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クマ「ワシら別にかわいそうじゃないんじゃ。勝手に同情せんでくれ」

2010年11月16日 11時00分 ライター情報:近藤正高

宮崎学『となりのツキノワグマ』(新樹社)。表紙カバーの写真は昨年、中央アルプスのふもとの川べりで撮影された親子のクマ。親グマの耳の赤と黄色のタグは、以前、里で人間に捕まり、「学習放獣」の名のもとに“お仕置き”して放されたさいにつけられたもの。この写真は、かつて人にお仕置きされたにもかかわらず、いまだに人里近くに住み、子供を生んで育てているという事実を物語っている。

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にんげんのみなさんへ

ワシは、長野県の中央アルプスの山中に棲むツキノワグマじゃ。もうかれこれ30年近く生きておるから、かなりの老いぼれである。

今年の秋は例年以上に、日本のあちこちでワシの仲間たちが山から下りてきて、人間のみなさんにはえらい迷惑をかけたらしいのお。この場を借りて、けがを負った方、商売などに損害を受けた方たちに、お詫びとお見舞いを申し上げるしだいじゃ。どうも、申し訳ない。

しかし、あんたら人間のあいだでは、ワシらツキノワグマについて議論が起きとるみたいじゃな。なかには、山のドングリが減っとるから、クマたちは餌を求めて人里まで下りてくるのだと言う人たちもおるようじゃの。そういう人たちは、ワシらが絶滅の危機に瀕していると心配しとるようじゃが……。

ただ、ひとつだけあんたらの勘違いを指摘させてもらうと、ワシらが食べるのはドングリばかりではない。ツキノワグマは、人間が思っとる以上にグルメなのじゃよ。

宮崎学という動物写真家がこの夏刊行した『となりのツキノワグマ』という写真集には、ワシらの食べ物として、ドングリのほかタケノコ、クリ、ヤマブドウ、ノイチゴなど、四季折々の山の実りの写真がずらりと並べてあって、思わずよだれが出るわい。

この宮崎、ワシらの食生活をさらに深く知ろうと、糞にまでレンズを向けている。それによれば、初夏は山菜、夏はヤマザクラ、秋にはクルミと、糞にも四季ごとに異なる植物が混じっていたそうじゃ。さすがにここまでやられてはかなわんのお。

ついでにいえば、ワシらは何も植物系のものばかり食べておるばかりではないぞ。朽ち木や倒木を壊しては、そこに巣をつくったアリを食べることもあるし、なかには、養蜂場や魚の養殖場へ赴いては、ハチミツやニジマスを失敬する輩もおる。そういうところも、ちゃ~んと宮崎はカメラに収めていたのだった。まあ、クマだってできるだけ楽に食糧を調達したいのじゃよ。

ありがたいことに、人間の果樹園には売り物にならない果物が捨ててあったりするし、民家の庭にも果樹が植えてあったりする。いわば、クマにとっては穴場じゃな。人里に下りることは、あんたらに捕まったり、ときには銃で撃たれるなどリスクはあるものの、やはり食べ物の誘惑には勝てんわい。

さて、先ほど紹介した宮崎学がワシらツキノワグマに注目したのは、40年近く中央アルプス周辺で野生動物を撮り続けるなかで、クマの数が増えているのではないかと気づいたことがきっかけだったそうな。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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