「子どもにとっては私しか母親がいない」持田香織が語る、ELTデビュー30周年と“歌手”よりも大切にしたかった時間
「子どもにとっては私しか母親がいない」持田香織が語る、ELTデビュー30周年と“歌手”よりも大切にしたかった時間

『Time goes by』(1998年)、『fragile』(2001年)が大ヒットし、2ndアルバム『Time to Destination』は400万枚を超える大ヒットを記録した音楽ユニット、Every Little Thing。2026年8月7日にデビュー30周年を迎えた。

 

現在の持田香織は、Every Little Thingのヴォーカルとしての歩みを大切にしながら、近年はソロ名義での表現も重ねている。結婚や出産、子育てなど、ライフステージの変化とともに、表現者としての立ち位置はどのように変わっていったのか。本人に話を聞いた。〈前後編の前編〉

ファンと歩んだ30年、そして「母親」としての現在地

一度は聴いたことのある名曲――1990年代、2000年代に発表されたELTの楽曲は、まさにそんなラインナップの連続だ。切ない気持ちや儚い心理描写に定評があり、多くのリスナーがその歌声に癒されてきた。恋する女性の等身大を描いた名曲たちは、性別を問わず多くの共感を集め、ヒットチャートをにぎわせてきた。

キャリアを重ねる中で、ヴォーカル・持田香織のライフステージにも変化があった。2021年末には、第1子を出産した。

「最近は、自分や家族が食べるものに対して興味が深くなりましたね」

家庭的な一面を覗かせる彼女は、ライブや制作に追われていた時代に比べ、食事の質にこだわるようになったと微笑む。

「ここ最近ですが、発酵食品にも関心があるんです。有名な発酵食品の作り手の方と知り合う機会に恵まれて、『美味しくて身体にもいいから、やっぱりもっと知りたいな』と思って。自分でも塩麹を作ってみました」(持田香織、以下同)

テレビで見せる印象と同様に、持田は着飾らない人だ。ELT30周年という節目に対しても、「アーティストの◯周年というアニバーサリーは、もともとファンの方々に向けて『いつも応援してくれてありがとう』という気持ちを伝える区切りなのだと私は考えています」と話す。

そんな彼女は、「私はファンの方々と一緒に自分も人生を歩んできたと思っているんです。私が結婚や出産、子育てを経験したように、きっとファンの方々も同じように日常生活を楽しんでいるのではないか――そんなふうに考えています」と振り返る。

そんな持田が今、もっとも力を注ぐのが子育てだ。「ファンの方々は私以外にもいろんな“推し”がいるかもしれないけど、子どもにとっては私しか母親がいないので」。そんな温かでユーモラスな言葉に彼女の優しさが滲む。

「正解」のない子育てで尊重しているもの

とはいえ、長年にわたって第一線で活動してきた歌手が、自らの表現活動よりも子育てに比重を置くことは、決して簡単な選択ではない。

持田さんは「子どもにとっては重たいかも」と笑いながら、子育てを優先させようと考えるに至った理由を教えてくれた。

「私自身が40歳をすぎてから授かることができたこともあるかもしれませんが、出産した直後は、『3年は仕事をしない』という気持ちでいました。実際には仕事をしていたのですが(笑)。

今、私は子どもと一緒にいる時間を長く取れています。そうしようと思った理由のひとつは、保育施設に預けて働かなければ生活が成り立たない人もいるので、その人たちが優先されるべきだと感じたことです。

もうひとつは、子育てで生じるあらゆる感情を受け止めたいと思ったことです。やはり子育ては人間と人間の対峙なので、ずっとニコニコしていられるわけではありません。

能面みたいな顔をしてしまっているときも、きっとあると思います。でも、子育てでは、『愛しい』だけではない、『つらい』『たいへんだ』という感情もまた、すべて味わいたいと思ったんです」

日頃の持田さんは、どのように子どもと向き合っているのか。

「子どもに『教える』ことは常に戸惑いがありますよね。私自身が未熟な中、手探りで育てている状態です。本当に教えたことが正しいのか、自分のときと時代も環境も違う中で、『正解』すらないのかもしれません。ひとりの人間として尊重して育てていくことが、私にできることなのだと思います。

その上で、たとえば極力ウソをつかないことや、『ごめんね』がちゃんと言えることの大切さを伝えられたら素敵だなと思います。年齢が進んでいけば、ずる賢さを覚えることもあるでしょう。それは成長なのかもしれません。もしかしたら、私のなかにそうした部分があるのかもしれないと、自分の姿勢を見直す機会にもなっています」

子どもと大人が思う大切なものは異なる。そんな差異すら、持田さんは楽しんで子どもと一緒に歩んでいるようだ。

「なるべく自然に触れて、自分の感覚とか好奇心を育ててほしいなとは思います。

小さなことですが、安全な土の上ならば靴下を脱いで裸足で歩いてみるとかですね。『汚いからやめなさい』と禁止してしまうことは簡単ですが、公園にあるちょっとした自然に目を向ける時間もいいですよね。

うちの子どもは外からたくさん石を拾ってくるんです。『これ、見て』と楽しそうに、ちょっと誇らしそうにしています。大人から見ると、どれも似通った形で同じに見えてしまうけど、大事そうにしているから『大切なんだろうな』と思っています。家には石が増えてしまいますが(笑)」

見落としてしまいそうなものほど、大切に歌いたい

現在の持田さんは、歌手としてはソロ活動が主となっている。その心地よさについて、こんなふうに話す。

「日々の暮らし、そこにある小さな出来事や小さな煌めき。一見、見落としてしまいそうなものほど、大切にしたくなることがあるんです。

誰かが淹れてくれたお茶がこんなにも美味しいとか、誰かに食べてもらえて美味しいと言ってもらえる喜びとか。時間に追われれば追われるほど、その小さな愛しさに救われることがある。

誰かのためにあることなのか、自分のためにあることなのか、どっちであってもいい。

誰かのためにしてきたことが自分のためにもなり、自分のためにしてきたことが誰かのためにもなる。そんな音楽を大切にしていきたいです」

ソロでリリースする楽曲の、こんな点に着目をしてほしいという。

「どこか少し懐かしいようなメロディやサウンドが好きです。小さい頃に大好きだったアニメのオープニングやエンディングで流れていた曲、時間がこんなにも経過しているのに、それを聴くとうれしくて胸が騒いでしまうような。そんなエッセンスがちりばめられていけるような音楽。はじめて聴いたのになぜか耳馴染みがいいとか。感覚的なことは大切にしていきたいと常々思っています」

#2に続く

現在、東京を舞台にした三部作構成のライブツアー『TOKYO TOUR TRILOGY』を開催中。10月11日(日)には東京キネマ倶楽部で第2章「PAST」、12月5日(土)には草月ホールで最終章「PRESENCE」を迎える。チケットの詳細は、持田香織オフィシャルサイトにて。

取材・文/黒島暁生 写真/本人提供

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