)が話題となっている。

 

フジテレビの土曜ゴールデン帯を20年以上担ってきた片岡氏が、NHKで制作する『アイカタ』は、人と人との関係性を見つめる番組だ。

MCとして“再会”した加藤浩次への思い、画面に映らない近藤春菜の役割、そして『めちゃイケ』の現場で体感してきたテレビのあるべき形を本人に聞いた。(前後編の前編)

『めちゃイケ』終了後に必然で生まれた番組『アイカタ』とは

—片岡さんが『アイカタ』を始められた経緯は何だったのでしょうか。

片岡飛鳥(以下同) 私が長年携わっていた『めちゃイケ』が終わったのが2018年。フジテレビを離れたのが2022年。その後、2024年春に特番として初めて放送した『アイカタ』に登場したのは、かつて『めちゃイケ』でADをしていた「カマタ」でした。今や立派なディレクターとしてMAZZELのYouTube(※注1)なども制作する彼は「愛する妻の寝起き」を撮って驚かせてくれました(笑)。

『アイカタ』は「大切な人の【イイところ】を撮ってきて」という番組ですので、カマタにもまずアイカタである妻の【イイところ】を聞いたら「ガサツなところ」って(笑)。想像とはちょっと違ったんですよね。もっと「優しい」とか「気が利く」とか言うのかなと思ってた。

でもしばらくインタビューしてるうちに、「ガサツ」が「おおらか」っていう言葉に変わっていった。今シーズンの初回に出演したエバースさんもそうですよね。撮影者である佐々木さんの考えるアイカタ・町田さんの【イイところ】は「怒らないところ」で始まったんだけど、中盤でそれが「優しい」に変換されていく。

すると佐々木さんはいつしか自分自身のことを話し出す。

町田さんのことを喋っていたはずなのに「こんな自分と10年、町田は揉めないでコンビを組んでいてくれている」という言葉に変わる。

—撮影者の漠然としていた心の中が徐々に言語化されていく。

最初はそのことに気づいてなかったんですけど、撮影者のアイカタを知るはずの番組でありながら、何よりも撮影者本人のことを知る番組でもあった。アイカタの【イイところ】を考えるということは、同時に自分の【ダメなところ】を含めた人生観を省みることでもあったというか。

—番組の中で「佐々木」は「ササキ」、「町田」は「マチダ」とカタカナ表記に統一されていますよね。

そういうのは最初は直感だけでやってるんで…理由はだいたい後付けで考えます(笑)。

うーん…数学的に言えば、たとえば「加藤浩次」をどんどん因数分解して「人気タレントの」とか「ベテラン司会者の」とかいった肩書きのようなものをどんどん削ぎ落としていくとシンプルなカタカナの「カトウコウジ」になる感じ。

もう割り切れない素数?骨格?みたいな。「カトウコウジ」という“ただの人間”というか…ほら病院の待合室で「カトウさん、カトウコウジさん!」って呼ばれる時はそこにいる人はみんな肩書きもキャリアも取っ払った“カタカナの人たち”じゃないですか…サイゼリヤの順番待ちのリストに書く名前もカタカナ、みんな平等に並んでる(笑)。

そういう私もちょっと前まで「フジテレビの片岡飛鳥」だったんですけど、会社を離れるといろんな属性が削ぎ落とされて、ただの人間「カタオカアスカ」になっていくような感覚があったんですよね。

自分を取り巻く“人物相関図”もサラリーマン時代とは大きく変わり、今一緒に仕事をしてくれている人たちは「カタオカアスカ」に興味を持ってくれているように感じます。その結果、私自身も『めちゃイケ』をやっていた時以上に人と人の関わり合いというか、その関係性に強く心が惹かれるようになって…そういう意味ではこの『アイカタ』という企画が生まれたのも必然だったのかもしれません。

「自分と異なるからこそのアイカタ」はアイすべきカタわれ

—なるほど。「相方」だと漫才コンビや夫婦、親子、師弟といった固定された関係性が想起されますが、「愛(アイ)すべき片(カタ)われ」にはもっと広い人間関係がイメージされますね。

メインMCを務める加藤浩次という男はたいへん幸せな人間で、家庭には妻の香織さんというアイカタがいて、極楽とんぼには山本(圭壱)さん、自分の会社には支えてくれるマネージャー、中目黒のジンギスカン屋には小樽時代からの大親友、そして今シーズンのサブMCには近藤春菜という強力なアイカタも得ている。

たくさんのアイカタを持つハブのような人だから、たとえどんな球(2人組のVTR)がきても自分の立ち位置を夫、タレント、経営者など、その都度変えながら全部打ち返せる。出演者の感情や関係性を視聴者に届く言葉へ置き換える「言語化力」があるのも、その人間的な引き出しの多さからなんだと思うんです。

—カメラの前には加藤さんが一人、そしてアイカタの春菜さんは映っていないという撮影スタイルにはどんな理由が。

加藤さんがリラックスしてVTRの感想を喋って、カメラの向こうでは春菜さんというアイカタがまた違う価値観で話して、テレビを見ている視聴者はそんな春菜さんに自分を投影しながら加藤さんと喋っているような気持ちになれたらいいな…というこれも後付けですが(笑)。

もしこれが学生時代の仲間だったら、たとえばこの(取材場所となった集英社の)窓の外をボーっと眺めて「緑がキレイだなあ」「たしかにキレイ!」と同じようなことを考えていた気がする。でもいざ社会に出たり、いざ家庭を持ってみると、人の価値観は多様であると気づく。そして緑の美しさはまったく目に入らず、その木の下に停まっている車にしか興味のないような人が意外と自分のアイカタになっていったりする。

―価値観の違いこそがアイカタなんですね。

昨シーズンの最終回であるブラックマヨネーズのお2人からも伝わってきましたが、ものの感じ方や見方が違う、つまり価値観が異なるアイカタといるほうが「2人の間に何かが生まれやすい」ような気がします。「緑ばっかり見てるの無意味だよ」とか言ってくれる人がいいし、同時に「お前の車の排気ガスこそが迷惑」とかって言い返せる関係こそが面白い。

でも『めちゃイケ』をやってた時は、こんなこと実は考えたこともなかったです。

考えたことがないというよりは、直感や体感としては自分の中にありながらも言語化されてなかった。この番組をやって、「自分と異なるからこそのアイすべきカタわれ」ということが今の自分にははっきり見えてきて、加藤さんも春菜さんも興奮しながら楽しんでるし、たぶん視聴者のみなさんも同じような気がするんですね。

『アイカタ』はみんなが「ああだこうだ」言える健全な番組

—自分の本当の姿は、自分と全く異なるアイカタを語ることで初めて見えてくると。登場するみなさんが、最初と最後でインタビューの言葉の解像度が変わっていくというのはそういうことなんですね。

今まで言葉になっていなかったことが「そういうことか」と腑に落ちる体験って、大人になるとそうそうないと思いますけど、「職場のあの人もアリなんだ」とか「ウチの夫もそんなに悪くない」とか、「もっと素直にアイカタを褒めるべきだな」とか、何より私自身がこの歳で新しい考え方に辿り着いているんですよ。

—そういう意味で、芸歴も先輩にあたる加藤さんにバンバン反論できる新しいアイカタ・近藤春菜さんの存在は今シーズンの重要なファクターですね。

『アイカタ』は元めちゃイケADが妻を撮り、この私が加藤さんの話し相手をするというすごく原始的な形で始まり、3年目を迎え徐々に洗練されメジャー化されてきた象徴が春菜さんだなと。VTRを見た加藤さんがひとつの“読み解き”を提示することに対して、今までそれを“聞いて”くれていたのがNHKのアナウンサー。春菜さんはそこからさらに踏み込んで、別の「読み解きB」を出してくれる。

時に2人は言い合いになるんだけど、そこには確実に多様性が生まれている。テレビの健全な形って意外とそういうところにあるんじゃないかって。テレビを見ながら、ああだよねこうだよねって誰かと言い合いをしてもらえる番組のほうがいんですよ。

だって「賛」も「否」もないところにテレビの未来はないじゃないですか? “無風”ではダメ、そこからは抜け出さないと。

—加藤さんと春菜さんの会話に、視聴者も自分の意見を重ねられる構造になっているんですね。

毎回「あなたのアイカタは誰ですか?」っていうフレーズから始まってるのは、そういうムーブを期待する30分だから。VTRを見れば何かを考えるだろうし、加藤さんの“読み解き”を聞いて考え、春菜さんの「読み解きB」を聞いて考え、「いや俺はこう思う」「いえいえ私は…」というみなさんの「読み解きC」から多様な世界が広がればと思います。

ちなみに今シーズンでは早くも第2回放送の梨農家の回で加藤さんと春菜さんが「照れ屋だからとアイカタを褒めない男性」の是非で対立。その意見の食い違いは第3回(7月14日放送予定)にも尾を引いています。

「水戸の伝説の不良」が見せた、素直になれない昭和の男

—第3回は茨城県水戸市の伝説の不良(57歳)が登場します。

まさに「照れ屋論争」のど真ん中(笑)。『ビー・バップ・ハイスクール』(※注2)を地で行く夫は昭和の男で、「男として恥ずかしい」と照れて長年連れ添った妻に素直になれない。同世代である加藤さんは夫に理解を示し共感するも、春菜さんは令和の物差しで加藤さんに異を唱える。「その価値観はもういらないです」ってバッサリ(笑)。

加藤さんの意見の本質としては、口先だけで毎日毎日ジローラモみたいに女性を褒めるのではなく(笑)、ちゃんと言葉にリアリティを持たせたいと言ってるんですよ。

もちろん春菜さんもそれは理解した上での「ああだこうだ」になってると思いますけど。

—スタジオパート(番組枠)もすごくライブ感のある現場なんですね。

今は番組そのものが生きている感じ、成長してる感じがします。番組っていい時は、それ自体が細胞分裂する感じで、幹が伸びて葉っぱがどんどん増えているような。各VTRのディレクター陣の取材力もめっちゃ今、伸び盛りな感じがします。

—今まで登場する方は圧倒的に幸せなアイカタが多かったと思うのですが、多様性という点では今後アイカタ同士が揉めてるとか、夫婦であれば離婚しそうとか、そういう2人が出てくる可能性もありますか?

予告するわけじゃないけど、100%ポジティブじゃない組も出てくると思います。アイカタって私たちが勝手に「仲がいい幸せな2人」って決めつけてはならないはずで。

たとえば極楽とんぼだってめちゃめちゃ断絶してる時期があって、「当たり前じゃねえからな」(※注3)を経て、その後おじさん2人が青春取り戻すみたいにイチャイチャして、そして今度は山本さんも結婚して新たなアイカタができて、今加藤さんとのコンビ仲はどうなんだろう? めっちゃ“無風”かも…(笑)。この世の全てのアイカタにもいろいろな山や谷があって当然ですからね。

後編へつづく

※注1…8人組ボーイズダンス&ボーカルグループMAZZELのYouTubeチャンネル 「MAZZEL ROOM #まぜべや」
※注2…1983年から2003年まで『週刊ヤングマガジン』で連載された日本のヤンキー漫画の金字塔
※注3…2016年に『めちゃイケ ゴクラク少年愚連隊』で加藤浩次が、10年ぶりに地上波に戻ってきた相方の山本圭壱に対して積年の思いを叫んだ一節

取材・文/西澤千央 撮影/井上たろう

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