覚せい剤やコカイン、ヘロイン等の違法薬物は、使用したり販売したりしなくても所持しているだけで犯罪となります。先日小向美奈子被告が有罪判決を受けたのも覚せい剤の所持が含まれています(正確には使用と所持)。

もっとも、よくよく考えてみると、覚せい剤を所持しているだけでは誰も被害者がいないと思われるにもかかわらず、なぜ犯罪となるのでしょうか。今回は薬物の所持に関する罪について説明したいと思います。
なぜ違法薬物は「所持しているだけ」でも犯罪になる?の画像はこちら >>

●他人に迷惑がかからなければ犯罪にはならない、はずだが……
法律上の原則として、「他人に迷惑がかからない行為は犯罪にはならない」という考え方があります。道義的な問題は措くとして、法律上は他人に迷惑がかからなければ犯罪として取り締まるべきではないという考え方です。
ですので、本人がいいというのであればどれだけ飲酒してアルコール中毒になったとしても犯罪ではありませんし、多量の喫煙をして肺がんになったとしても犯罪ではありません。
競馬に多額の金銭をつぎ込んだとしても自分のお金であれば犯罪ではありません。
すべて他人には迷惑をかけていないからです。
わいせつな書籍やDVDも単純に自分の趣味として所持しているだけであれば、誰にも迷惑がかかりませんので、犯罪にはなりません。犯罪となるのはあくまでも「販売目的で」所持している場合に限られます。ではなぜ薬物は単に所持しているだけで犯罪となるのでしょうか。
それは、薬物の危険性によるものです。

●他人に被害を与える危険性が高い
薬物は、もちろん使用し続ければ自己の体を回復できないほどに破壊するものですが、それにとどまらず、幻覚や幻聴、被害妄想などを引き起こし、その結果、周囲の人間に対して暴力・傷害行為を起こしたりします。

また、最近問題となっていますが、薬物を使用し判断能力が低下した状態での自動車運転により多数の死傷者を出したりします。さらに、薬物の強度の依存性により、薬物購入代金欲しさに窃盗や強盗などの犯罪をする可能性もあります。
このように、薬物犯罪というのは、実は被害者は決して自分だけということではなく、他人も十分被害者になるのです。

●所持=使用する可能性が高くなる
ですので、使用行為は当然のこと、所持していると使用する可能性が格段に高くなるので、所持そのものも禁止し、単純所持でも犯罪として、薬物による被害を防ごうとしているのです。
このように、違法薬物は使用も所持もほとんどすべて犯罪です。決して薬物を所持、使用することのないようにしましょう。


*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)
*air7650 / PIXTA(ピクスタ)