出版不況なのに好況な同人誌

 出版不況が叫ばれて久しい。かつては「若者の活字離れ」などがその理由として挙げられていたが、どうやらそれだけではなさそうだ。

売れていないのは書籍だけではない。活字媒体ではない「漫画」も売れていないのだ。今年2月には、老舗漫画誌の『漫画サンデー』が休刊。出版科学研究所によれば、2010年には23点、2011年には10点、そして2012年には14点の漫画誌が消えていった。
 しかし、商業漫画業界が悲鳴を上げるなか、同じ漫画でも「同人誌」界隈はいたって好況の様子。毎年2回、「夏コミ」と「冬コミ」が開催される「コミックマーケット」。
1975年の創設以来、その道の趣味人から「コミケ」の名で親しまれる世界最大の同人誌即売会だ。昨年12月29日から31日まで東京ビッグサイトで行われた「コミックマーケット85」。その85回は動員が52万人、昨夏の84回が59万人、一昨年冬の83回が55万人と記録的な来場者数が続いている。

 過去に行われた調査によると、コミケ一般来場者の平均購入額は、男性が33,740円、女性が30,100円。コミケ全体では、3日間で150億円以上の経済効果があるとされている。オタクブームどころか、もはや市民権を得た感もある。

同人誌市場は、今後ますます拡大していきそうだ。
「売れっ子漫画家になって豪邸を建てる」というジャパニーズドリームは、もちろん今でも存在する。しかし、アニメやゲームなどコンテンツビジネスでヒットを飛ばし、数千万円~億単位の年収を得ている作家など、ほんのひと握りだ。一般商業漫画誌における新人作家の原稿料は、少女漫画が4,000~6,000円、少年漫画やヤング・アダルトで5,000~8,000円。有名漫画誌に連載を持つ、多少は名の知れた作家でも、年収は200万円以下なんてのはザラ。家を建てるどころか、ほとんどワーキングプアだ。

「壁際」の一部では年収1000万の作家も

 そんな夢のない話の一方で、同人作家の一部には年間に1千万円以上を稼ぐ者も多い(※1)(店舗委託・ダウンロード販売を含む。地道に儲からない同人活動をやっている人が大半だが、出展者の僅かとはいえ人気作家もそれなりの数存在する)。彼らの強みは、「直売」に尽きる。印刷代や運送費などはかかるものの、出版社や取次を介さないため、売上から必要経費を除いた額のほとんどすべてが自分の懐に入る。
 しかも、商業誌のように販売数や利益を公にする機会がないため、納税を「チョロまかしている」者もいる(※2)。実際、2007年には同人作家・S(仮名)の脱税が発覚。

3年間で約2億円の所得があったにもかかわらず、約2000万円と過少申告。支払うべき所得税6,750万円を免れたとして在宅起訴された。
 単純計算で、彼女の1年間の所得は6,666万円。一流企業の社長でも、これだけの額を稼ぐ者はなかなかいない。(当然だが税務当局も十年以上前から目をつけており、同人作家向けの確定申告に関するHPはいくつもある。また最近は同人税務の書籍も刊行されている)。

 漫画誌が次々に消えていくなか、年に6,000万円稼ぐ商業漫画家がどれだけいるか。あえて商業誌デビューを目指さず、同人誌で生きていく作家が増えているのも当然だ。

>>>後編につづく

(文・編集部)

(※1 専門店委託・ダウンロード販売・サイト直販等、即売会外での収益も含めています。一部ジャンルの人気個人作家の他、実体として法人化している同人サークルを含む)
(※2 税務当局把握があるため高収入者に無申告はほとんどないという意見もあるが、中堅以下では申告していない者も依然として存在する)

(※J-CASTニュースで当記事を扱った記事が掲載されていますが、当記事が数回の修正をしている理由は「一部参照資料側での(300人以上との)推定数誤認」、当記事内の開催回数・動員数のデータの入れ替わりが読者の指摘で段階的にわかったことを受けて訂正したものです。税務処理等に関しては表現の配慮として行ったものです。参照文献はリサーチ企業系のものです。

おすすめ書籍:『のうぜい! ~同人作家のための確定申告ナビ~』/まことじ・著(ハーヴェスト出版)