出版不況が叫ばれて久しい。かつては「若者の活字離れ」などがその理由として挙げられていたが、どうやらそれだけではなさそうだ。
しかし、商業漫画業界が悲鳴を上げるなか、同じ漫画でも「同人誌」界隈はいたって好況の様子。毎年2回、「夏コミ」と「冬コミ」が開催される「コミックマーケット」。
過去に行われた調査によると、コミケ一般来場者の平均購入額は、男性が33,740円、女性が30,100円。コミケ全体では、3日間で150億円以上の経済効果があるとされている。オタクブームどころか、もはや市民権を得た感もある。
「売れっ子漫画家になって豪邸を建てる」というジャパニーズドリームは、もちろん今でも存在する。しかし、アニメやゲームなどコンテンツビジネスでヒットを飛ばし、数千万円~億単位の年収を得ている作家など、ほんのひと握りだ。一般商業漫画誌における新人作家の原稿料は、少女漫画が4,000~6,000円、少年漫画やヤング・アダルトで5,000~8,000円。有名漫画誌に連載を持つ、多少は名の知れた作家でも、年収は200万円以下なんてのはザラ。家を建てるどころか、ほとんどワーキングプアだ。
そんな夢のない話の一方で、同人作家の一部には年間に1千万円以上を稼ぐ者も多い(※1)(店舗委託・ダウンロード販売を含む。地道に儲からない同人活動をやっている人が大半だが、出展者の僅かとはいえ人気作家もそれなりの数存在する)。彼らの強みは、「直売」に尽きる。印刷代や運送費などはかかるものの、出版社や取次を介さないため、売上から必要経費を除いた額のほとんどすべてが自分の懐に入る。
しかも、商業誌のように販売数や利益を公にする機会がないため、納税を「チョロまかしている」者もいる(※2)。実際、2007年には同人作家・S(仮名)の脱税が発覚。
単純計算で、彼女の1年間の所得は6,666万円。一流企業の社長でも、これだけの額を稼ぐ者はなかなかいない。(当然だが税務当局も十年以上前から目をつけており、同人作家向けの確定申告に関するHPはいくつもある。また最近は同人税務の書籍も刊行されている)。
漫画誌が次々に消えていくなか、年に6,000万円稼ぐ商業漫画家がどれだけいるか。あえて商業誌デビューを目指さず、同人誌で生きていく作家が増えているのも当然だ。
(文・編集部)
(※1 専門店委託・ダウンロード販売・サイト直販等、即売会外での収益も含めています。一部ジャンルの人気個人作家の他、実体として法人化している同人サークルを含む)
(※2 税務当局把握があるため高収入者に無申告はほとんどないという意見もあるが、中堅以下では申告していない者も依然として存在する)
おすすめ書籍:『のうぜい! ~同人作家のための確定申告ナビ~』/まことじ・著(ハーヴェスト出版)