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嘘が元だからね

――21歳のときに、ライターに誘われなかったら今ごろなにをやっていた、とか考えたことはあります?
鶴岡 断言するけど、俺はこういう仕事をしていなかったらかなりダメな人だよ。一歩間違えれば壁を隔ててレイズナに会っていたかもしれない。

――穴のたくさんあいている強化ガラス越しに。
鶴岡 親族じゃないと会えなかったかも……。兼業の人は感心する。ちゃんとお勤めして、社会人と作家活動を続けられている方とか、なんてすごいバランス感覚なんだろう。「フィクションの作品を作ります」って言った時点で何かに背を向けているんだよ。可能性とか選択肢を倍以上失っているんじゃないかな。

――可能性や選択肢は増えていそうな気がするんですけど、違うんですね。
鶴岡 妄想を文章にして、うまいことデコレーションして、なんとか商品として読めるものにしているだけ。デコレーションの過程をしくじったらアウトだもん。
――どうやってデコレーションをしていくんですか?
鶴岡 たとえば、『切断王』なんて7、8年前ぐらい前に付いた嘘が元だからね。
――嘘って?
鶴岡 パチスロ漫画をやっていたときで、原作の仕事が面白くてさ。もっと幅を広げたくて知り合いから編集者を紹介してもらって飲んでいたんだよ。
そうしたら急に「なにか温めているアイデアはありますか」って。まさか聞かれるなんて思わなかったから
――普通は聞かれますよね。
鶴岡 あのときはさすがに、ノープランにも程があったね。でも、いろいろ食い違いがあって、俺は文章の書きおろしの仕事だと思っていたんだけど、編集者から「コミックフラッパー」を見せられて、「あ、漫画の話なんだ」って。
――うわー、焦りますよね、それ。
鶴岡 「実はかねてより温めているアイデアがありまして!」とその場で嘘を付いたんだよ。

――へえー。どこまで即興で考えたんですか? 
鶴岡 「舞台は独立土地になった歌舞伎町。そこに王の名を名乗るエキスパートがたくさんいて、戦っている。主人公は切断王という女の子で、日本刀を使って父親の仇を討つんですよ」、って適当に。
――キャラクターも設定もほとんどそこでできちゃった。
鶴岡 何年かして「連載をやろうか」って連絡もらって、別の原作を用意していたのに、「前に話してくれた設定が面白いからアレやろうよ」って。

――ほんとうに温めていた方は披露できなかった(笑)。
鶴岡 えっ? って思ったんだよ。酔っ払っていたから何を言ったかぜんぜん覚えてないんだけど、メールで内容を送っていたから見返したらめちゃくちゃしゃべっているの。もう一度練りなおしてバージョンアップしたんだよ。


あいつA級戦犯だよ

――キャラクターってどうやって作っているんですか?
鶴岡 んー、たとえば「機動戦士ガンダム」だとさ、負け戦ってわかっているのに、ジオン軍を好きな人が多いじゃん。でもそこにグっとくるものがあるんだよ。

――僕もジオンの方が好きです。連邦軍はガンダムとアムロの独壇場すぎるんですよね。
鶴岡 ジオンはシャア・アズナブルとザビ家以外は比較的まともな人が多くて、そういう人たちは気を使ってどんどん死んでいくでしょ。
――え、気を使って死んでいるんですか?
鶴岡 なんだろう、作戦に忠実なんだよ。「ガンダム」のストーリーって、上からの指令通りに戦争をしている一部隊のところに、シャアが真っ赤なモビルスーツで「助太刀をする」とか言って、どんどん引っ掻き回すじゃん。最終的にはシャア以外は全員死んじゃって。

――戦争終わったらシャアは行方くらましますね。
鶴岡 あいつA級戦犯だよね(笑)。
――ガルマ・ザビもキシリア・ザビもシャアがいなかったら生きていますから。
鶴岡 連邦軍の本拠地のジャブローにジオンが攻めたときも、シャアがいなかったらあんなに死ななくて済んだんだよ! あのバカが赤いズゴックなんかで来るから訳がわからなくなる。
――隠密部隊のなかにひとりだけ真っ赤ですからね。邪魔しにきているとしか思えないです(笑)。
鶴岡 でも、そういうものに感情移入しちゃう部分ってあるんだよ。俺もそういうのあるなと思って、自分の言いたいことは敵に話させようと思った。
――主人公に言わせるんじゃダメなんですか?
鶴岡 たとえばさ、狩撫麻礼さんの漫画って私小説的なんだよ。それはやめようと思った。説教臭いってことじゃないんだけど、主人公を自分の分身にして、そいつが最後まで生き残っていると結局自分の考えが正義ってことになっちゃうじゃない。もしくは「エヴァンゲリオン」みたいに悩んじゃう。
――どっちも嫌だった。
鶴岡 出口がないんじゃないかなって。そこを上手く扱える人もいるんだろうけど、俺はそこが下手なんだよ。だから、俺の分身を出すんだったら、面倒くさいところや嫌いなところを敵に与えて、次から次へと主人公に倒されていけばいいんじゃないかと思ったのよ。
――何人も自分の分身って作りにくくないですか?
鶴岡 そんなことない。自分の嫌なところなんか100個以上出てくるし、煩悩の数だけキャラクターを作れる。そう思ったとたんに何かがスっと楽になった。俺が自分自身と対立する能力が弱いのかもしれないけど、私小説的なものをやると、どこかに言い訳の部分ができちゃう。最後の最後でパンツが脱げない部分とかがあるんだよ。
――敵側に自分を投影させるってのは、何かを参考にしていたり?
鶴岡 『じゃりン子チエ』のはるき悦巳さんが「主人公をよくいじめる男の子のマサルが自分に近い」と語っていたのがヒントになっているかも。
――自分を主人公にする必要はないんですね。
鶴岡 そう考えると、俺が尊敬している水木しげる先生は鬼太郎というより、食い意地がはっていて、金に汚いねずみ男みたいな人なんだよな。貸本版時代のがめつかった鬼太郎の暗黒面をねずみ男が背負ったことによってメジャーになったんだよ。


男装じゃあしょうがないな

――シャアみたいに、主人公の永遠のライバルひとりじゃなくて、出てくる敵キャラ全員が分身というのは気がつかなかったです。主人公、切断王の衣音はどうって作っていったんですか?
鶴岡 衣音は「こんな女の子がいたら応援するよな」と思う自分の中の女性像。
――恋人ではなく?
鶴岡 俺に妹がいたからかもしれないけど、応援したいんだよな。子どものときにピンク・レディーや中森明菜が好きだったんだよ。いわゆる「清純派アイドル」には興味がなかった。
――ちょっと影があって。
鶴岡 そうそう。「フレッシュプリキュア!」だと、キュアパッションがいいね。敵だった子が味方になるっていいよな。
――主人公ではなくて、ちょっと王道からは外れた感じがいいんですね。
鶴岡 「ハートキャッチプリキュア!」だと、キュアサンシャインが好きだしさ。
――ええー、そこはキュアムーンライトじゃないんですか?
鶴岡 サンシャインに変身する明堂院いつきの声って桑島法子じゃん? 俺は中高生の男の子役を女性声優がやるには無理があると思っているんだよ。
――まあ現実だと変声期を過ぎていますからね。
鶴岡 だから最初カチンときていたんだけど、男装じゃあしょうがないなって。
――やっぱり王道から外れていますね。こだわりが強いなあ。
鶴岡 こだわりがあるのかなあ。自分のことは人に暴かれないとよくわからないから。だから今日は『切断王』の話をしにきたんだけど。
―――今日はもうほんとうに、ライター術をたくさん教えてもらって。
鶴岡 そういうんじゃなくてさ。『切断王』のPRのコーナーは!? いままでのはライター業界の生き残り方の話じゃん。俺が損していない!? 中村うさぎさんのときは最後の方はもっとグイグイ作品のことを聞いていたじゃん!
――えー。『切断王』1巻は、携帯コミックサイト「コミックアライブPlus」で配信された話と、「コミックフラッパー」に掲載された話で構成されています。今後の展開はどうなっていくんでしょうか。
鶴岡 おっ! まだ媒体は決まっていないけど、夏から秋くらいに新章が始まるので。
――いずれ2巻3巻と。
鶴岡 続けていきたいね。まだハッキリとは決まっていないけど、メディアファクトリーさんの方でやるということだけは決まっているので、それが起動に乗ればいいと思っています。
――応援しています! 今日はどうも、ありがとうございました~!
鶴岡 え、ちょっと、終わり? もう終わり!? もっと聞いてよ、『切断王』のこととか。「この作品をひとことで表すと?」とか期待してたのになー。俺、作者じゃん? レイズナ、それは下手過ぎだよ!?(笑)。今まで見てきたインタビューの中で一番下手!
(加藤レイズナ)