〈中国人「億ション現金買い」の闇〉国外住所は東京23区でわずか3.5%でも…政府が把握できない“本当の買主とカネ”
〈中国人「億ション現金買い」の闇〉国外住所は東京23区でわずか3.5%でも…政府が把握できない“本当の買主とカネ”

中国人による日本の不動産購入が話題になるたび、「日本が買い占められる」という声が上がる。政府はそのたびに、国外住所の取得者は全体の数%だと説明してきた。

だが、その数字だけでは全体像は分からない。日本に住む中国人や、日本で設立した会社による購入が含まれていないからだ。誰が何を買い、実際には誰の金で支払ったのか。政府は、その入口となる情報さえ十分に把握してこなかった。

これで中国人による購入の全体を語るのは無理がある

国交省が2025年11月に発表した新築マンションの調査では、2025年上半期に国外に住所を有する取得者が取得した割合は、東京23区で3.5%、都心6区で7.5%だった。新宿区は14.6%に達した。

東京23区で国外住所の取得者が取得した308戸の内訳を見ると、台湾が192戸、中国本土は30戸である。

この中国本土の30戸は多く見えない。ところが、この調査は新築マンションの一部、それも国外の住所で登記した取得者だけを数えている。

日本国内に住所を持つ中国人や、日本法人名義による購入は「国外住所の中国人」としては把握できない。これで中国人による購入の全体を語るのは無理がある。

なぜ、これほど基本的な数字がなかったのか。不動産登記ではこれまで、所有者の国籍情報を把握する仕組みがなかったからである。

法務省が所有権の移転登記などの際に国籍情報を申告させる方針を示したのは、2025年12月だった。2026年度中の施行を目指すという。

外国人の土地取得が何年も議論されてきた後で、ようやく「誰が買ったか」を数えるための仕組みが整えられようとしている。

防衛施設や国境離島の周辺では、中国関連の取得が目立つ

しかも、国籍を記録するだけでは足りない。日本の会社を1社作り、その会社で物件を買えば、登記に出るのは会社名である。代表者と金を出した人が同じとは限らない。親族や知人の名義を使うこともできる。

確認すべき相手は、書類上の名義人だけではない。その物件を実際に支配し、売却益や家賃などの利益を受け取る人である。

防衛施設や国境離島の周辺では、中国関連の取得が目立つ。内閣府が2025年12月に公表した重要施設周辺などの取得状況では、2024年度に外国人や外国系法人が取得した土地と建物は3498件だった。このうち中国関連は1674件で、47.5%を占めた。

内閣府は、施設の機能を妨げる利用は確認されず、勧告や命令も0件だったと発表した。

ただ、この0件だけを安全の証明とみなすことはできない。

現在の重要土地等調査法は、一般の不動産売買について購入前に資金の出所や将来の利用目的を一律に審査する制度ではなく、取得後の利用状況を調査し、機能阻害行為が確認された場合に勧告や命令を行う仕組みである。

政府は「命令0件」という結果だけでなく、どの地域で、どのような主体による取得が進んでいるのか、より詳しい実態を示す必要がある。

日本人は中国で土地の所有権を買えないのに…

日本と中国では、土地を持つ意味も違う。中国の都市部の土地は国有である。住宅を買っても、土地について得るのは多くの場合、最長70年の土地使用権だ。

ただし、中国の民法典では住宅建設用地の使用権について、期間満了後は自動更新されると定められている。

一方、日本では外国人も原則として土地の所有権を取得でき、国籍を理由とした一般的な保有期限は設けられていない。売ることも、貸すことも、相続することもできる。

日本人が中国で、日本と同じ意味での土地所有権を買うことはできない。それでも日本は、中国人に対しても原則として日本人と同じように土地所有を認めており、相手国で同じ権利が得られることを一般的な条件にはしていない。

この制度差をどう考えるのかは、外国人による土地取得を議論するうえで避けて通れない論点だ。

もっと注意すべきなのは、購入資金の流れである。

中国では、個人が比較的簡単な手続きで購入できる外貨は年5万ドル相当までだ。

中国の国家外貨管理局が公開している個人向け外貨制度の説明では、この枠を海外住宅の購入などの資本取引に使ってはいけないとされている。

一方、日本では、数千万円、時には数億円の物件を中国人買主が現金一括で購入する例があると複数の報道で伝えられてきた。

もちろん、高額な現金購入そのものは違法ではない。正規の事業収入や、すでに海外に保有していた資産などを原資に適法に購入するケースもある。

問題は、出所が確かな金と、説明できない金をどう見分けるかである。高額の現金取引が何件あり、そのうちどこまで資金源が確認されたのか。そうした全体像を示す政府統計は公表されていない。

外貨規制を抜ける手段の1つが地下銀行

日本の会社員が住宅ローンを組む時は、年収や勤務先、他の借り入れ、頭金などを金融機関から審査される。現金一括の買主には住宅ローン審査がない。

この場合、売主には早く確実に売却できる利点があるため、他の買主より選ばれやすいこともある。しかし、現金であることと、資金の出所が適法であることは別の問題だ。

中国の外貨規制を抜ける手段の1つとして指摘されてきたのが地下銀行である。

たとえば、買主が中国国内で人民元を仲介者に渡し、仲介者とつながる人物が日本国内に保有する円を売主へ支払う。

こうした仕組みでは、人民元と円がそれぞれ国内で動くため、通常の国際送金とは異なる形で決済が成立する。

英紙フィナンシャル・タイムズは2025年9月、東京で中国人向け不動産取引に関わる4人への取材に基づく推計として、取引の約70%でこうした地下銀行が使われていると報じた。ただし、これは公的統計ではなく、あくまで複数の業界関係者による推計である。

また、地下銀行で動く資金には、詐欺の被害金など犯罪収益が混入するケースもある。日本国内で集められた犯罪収益を別の利用者に円で渡し、その利用者が中国国内で人民元を支払えば、犯罪グループ側は中国で資金を受け取ることができる。

こうした地下銀行と犯罪収益の結びつきは、国際機関などからも指摘されている。

2025年には、日本人からだまし取られた金が、中国人による高級マンション購入の頭金に使われた疑いがあるとNikkei Asiaが報じた。捜査・報道段階の事例ではあるが、日本国内の詐欺被害と不動産取引が、地下銀行の仕組みを介してつながる可能性を示す事例といえる。

「現金一括ならローン審査がなく、決済も早い」

不動産会社には、犯罪収益移転防止法に基づき、買主の本人確認などを行い、疑わしい取引について届け出る義務がある。本人確認の制度自体はすでに存在している。

焦点は、実際の取引現場で、取引目的や実質的支配者、必要に応じて資金の出所までどこまで確認できるかだ。

「現金一括ならローン審査がなく、決済も早い」と歓迎するだけでは、重要な確認が抜け落ちるおそれがある。

国交省は2022年10月、不動産業者向けにマネーロンダリングやテロ資金供与対策のガイドラインを策定した。その後も、犯罪収益移転防止法上の義務を徹底するよう業界に要請し、2026年4月にはガイドラインを改訂するなど、対策を強化している。

制度は以前から存在していたが、外国人による不動産取得が拡大するなかで、実務面での対応が改めて問われている。

財務省も2026年4月、海外に住む人など「非居住者」が日本の不動産を取得した場合の外為法上の報告対象を拡大した。

だが、これは原則として取得後20日以内に行う事後報告であり、すべての不動産取得について購入前に安全性を審査する制度ではない。

また、外為法上「居住者」とされる、日本に住所を持つ外国人や日本法人による取得は、この非居住者向け報告の対象にはならない。制度は前進しているが、それだけで購入の全体像が把握できるわけではない。

中国側でも動きがある。2026年7月1日に施行された「国務院の対外投資に関する規定」では、企業や組織だけでなく、居民個人も「投資者」に含まれた。

さらに同年8月21日、国家発展改革委員会は、個人による直接の海外投資についても核准や備案などの対象とする「対外投資管理办法」の改訂案を公表した。

現時点では意見募集段階であり、具体的な運用はまだ確定していない。ただ、個人による海外投資についても管理を強める方向性は示されている。

国籍だけで線を引いても、本当の所有者は隠せる

それに比べ、日本側にはなお把握できていない部分が多い。外国人にも原則として所有権を広く認める一方で、不動産所有者の国籍を網羅的に把握する仕組みは長く整備されず、会社の後ろにいる実質的な支配者や、物件代金の資金源についても、不動産取得全体を横断的に把握する制度はない。

法務省、財務省、国交省、内閣府が、それぞれ別の制度を少しずつ見直している。情報も省庁ごとに分かれている。国籍だけを記録しても、日本法人を介した取得などでは、その物件を実際に支配する人物まで直ちに分かるとは限らない。

政府が今後検討すべき課題は多い。

不動産登記では国籍情報を適切に把握し、法人については実質的支配者をどこまで確認するのか。高額な現金取引では、リスクに応じて金をどう得て、どう円に替えたのかをどこまで確認するのか。

防衛施設の周辺では、取得後の利用状況だけでなく、どこまで事前に取得目的や資金提供者を把握すべきなのか。

違法民泊や賃貸借をめぐる法令違反、違法行為を伴う短期転売などは、国籍を問わず取り締まればよい。

政府は、外国人による取得が全体の何%かを示すだけで十分とはいえない。人数や割合だけを見ても、リスクの全体像はつかめないからだ。

名義の後ろにいる実質的な所有・支配者と、物件代金の出所。この2つをどこまで把握できる制度を作るのか。

日本では、その仕組みが十分に整備されてこなかった。今も残る制度の穴を、いつ、どの省庁が、どこまで塞ぐのか。政府には必要な数字を集め、国民に分かる形で説明する責任がある。

文/小倉健一  写真/shutterstock

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