さまざまな地図データの基本となる国土地理院の地形図は、これまで人力の測量結果をもとに修正されてきましたが、不特定多数の人による移動経路のビッグデータが活用されることとなりました。地図作りはどう変わるのでしょうか。
国土地理院が地形図などに記載された「登山道」の修正に初めて、電子化された登山者の移動経路情報を活用します。そのビッグデータ(巨大データ群)を保有している企業や団体を対象に、協力事業者の募集を2017年10月19日(木)から開始しました。
山形県の月山山頂。測量の基準となる三角点が設置されている。写真はイメージ(画像:photolibrary)。
国土地理院の地形図は国土の基本情報であり、測量法に基づいて同院が行った「すべての測量の基礎となる測量」が反映されたもの。
――なぜ地形図の修正にビッグデータを活用するのでしょうか?
計測の効率化、迅速化が目的です。これまでは専門員がGPS機器を使って現地を歩き、その結果をもとに地図を修正してきましたが、これには多くの時間と労力を要します。全国に多数ある登山道をひとつひとつ「現地で計測しないと直せない」という状況を解消すべく実施するものです。
従来、地図の計測には(国家資格を持った)測量士が携わってきましたが、それとは無関係な人が計測に介在することになりますので、仕組みが大きく変わります。
――なぜ導入に踏み切ったのでしょうか?
GPSの精度が向上し、スマートフォンなどの機器も普及したうえ、さらに登山情報のウェブサービスも拡大するなど、環境が整ってきたことがあります。導入にあたり、データを多く取得すれば精度のうえでも問題がないことを検証してきました。なお今回も、応募者に提供いただける内容や、その情報が地形図修正に活用可能かどうかを分析したうえで利用していきます。
――対象となる地形図や登山道は、どのようなものでしょうか?
対象は2万5000分の1地形図です。2万5000分の1は地形図の基本となるものですので、他の縮尺の地形図にも修正が反映されていくでしょう。
――ビッグデータを地図にどう反映していき、それにより地図はどうよくなるのでしょうか?
たとえばGPSのない時代に計測した地図で、描かれた登山道が実際にはGPSによる表示位置と少しずれているようなものが正確になるなど、精度が向上します。登山道は崩落などで付け替えられる場合があるのですが、そうした変化も地図に反映しやすくなるでしょう。
国土地理院の地形図などでは、登山道は点線(矢印の部分)で示される(国土地理院の電子地図を加工)。
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国土地理院は今回の応募について、「全国規模で登山者の移動経路情報を収集している企業または団体」「一定以上の情報を保有し、それらの情報を無償で提供が可能であること」を条件とし、保有情報の目安を登山者数(登録者数)10万人以上、登山記録件数50万件としています。登山記録を登録しているウェブサイト運営者や、登山のナビアプリ提供事業者などを想定しているといいます。
「登山道以外の修正にもビッグデータを活用するかは、今後検討する」(国土地理院)そうですが、将来的に、人の手のみに頼る地図作りはなくなるのかもしれません。
【図】ビッグデータに基づいた地図の修正例
緑の点が登山者の移動経路情報、赤線が修正した地形図の登山道(画像:国土地理院)。