最近では、テレビで方言を使うタレントも増え、全国的な認知度も高まる各地のお国言葉。大阪弁、京都弁、博多弁、東北弁など、日本にはさまざまな方言があるが、山梨の甲州弁と聞いても、あまりピンとこない人が多いかもしれない。


だが、そんなマイナーな甲州弁を扱いながらも、異例のヒットを記録している本があるのをご存じだろうか。タイトルは、『キャン・ユー・スピーク甲州弁?』(樹上の家出版)。

実はこの本、自費出版ゆえに、ネットなどでの取り扱いはなく、販売は山梨県内のほぼ全書店と東京方面の数書店のみ。それにもかかわらず、自費出版としては異例の2万5千部を売り上げている。発売は2009年3月だが、地元の書店ではいまだに月間ランキングに名を連ねる人気ぶり。県内大型書店(朗月堂本店・三省堂甲府岡島店)の2009年年間売り上げランキングでは、あの村上春樹氏の『1Q84』を抑えて1位だったというからスゴイ。

著者である五緒川津平太(ごちょがわつっぺえた)こと、大堀卓さんに話を聞いた。なぜ、あえて自費出版を?
「もともと、地元のタウン情報誌で編集・デザインの仕事をしていました。また、同誌では『甲州弁でGO!』というコラムも10年間連載していました。ところが、タウン情報誌が休刊して、仕事がなくなり、お金もなくなり、再就職もできず……。途方に暮れた末の窮余の策です」
そんな苦しまぎれの自費出版が大ヒットになるのだから、人生とはわからないもの。
「地元メディアが取り上げてくれたりして、最初の1カ月で初版3,000部が売れました」
2版、3版と版を重ね、その勢いがなくなった頃、テレビの全国放送で取り上げられて再度大きな波が来たという。


本書では、多彩なアプローチで甲州弁を紹介。県外からのお嫁さんのための甲州弁相談コーナーがあったり、4コマ漫画や写真で方言を再現してみたり、英和辞典ならぬ英甲辞典も収録。さらに、「甲州弁は標準語より優れている」「一部の甲州弁が英語だった」など、驚きの説も披露するなど、盛りだくさんな内容になっている。
「“背中をかじってなぜ悪い”(※かじるは掻くの甲州弁)と標準語に対して戦いを挑んだコラムもあります。この本は標準語に対する甲州弁の果たし状です! ……でも、“甲州弁を隠ぺいするための必勝九カ条”も載っています。そんなへなちょこ本ですが、ぜひ読んでみて下さい」
と大堀さん。故郷の言葉を誇らしく思う反面、どこか感じる気恥ずかしさ。そんな甲州人の気持ちをそのまま代弁したような一冊だ。

山梨県民や山梨に住んでいる人はもちろん、まだまだマイナー感の強い甲州弁の奥深さを知りたい人にもおすすめ。山梨に行ったら、ぜひ本屋でチェックしてみてください。
(古屋江美子)
編集部おすすめ