前編レビュー
突然学校に辞表を出して姿を消した山路一豊(松阪桃李)。

「名前つけねえと気が済まねえですか?」
「小学校教諭 自殺」「30代 元小学校教師 再就職」などネガティブワードで検索しては落ち込む正和にしびれを切らしたまりぶが「じゃあなみえ焼きそばでも食って帰るか?」と声をかける。すかさず焼きそばの店を検索する正和にまりぶの放つ言葉がいい。「友だちの未来占った指で焼きそば検索してんじゃねえよ! 軽いんだよ、指1本で」。現実を見ずに不安ばかり募らせる正和に対して、まりぶはいつもしっかりと現実を見据えている。
茜から連絡を受け、久美を連れて坂間家に戻った正和とまりぶ。ここで久美VS茜、蒼井優と安藤サクラがっぷり四つのバトルがはじまる。
娘をほったらかして地元に舞い戻った久美に「だからゆとりはって言われんだよ?」と諭す茜。しかしその言葉は、田舎に生まれてシングルマザーとして母のスナックを手伝う久美にとっては、まったく実感をもてない。「それって東京の話ですよね? 田舎では誰も言いませんよ」「中卒はゆとりなんか感じたことねえよ、必死でしたよ、毎日」「名前つけねえと気が済まねえですか? だったらバカでいいです」「正義感で育児はできねえよ」。
昨年のドラマ本放送で3ヶ月かけて描いてきた「ゆとり第一世代の苦悩」。
その言葉に面食らいながらも、茜は「それでも言い訳したくない、ちゃんと育てたい」と強く言う。実際に一人で子供を育てている久美に対して茜は妊娠4ヶ月で、まだ出産していない。茜は東京で大学を出て、自分の力でキャリアを掴み取ってきたし、自分で決断して坂間家に嫁に入った。久美は彼氏が連れ子である娘に暴力を振るおうとするのにただ困るばかり。坂間家全員からの祝福がある茜と、入院中の母しかいない久美。二人は同世代の女性でありながら、まったく違う。
宮藤の筆は二人のどちらも否定しない。ただ、両方ともいる、お互い精一杯生きている、ということだけが描かれていて、答えは出ない。スカッとすべてがうまくいくような嘘は、ここには書かれていない。
まりぶ、夢を抱いて中国へ
正和の家のモノレール計画は変更され、酒蔵と借金だけが残った。山路は分厚すぎる退職願を教頭が読み切れなかったために学校に復職した。
「純米吟醸純情編」と銘打たれた今作。30歳にもなって、たしかに彼らはとことん純情だ。自分の幸せを求めて、現実を突きつけられてうろたえて、寄り道しながらまっすぐに生きる。
宮藤は週刊文春の連載「いま、なんつった?」17年6月29日号で『ゆとりですがなにか』について以下のように書いている。
「3人が再会するところから物語が動き出し、なんやかんやあって、またバラバラに去っていく。(中略)『あ、久しぶり』『あ、どうも久しぶり、どう最近』という所から始められる定点観測ドラマ」
1年後、もしくは5年後、10年後? また彼らに会うのを心待ちにしたい。
(釣木文恵)