長い空白の時を埋めるように距離を縮める男女の物語
――今回主演を務められました映画『心に吹く風』では20数年ぶりに再開した男女が、空白の時間を埋めるように、少しずつ北海道の地で愛をはぐくむ様子が描かれていました。お相手をされていた真田麻垂美さん演じる春香も、主人公であるビデオアーティストの日高リョウスケもともに繊細な雰囲気を持ったふたりで、『冬のソナタ』を手掛けられたユン・ソクホ監督らしい作品になっていたと思います。
眞島秀和(以下、眞島) 日高リョウスケという人は“アーティスト”だと思っています。昔の初恋を延々と忘れられない男なんですが、それが彼の表現活動そのものを支えている原動力でもあるんです。
――作中でも、春香をイメージした曲を即興で作るシーンがありました。再開するまでの20年間、根底で彼女のことを思いながら、捜索を続けていたんですね。なお、作中ではリョウスケと春香のふたりは、しばらくぶりに合ったお互いのことを探りながら、慎重に距離を縮めていたイメージがありました。このふたりの距離感に関して、監督から指示などはあったのですか?
眞島 撮影前の台本読みを重ねる中で、監督、真田さんの3人で「このシーンまでのふたりの距離感はこれぐらいがいい」「このシーンで一気にふたりの関係が親密なものに」と確かめていきました。だいぶ具体的なところまで、この本読みの段階でイメージを作っていきましたね。

――今回、ユン・ソクホ監督とのお仕事は初めてだったと思いますが、撮影を通して監督はどのような人物だと思いましたか?
眞島 監督を見ていると、「日高リョウスケ」ってこういう人物なんだと見えてくるんです。撮影中もとても穏やかな方で、リョウスケの持つとてもロマンティストな部分というのも監督ご自身を表しているんだと思います。
――ある意味、日高リョウスケとは監督の中から出てきたキャラクターだと。
眞島 そうかもしれないですね。
――共演されている真田麻垂美さんは、今作が16年ぶりの出演作になりますね。
眞島 僕は今の事務所に入る前から真田さんが出演されている作品は拝見させていただいていました。同世代ですし、今回の共演では不思議と“久々に再会したような感覚”になって。「僕は昔からこの人を知っている!」みたいな。

――ちなみに、撮影中の裏話やエピソードなどはありましたから?
眞島 作中は真田さんとふたりっきりのシーンが多いのですが、親友役の長谷川朝晴さんとのシーンは撮影の中でもある意味異質でしたね。キャラクターの作り方として長谷川さんの演じるリョウスケの友人は、リョウスケとは全く異なる気さくでオープンな役柄になっています。なので、彼と絡むシーンでは全く別の映画を撮っているような感覚で楽しめました。長谷川さんとは何度も共演させていただいているので、ご一緒させて頂くシーンではついつい楽しくなってきて芝居も引っ張られてきて…。終いには「このまま続けると日高リョウスケというキャラクターが崩壊する!」となってしまい、長谷川さんの芝居を拾わないでくれって言われたりもしました(笑)。
――ということは、長谷川さんとのシーンはわりと“素”の眞島秀和だったと。
眞島 そういうことになりますね(笑)。また、主人公のリョウスケがピアノを弾くシーンでは、作曲のイ・ジスさんが直接来てくださって。現場で、初めて僕がどういう曲を弾くのか、実演してくださったんです。

――確かに、作品を象徴するような透明感のある旋律が印象的でした。ちなみに、今回眞島さんにとって40歳という節目の歳の作品になりましたが、今後こんな役をやってみたいなどのビジョンはございますか?
眞島 僕の中で、こんな役に挑戦したいというものは実はないんです。とにかく、自分に与えていただいた役に向き合って、精一杯演じていくことにしか興味がなく、求められたものにきちんと応えていきないなと思っています。
――ありがとうございます。最後に、この作品をどのような人に見てもらいたいですか?
眞島 女性の方にももちろん見て頂きたいですが…、30代~40代の家庭を持った働き盛りの男性に自分の中でこんな初恋をしたなとか、あんな時もあったなと、思い出して日々を頑張ってもらいたいですね。これまで抱えていた淡い気持ちがあったら、この映画を通してまた思い出して欲しいと思います。