1995年、人気お笑いタレント今田耕司が、「KOJI1200(コージ・トゥエルブ・ハンドレッド)」の名でCDをリリースした。
プロデュースは、テイ・トウワ。
当時流行の先端をいっていたクラブミュージックとのコラボ、という位置づけだろうが、ダウンタウンの音楽ユニット「Geisha Girls」を、坂本龍一と共同プロデュースしたことが、そのきっかけになっていると思われる。ちなみに当時、トウワのマネジメントは吉本興業がおこなっていた。

デヴィッド・ボウイのよう? 今田耕司の歌声


KOJI1200が最初にリリースした、シングル『ナウ・ロマンティック』。これがもう、デュラン・デュランの『プラネット・アース』や『ニュー・ムーン・オン・マンデー』を思わせる、80年代にムーブメントを巻き起こしたニューウェイブ系の音楽ジャンル、「ニューロマンティック」系の世界そのもの。曲名も「ニュー」→「ナウ」ロマンティックと、そのまんまだったりする。
「ニューロマンティック」は、シンセを中心にしたポップでダンサブルな楽曲に、メイクやヒラヒラした衣装などが大きな特徴で、デュラン・デュランやカルチャー・クラブ、スパンダー・バレエ、ABCなどが代表といわれる。

ビジュアル的にも、前述のデュラン・デュランやジャパンのデヴィッド・シルヴィアン、または「い・け・な・いルージュマジック」の坂本龍一と忌野清志郎などを彷彿とさせるこってりとしたフルメイク。
そして派手な柄のボディスーツに身をつつみ、「イマダはナウロマンティック」と歌ったのである。低めの歌声は、デヴィッド・ボウイのようでもある。とにかく80年代の香りを完成度高く再現してみせてくれた。

ところで“1200”って何だ。調べてみたところ、テイトウワが使用していたサンプラーの名称からきているらしい。へえ。


実は音楽に造詣が深い今田耕司


『ナウ〜』のリリースは12月、今田は同年の2月に東野幸治と大阪パフォーマンスドールのメンバーYUKIと組んだユニット「WEST END×YUKI」として、大ヒット曲『DA.YO.NE』の大阪版パロディ『SO.YA.NA』 をリリースしスマッシュヒットを記録しているが、いわゆる「ダブルコウジ」的世界の延長の「WEST END〜」と、全く違う世界を「KOJI1200」で見せてくれた。
そのムダに高い「ニュー・ロマンティック」の空気感の再現度。実は今田耕司、これらニューウェーブ/ニュー・ロマンティックス系の音楽にけっこう造詣が深いらしいのである。当時、どこかでニューロマンティック愛を語っていて、それがけっこうディープな内容で驚いた記憶がある。テイ・トウワが何も知らない今田を使って遊んだというよりは、今田のニューロマ/ニューウェイブ好き、これがあること前提の完成度だったのである。

翌年には『ナウ〜』も収録されたアルバム『I LOVE AMERICA/アメリカ大好き!』をリリース。
こちらももちろんテイ・トウワプロデュース。アメリカでのライブを収録したというテイでの作品で、歌とコント仕立ての内容でたたみかけてくる。これもまた、YMOも参加した70年代の伝説のユニット、「スネークマンショー」のオマージュなのだろう。ちなみにGeisha Girlsのアルバムにも似たような要素がある。ある意味でニューウェイブ系伝統芸。
とはいえアルバム収録曲には、そこまでニューロマンティック要素はない。
井上陽水的要素をなくした、ドライな雰囲気の『ワインレッドの心』のカバーがあったり、ハウスやテクノ、ヒップホップ、コントパートには東野幸治も参加。ニューウェーブ/ニューロマンティックの範疇にとらわれない、バラエティにとんだ1枚で、隠れた名盤といっていいかと思う。


その後、「KOJI12000」と改名したりしながら、98年まで活動は続いた。
90年代に突如生まれた、ジャパニーズ・ニューロマンティックの名曲、『ナウ・ロマンティック』。デュラン・デュランなどを愛した世代にはドストライクでもあるためか、80年代洋楽好きのお笑いタレント、藤井隆、椿鬼奴、レイザーラモンRGによるユニット「Like a Record round! round! round!」(←これもまた、80年代に活躍したデッド・オア・アライブの歌詞からとっている)が、2014年にカバー、配信限定でリリースされ、再評価されることになった。
(太田サトル)

※イメージ画像はamazonよりナウ ロマンティック Single