「あの幾原邦彦監督の新作!」
新アニメ「輪るピングドラム」が始まる前からネット中を駆け回っていたのはこの幾原邦彦監督の名前でした。「あの」なんです。

あの、ってどれかというと、「少女革命ウテナ」です。もう今から12年も前に一世を風靡した作品。
物語の見せ方構造も少女漫画的要素をふんだんに詰め込んでいて面白いのですが、なんせ映像が極端に強烈。影絵や宝塚演劇のような演出、哲学用語、同性愛描写など様々な要素をちりばめ、寺山修司の劇団「天井桟敷」のJ・A・シーザーの音楽に合わせてキャラが動くという、空前絶後の映像を作り上げ話題になりました。
そりゃ、期待するなって方が無理です。
ところがどっこい、放映寸前になってもどんなアニメなのかまったくと言っていいほど分からない。
一応番宣も7種類ほど作られましたが、どれを見てもさっぱり内容が分からない。飛び交うピクトグラム、「あなたの頭の中の幸せを私に押し付けないで」「これは罰なんだ、キミ達は絶対幸せになれない」など思わせぶりなセリフがパズルのピースのように散りばめられているだけ。
しかし「人が運命を無視して、本能も遺伝子も無視してそれでも誰かを愛したとしたら」というナレーションを聞いていると、否が応にもウテナの時の耽美さやねじれた恋愛を期待してしまいます。

そしてついに本放送がはじまりました。
多くの人の感想はこうでした。
「なにがなんだかわからないけれどもすごい!」

ストーリー本筋自体はそこまで複雑ではありません。

兄二人と妹一人の家庭の物語です。実は妹は病気を持っていて、余命いくばくもない。両親の名前のところにはガムテープが貼られている3人暮らし。
ある日、妹の陽毬(ひまり)の発案で水族館に行きます。ところがその水族館で陽毬は……という話。
 
これだけ見ると全然たいしたことなさそうなのですが、いちいち演出が奇妙。

まず住んでいる3人の家、ボロボロでほとんどあばら屋状態なのに、まるで子供部屋のようにカラフルな飾りがあちこちに散りばめられています。部屋のふすまにはレースが貼ってあり、ソファーや陽毬のベッドは背景とそぐわないくらいやたら豪華。ファンシー!
陽毬は猛烈にかわいいので、味噌汁を飲むだけでキラキラと星が舞います。ファンシー!
町の中の人々はピクトグラム(記号)で表現されているのに背景や動物はリアル。ファンシー……?
非常に丁寧にかつ独自の手法で、キャラクターの心情を小物や背景で表現しているので、なんてことはないシーンでも「今まで見たことのない映像」として脳みそぶるぶる震わせます。必死に解読しようとしても追いつけません。

 
そこからの、たたみかけるような事件の連続。中盤で「えっ!!」というシーン。そのすぐあとにさらに「えっ!?」という展開。
そしてそして……突然起きる陽毬の変貌と「生存戦略!」のセリフ。
ここからが多くの人が述べていた「なにがなんだかわからないけれどもすごい」シーンの始まり。
極彩色の星の数々、妙に耽美的機械の奇怪な動き。
変身シーンというよりもストリップといったほうがしっくりくるキャラクターの動き。周囲を飛び交うのはピクトグラムの数々。
しかもBGMは、ARBの「ROCK OVER JAPAN」のカバー曲……おいおい1987年ですよ、どうしてそれチョイスしたの。でも動きとぴったりなんだこれが。

もう、なんだ、これは!
現時点ではそれがなんなのか明らかになっていません。
ただ、一話目としてここまで人の心つかむ映像と音楽を見せて、伏線になりそうな出来事ばらまきまくっているんですもの、そりゃ「なにがなんだかわからないけれどもすごい」と人に伝えたくなるってなもんです。

作画や音楽の魅せ方も緻密なんですが、緻密すぎるがゆえに違和感一つ一つが頭にこびりつきます。
感動とかを通り越した遠い遙か頭上で、とんでもないことが始まった感のある第一話になりました。

放映されない!という地域の方でも、8月12日からニコニコ動画で配信開始されますのでご安心を。
また、第一話から続きが気になって夜も眠れない、という方は現在発売されている小説版上巻を読んで、さらに謎に翻弄されてみるといいと思います。
第一話については「UFO見たよ!」的に喜んで頂ければ幸いです」と述べる幾原邦彦監督。
UFOの行方から目が離せなくなっちゃって大変ですよもう!
(たまごまご)