本日、平昌冬季オリンピックの閉会式が行われる。今回のオリンピック報道で顕著だったのは、日本メディアによる「嫌韓」と「日本スゴイ」の大合唱だ。
まずやり玉にあげたのが大会運営だ。
チケットが売れていないこと、シャトルバスなどの公共交通機関がスムーズに運行されていないこと、大会直前にスタッフ宿舎で起きたノロウイルスや食中毒の問題やボランティアスタッフの劣悪な待遇の問題、0℃を下回る寒さのうえ風も強いという過酷な天候、22時過ぎに試合が始まるなど遅すぎる競技時間──日本のワイドショーはどの番組もこれらのことを、まるで鬼の首でもとったかのように喜々として伝え続けた。
端的に言ってしまえば、そのどれもが限りなく言いがかりに近い。
たとえば、オリンピックだからってすべての競技のチケットが売れるわけではないし、券の売れ行きが芳しくない競技が出るのは、どの国のどの都市で行われるオリンピックも同じだろう。
また、競技時間が遅いのは、北米およびヨーロッパのプライムタイムに合わせている時差の問題であり、これも昨日今日に始まった話ではない。この件で攻められるべきは、オリンピックをアスリートのための大会ではなく金儲けのための大会にさせているオリンピックの運営それ自体であって韓国ではないし、この状況が見直されなければ、2年後の東京大会でも同じような状況になるのだ。
そして、さらにひどかったのが、「韓国ヘイト」を背景とした陰謀論めいた憶測の流布である。
ショートトラック競技をはじめ、平昌オリンピック開催中にはことあるごとに「不正判定」の声があがったが、挙げ句の果てには、日本人選手のドーピング問題すら「韓国の陰謀」との声まであがったのだ。
ショートトラック日本代表の斎藤慧選手は、大会前のドーピング検査にて禁止薬物であるアセタゾラミドの陽性反応を示し、暫定資格処分停止となった。
冬季オリンピックで日本人選手がドーピング陽性反応を示すのは初めてのことで、東京オリンピックのためにクリーンなイメージを打ち出したい日本としては痛手となった事件だが、これに対し、インターネット上では〈韓国お得意のショートトラックだから、盛られた可能性はある〉などという愚にもつかない陰謀論が溢れた。
●「嫌韓」から、日本人選手が活躍し始めると「日本スゴい」のオンパレード
先に述べた通り、北朝鮮の参加などをめぐり、日本のメディアは大会前から平昌オリンピックに対して冷や水をかけるような報道を繰り返してきたが、日本人選手がメダルを多く獲得し始めると、一転今度は「日本スゴイ」のオンパレードに。
確かに、羽生結弦や平野歩夢や小平奈緒らをはじめとする選手たちの活躍は素晴らしいが、しかし、それを扱うメディアの姿勢は、歌人・枡野浩一氏による有名な短歌〈野茂がもし世界のNOMOになろうとも君や私の手柄ではない〉を頭に思い浮かべずにはいられない恥ずかしい状況だった。
それはワイドショーだけではない。安倍首相は羽生や小平がメダルを獲ると彼らに祝福の電話をかけているのだが、その様子は動画で撮影され、官邸のSNSに投稿された。選手を讃えるというより、"羽生選手や小平選手に電話する安倍首相"をアピールしたいようにしか見えない。
羽生選手との電話のなかで安倍首相は「日本人として本当に誇りに思います」と語った。確かに、羽生選手は日本人かもしれないが、羽生選手の金メダルは、羽生選手個人の才能と努力や、カナダ人であるブライアン・オーサーコーチをはじめ日本人に限らないさまざまなルーツをもつ人たちのサポートによるもの。またそこにはプロスケーターだったオーサー氏をコーチになるよう口説き落とした韓国のキム・ヨナや、オーサー氏がキム・ヨナを通して得た成功経験も寄与しているだろう。
そういった構造は小平選手も同じ。小平選手にメダルをもたらしたのは、小平選手個人の才能と努力はもちろん、ソチオリンピック後に単身留学したオランダでの経験が大きかったといわれている。
つまり「スゴいのは選手個人であって、日本はべつにスゴくない」はパヨクのイチャモンでもなんでもない。実際問題として選手たちの活躍を生み出したのは国籍を超えた人脈や経験であって、「日本スゴい」でも「日本人だから」ではないのだ。
そもそもオリンピック憲章でも、オリンピック競技は個人間あるいは団体チーム間の競争であり国と国の競争ではないとして、国別のメダル獲得数ランキングの作成などを禁止している。にもかかわらず、日本では多くのメディアが国別のメダル獲得数を当たり前のように報じている。そこには、オリンピックをいまだ国威発揚の場としてとらえる感覚が根深いのだろう。
●「カムサハムニダ」と叫んだ羽生結弦、韓国のライバルと讃え合った小平奈緒
しかし、オリンピックに参加する当の選手たちは、周囲が煽る対立になど与していないようだ。その象徴が、2位となった韓国の李相花選手と小平選手が寄り添い、お互いに健闘をたたえ合った場面。これこそが「平和の祭典」たるオリンピックのあるべき姿だろう。また本日行われたフィギュアスケートのエキシビションでは、羽生選手は観客に向かって「カムサハムニダー」と韓国語で叫び、開催地への感謝を表していた。
ちなみに、日本のメディアは平昌オリンピックにおける不手際を執拗に揚げ足取りし続けたが、言うまでもなくこれは2年後の東京オリンピックのときにそっくりそのままブーメランとして返ってくるものである。
7月後半から8月頭の酷暑の時期の開催となる東京オリンピック。
そういった問題が起こった際、日本が、眼前に立ちはだかる障害をスムーズに乗り越えられるとは、とてもではないが思えない。実際、すでに新国立競技場建設問題をはじめ数多くのトラブルが発生し、いずれも根本的な解決ができていないままだ。
ご存知の通り、東京オリンピックは招致段階で喧伝されていた「コンパクト五輪」の構想はもろくも崩れ去り、当初の予算を大幅に超過。雪だるま式に膨れ上がり続けている。
日本のメディアは平昌オリンピックにおける公共交通機関の滞りを嘲っていたが、東京オリンピックだって輸送計画に不安を抱えている。平昌とは違って大都市での開催なので、「観客が終電を逃しました」レベルでは済まない大きなトラブルとなる可能性も指摘されている。
しかし、この国のメディアには、平昌で起きた諸問題を他山の石と捉えようとする真摯な姿勢はついぞ見られなかった。このまま2020年まで自国の問題は見て見ぬふりをし、「日本スゴい」と愛国ポルノに耽溺し続けていくのだろうか。
東京オリンピックはどんなグロテスク愛国ポルノショーになってしまうのか。そのことがあらためて恐ろしくなった、平昌オリンピック報道だった。
(編集部)