「古畑任三郎」で田村正和と明石家さんまが一触即発 「しゃべりすぎた男」の裏話
※写真はイメージです

「台詞を完璧に覚えて芝居をやると、台詞が全然生きない」

3月11日放送のMBSラジオ『ヤングタウン』で、明石家さんまが上記のように言っていました。
これは、2月17日放送の『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)で、俳優の奥田瑛二が「ドラマ『男女7人夏物語』のときに、さんまが全く台詞を覚えずに即興で演技をしていて驚いた」と語っていたことに対するアンサー。


さんま曰く、バラエティという普段からアドリブが当たり前の環境に身をおいているため、芝居をやらせても、アドリブしかできないのだとか。たしかにさんまといえば、“本業”の落語をやらせても、ウケるのは冒頭の「まくら」ばかりで、本筋はさっぱりという生粋のバラエティタレント。「明石家さんま」以外を演じられない、器用なようでその実、不器用な男なのでしょう。

さて、そんな台本通りにできない男・さんまが、あろうことか長台詞で有名な三谷幸喜脚本ドラマ『古畑任三郎』へ出演し、主役の田村正和を激怒させてしまった出来事がかつてありました。

古畑任三郎シリーズ屈指の名作『しゃべりすぎた男』


“対決”が勃発したのは、1996年1月10日放送の古畑任三郎・第2シーズン『しゃべりすぎた男』において。

物語のあらすじとしては、さんま演じる凄腕弁護士・小清水が、有力弁護士令嬢との婚約のため、邪魔になった恋人を殺害。その罪をたまたまその恋人に好意を寄せていた今泉へなすりつけようとするも、古畑が阻止するというものでした。


今泉が容疑者になるというトリッキーなプロット、弁護士らしい舌鋒の鋭さで古畑をやり込めようとする小清水、その難敵・小清水を法廷で自白させてしまう古畑の鮮やかさ。そして、「友人の人生が賭かってるんです。必ずシッポをつかんでみせます」と、古畑がこれまで散々クサしてた今泉を作中初めて「友」と認め、助けようとする胸熱展開……。

この回は紛れもなく、『古畑任三郎』の魅力を濃縮させた傑作でした。

最初はロックシンガーになる予定だった?


なお、この「弁護士」という設定は、さんま自らが望んで実現したのだとか。当初はマネージャーを殺すロックシンガー(昔、桑田佳祐が「さんまさんの声はロック歌手向き」と褒めたため)を予定していたのですが、「古畑との台詞対決にしたい」というさんまの希望で、法廷闘争モノになったといいます。

作品の完成度を考えると、視聴者にとってはナイスな判断だったといえるのですが、当のさんまにとっては、ただでさえ多い三谷脚本の台詞がさらに膨大な量となったため、自身の首を絞める結果となってしまったようです。


さんまのイジりに田村正和が激怒


当然のように、現場では台詞が覚えられず、NGを連発するさんま。あるとき、痺れを切らした田村正和が、「今度間違えたら私は帰りますよ」と言ったそうです。

しかしその直後、普段滅多にNGを出さない田村がまさかのNG。さんまとしては、このブーメラン現象に鬼の首をとったかのような痛快さを感じたのか。「あんたも間違えてまんがな!」みたいなノリでいじると、田村は怒って楽屋へと帰ってしまったといいます。

スタッフの仲介でさんまが謝罪し、なんとか田村を連れ戻すも、言うまでもなく、現場の空気はピリピリ。しかし、次のシーンがクライマックスの法廷における場面だったため、おかげで物凄く緊張感のあるシーンが撮れたといいます。


田村正和のアドリブ、目が泳ぐさんま


事実、法廷のシーンで田村が「小清水先生、聞いてくれてますか~? お願いしますよ私、一生懸命説明してるんですからね」とアドリブをぶっこむ一幕があるのですが、明らかにさんまの目が泳いでいます。
力なく「ええ……」とつぶやく、その蛇に睨まれた蛙のような表情からは、先刻怒らせた田村への恐怖がありありと汲み取れるというものです。

こうした、生粋のバラエティタレント・明石家さんまと生粋の役者・田村正和という、水と油が出逢ってしまったがために生まれた、奇跡の化学反応を楽しめる古畑任三郎・第2シーズン『しゃべりすぎた男』。未見の方はぜひ、ご覧になってください。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより警部補 古畑任三郎 サウンドトラック Vol.2 Soundtrack