2017年にアメリカ大統領就任予定のドナルド・トランプ。その彼をモチーフにしたボードゲームがある。


ゲームの名前は「TRUMP THE GAME」。1989年にアメリカで発売された。
ドナルド・トランプがボードゲームになっていた。「TRUMP THE GAME」が意外に傑作
トランプの肖像が描かれているパッケージ。おそらく40代の頃。

当時壊滅的に冷え込んでいたアメリカのボードゲーム界が、トランプからお金を引き出して作られたものだそう。一見、これでもかとトランプを前面に出しているキワモノなゲームにしか見えない。だが、遊んでみるとこれが面白い、大傑作だった。

説明書の序文に書かれているトランプのメッセージを引用しよう。


「権力を感じてください! そして取引をするのです!」

ゲームの目的はお金を稼ぐこと


勝利条件は極めて明快。ゲーム終了時にお金を一番持っていた人が、真の「トランプ」であり、勝利者だ。

ゲームで扱うものは「8つの資産」「Tの駒」「ダイス」「トランプカード」。これらを駆使して、ゲーム内通貨である「100万トランプドル札(以下トランプ$)」をたくさん集めた人が勝ちとなる。

駒の形も「T」だし、ダイスは6の代わりに「T」が描かれているし、カードもトランプの顔写真が描かれているし、どれだけトランプだ! という気持ちになるが落ち着いて所定の位置に置こう。このときに、50トランプ$をそれぞれの資産の箱には入れておく。
ドナルド・トランプがボードゲームになっていた。「TRUMP THE GAME」が意外に傑作
ボードの所定の位置に8つの資産を配置し、スタートのマス目に「T」の駒を置いて設完了だ

扱うトランプ$にもトランプの肖像画が描かれている。
数年後にはアメリカのお札がこうなっているかもしれない。ちなみに単位が100万ドルなのは、「私は何百万ドルというお金の話をしています」とトランプ自身が言っているから。それ以下のお金には興味がないのだ。
ドナルド・トランプがボードゲームになっていた。「TRUMP THE GAME」が意外に傑作
トランプの肖像が描かれたミリオントランプドル札。100、50、10の3種類がある。もしかしたら数年後のドル札がこのように……?

設営が終わったら、トランプカードと、トランプ$をそれぞれ参加者に配り、ゲーム開始だ。

資産を購入する第一フェイズ


ゲームは2つのフェイズにわかれている。

第一フェイズの目的は、盤上にある8つの「資産」を購入すること。HOTELやAIR LINE、Tropical Islandといった資産は箱状になっていて、中にお金が入るようになっている。
ゲーム終了時に開封し、その資産の所有者が中のお金を手に入れることができる。

ゲームの進め方は、自分の番がきたらモノポリーのようにダイスを振り、出目の分だけ盤上を進み、止まった先の指示に従う。

モノポリーと違うには、資産に止まれば購入ではないこと。資産に止まったら、その資産には銀行から10トランプ$が投資される。プレイヤーが止まれば止まるほど、その資産にはお金が貯まっていく。

では資産はどうやったら買うことができるのか。
止まったマス目に「資産が売りに出る」と書かれていれば、その資産を買うためのオークションが開催される。そこで競り勝てば、資産を所有できるのだ。マス目の指示には「資産(誰も所有していない)」と「資産(どれでも)」があり、どれでもが出た場合は他プレイヤーが所有している資産も売りに出されてしまう。

ここまでだと、ちょっと資産の買い方が特殊なモノポリーのように思えるが、それだけではない。さまざまなトランプ能力を秘めたトランプカードがあるのだ。

トランプカードはどれも非常に強力で、例えば資産を買うオークションで相手1人を強制的に退場させるカード(新版ではトランプの決め台詞「You're Fired!(おまえはクビだ!)」になっているとか)や、退場させられたオークションに戻ってくるカード、銀行からお金を引っ張ってくるカードや、他プレイヤーに税金をかけて徴収するカードなどがある。


トランプカードは毎ターン1枚補充できる他、マス目やカードの指示で増えていく。このトランプカードをいかに温存し、効果的なタイミングで使うかが勝負の分かれ目になる。ただし、あまりに温存しておくと相手に奪われる可能性もある。

カードを奪う方法は簡単で、ダイスを振る機会に「T」を出すこと。マス目を進むためのダイスで「T」を出しても、トランプカードの効果で出た目×20トランプ$をもらうみたいな指示のもとに振って「T」を出しても、この時点で好きなプレイヤーからカードを1枚強奪できるのだ。その後にまたダイスを振り直すため、理論上は「T」を出し続ければ相手の全てのカードを奪うことができる。
ちなみに、カードがなくなったプレイヤーはトランプ力を失い、トランプではなくなってゲームからリタイヤしてしまう。

トランプカードを駆使しつつ、お金を貯め、資産を競り落とし、場に資産がなくなったら第二フェイズへ移る。

第二フェイズで取引をするのです!


第二フェイズでやれることは3つ。手元のトランプカードを使うか、誰かに取引を持ちかけるか、パスをするか。

この取引が、本当の意味で「何でもあり」だ。形があろうとなかろうと、資産やトランプカードだけではなく情報を売ったりすることもできるし、「この資産を2ターンだけ貸してくれたらレンタル料として100トランプ$払う」みたいな交渉も可能。「あいつに『T』を出されて奪われたカードを教えられるんだけれども、この情報を30トランプ$で買わないか」というやり取りすら飛び交う。トランプカードには「この資産を持っていればお金が手に入る」というものも多いため、相手がどういうカードを持っているかがわかれば取引で優位に立てるからだ。

口八丁手八丁で取引を行い、どれだけ利益を上げられるかはプレイヤーの商才次第。第一フェイズも十分に楽しいが、第二フェイズがとにかく楽しい。ちなみに、私の場合は値付けがどれもこれも相場より安すぎたため、商才がない! と言われてしまった。トランプのようにはなれないようだ……

全てのプレイヤーができることがなくなってパスしたら、そこで第二フェイズが終了。集計をして、総資金が一番多いプレイヤーが勝利者、つまり真のトランプとなる。
ドナルド・トランプがボードゲームになっていた。「TRUMP THE GAME」が意外に傑作
「あなたが今までにプレイしたことがないようなゲームです」と書かれたパッケージ裏面。確かに最初はモノポリーっぽいかと思いきや、第二フェイズの交渉はかなり他のゲームとは異なる体験だった

最初はちょっと変わったモノポリーかと思いきや、第一フェイズのバランスはきっちりとれているし、第二フェイズの心理戦がとにかく面白い。交渉ごとが苦手でも、第一フェイズで入手したトランプカードや資産があるおかげで、場の何が欲しいかが自分には明確になっていて、相手に取引を持ちかけやすくなっている。

30年近く前に絶版になったが、もしかすると今のトランプ旋風を考えると再版、もしかすると日本語訳が出るかもしれない。

最後に、箱にも書かれているトランプのメッセージで締めよう。

"It's not whether you win or lose, but whether you win!"
(勝つか負けるかではない、勝つかどうかだ!)

(杉村 啓)