若手芸人たちのサバイバル合宿『笑けずり シーズン2〜コント編〜』(NHK BSプレミアム 金曜22時)。

「キャラ」のリアリティと「受け」のリアリティ
シソンヌが作るコントの軸は、じろうが演じるキャラクターにある。突拍子もない設定だけでなく、リアリティを足すことで「なんかいそうだな」と思わせる。その結果、お客さんがコントの世界にすっと入ってこれるという。
それでは実際に見てもらおう、という流れになり。
長谷川「わたくしが独断と偏見で選んだ相方の好きなキャラを……」
じろう「こんな恥ずかしいことあります?(笑)後輩芸人が見てる前で」
というわけで、「ラーメン屋」(パチンコで負けたおじさん)と「スーツの仕立て屋」(川島佳子)のキャラを生で披露するじろう。川島佳子には「未亡人」「若い男に惹かれる」などの裏設定があり、目線や歩き方、言葉使い、ホクロの位置などディテールにもこだわりがある。最初はウケなかったが、演じ続けて「おばさん」を仕上げることにより、ウケるようになったネタだ。
コント中は濃いキャラクターに目を奪われがちだが、ツッコミ側のリアリティも忘れてはいけない。例えば「ラーメン屋」で長谷川は店員を演じている。じろう演じるおじさんが「ここ、くっせぇラーメン出すとこだろ!」とメチャメチャなことを言い出すが、最初はあくまでお客さんとして対応しようとする。
リアリティが必要なのは人物造形だけではない。登場人物の関係性もリアリティの一つ。フリの部分の芝居をちゃんとやることで、リアルな世界から異常な世界へ飛べるジャンプ力が生まれる。リアリティは高く飛ぶための土台であることをシソンヌは教えてくれた。
「リアリティのあるキャラ」に3つのアプローチ
若手芸人に出された今回の課題は「魅力的でリアリティのあるキャラが活かされている新作コント」。審査は3日後。6組残った若手芸人のなかで、「リアリティのあるキャラ」を作るアプローチが3通りに分かれたのが面白い。
1つは実在の人物をモデルにすること。マンマーレは「合宿しているペンションのオーナー」、オダウエダは「植田のおばあちゃん」をベースにキャラを作ることを決めた。マンマーレは実際にオーナーに取材をし、オダウエダはおばあちゃんのキャラを思い出す。実在の人物なのでもちろんリアリティがある。
もう1つはゼロから架空の人物を作ること。男性ブランコは「日本語が片言の中国人ガイド」にし、ネットで『プロジェクトA』の主題歌を聞いて中国語の発音を体に染み込ませる。ハナコは「ナヨナヨしたストリートミュージシャン」の曲を自分たちで2曲作る。マスオチョップは「40年間髪の毛を切っていない人」を黒の毛糸を買い込んで作り上げる。ゼロからキャラを作れば変なことが自由にできるが、リアリティを生むには考えることが多くなる。
どちらのアプローチにも属さなかったのが、おべんとばこのオオハシ。リアリティもなんのその、強烈なキャラでゴリゴリに押す。その豪腕はシソンヌに「リアリティ無しでも面白くできる人」と言わせるほど。こうなると課題は相方の中川による「受け」のリアリティになる。
ちなみに、朝の体操(毎朝持ち回りでオリジナルの体操をする)のシーンで、全員がダンボール製の武器を持って並んでいる場面があったのだけど、公式HPの笑けずり日記によると、この武器はオオハシくんが作って全員に配ったらしい。
この日(合宿8日目)のおべんとばこの二人の日記はこうなっている。
オオハシ:道具をたくさんつくりました。大変でした。
中川:オオハシが午後からたくさんの小道具を作っていた。それはネタではひとつも使われないものだった。
前回、誕生日を迎えたオダウエダ小田のためにダンボールのバースデーケーキを作っていたオオハシ。小田に寄せる恋心もどうなるかも気になるところ。
古畑じろう
運命の審査の日。6組が順番にネタを披露する。審査員はシソンヌ、水道橋博士、インパルス板倉。特にシソンヌじろうの「リアリティのほころび」を見抜く目がすごい。
男性ブランコが披露した「観光ガイド」には、ガイドが「毒蜘蛛に気をつけてください」と注意する場面がある。じろうが注目したのは「注意された人がパーカーの袖をまくったままにしている」こと。
じろうは第1回の最終オーディションでも「女装コントで女性役が着衣の乱れを直さない」ことなどを指摘。今回の授業で行われたワークショップでは「このおばさんは『チャリ』より『自転車』というはず」と言葉使いに引っかかった。わずかな違和感からリアリティのほころびを見抜く。もはや古畑任三郎レベルの眼力である。
審査の結果、けずられたのはマンマーレの2人。演技力の高さは評価されたものの、キャラの追求が足りなかった。「授業に出るたびに得るものがあった」と語る2人。合宿で作ったネタを完成させる、という目標を掲げ、ペンションを去った。
残り5組。
(井上マサキ)