タイトルに偽りなし! お前もお前も全員死刑! すこぶる景気のいい、殺る気満々の一本が『全員死刑』だ。
「全員死刑」大牟田4人殺害事件が映画になった。殺る気満々、1人目の犠牲者はYoutuber

殺人一家、場当たり的に大暴れ!


『全員死刑』は、2004年に福岡県大牟田市で発生した大牟田4人殺害事件をベースにした作品である。直接の原作となったのは、この事件の実行犯の獄中手記をまとめた鈴木智彦の著作『我が一家全員死刑』
この本のタイトル通り、事件を起こした家族には本当に全員に死刑判決が下っている。

ヤクザの組長の息子、タカノリは風俗店をシノギにするヤクザ。今日も今日とて店内で盗撮した男を締め上げて暇をつぶしていたが、そんなところに兄のサトシ(同じくヤクザ)が現れ、家に連れ帰られる。実家では、父であり組長でもあるテツジと母ナオミから「ちょっと悪いけど、身代わりに一回ムショに行ってきてくれないか」という相談が。渋るタカノリだったが、結局は実家でもある組のため、懲役を食らうことを決める。タカノリは家族思いなのである。

出所したタカノリを出迎える兄サトシ。しかし組(実家)は膨大な借金を抱え火の車になっていた。テツジは自殺未遂を起こし、ナオミはますますヒステリックに。そんな状況を打破するべく、サトシは近所の資産家である吉田家からの現金強奪をタカノリに持ちかける。しかしあまりにも無計画にターゲットの家に押し入った上、資産家の息子を場当たり的に殺してしまったことから事態は悪化。さらに実家からも「資産家一家の嫁を殺して金品を奪うべし」という指令が下り、かくして家族ぐるみの強盗殺人計画の幕が開く!

家族愛、組織への忠誠、そういったものの表現として、タカノリはとりあえず目に入ったターゲットを無計画にバンバン殺す。
殺すのはいいけど(よくはない)、後のことを一切考えてないからアッという間に行き詰まる。人間はなかなか死なず、首を絞めている最中も喉が乾くからお茶だって飲みたいしタバコだって吸いたい。とにかく間抜けでガバガバに穴だらけな連続殺人がこれでもかと描かれる。

恐ろしいのが、『全員死刑』でギャグのように描写されている要素はほとんど全部実際の大牟田の事件通りという点である。ターゲットの一人が「パトラ」というあだ名(化粧の感じがクレオパトラっぽいという理由から)なのも、睡眠薬をすり鉢で粉にして「ふりかけ」にするのも、凄まじく適当な感じで彼女と仲直りするのも、びっくりするくらい人間が死ににくいのも、全部犯人の手記に書いてある通りなのだ。

一見すると最悪の悪ふざけにしか見えないけれど、実は犯人の手記に沿った内容になっている。そういう点で、『全員死刑』は案外真面目な作りの映画である。ディテールも作り込んであり、ちゃんと長男サトシの手に適当なタトゥーが入っているのには恐れ入った(実際の事件でもこのタトゥーが入った手元がNシステムで撮影されていたことが証拠のひとつになっている)。インディーで不良が暴れまわる映画を撮りまくり、『全員死刑』のフランスでのワールドプレミアではフルチンで自分も暴れるという小林勇貴監督だが、おそらく根は真面目である。多分。

俳優陣も良い。この作品が映画初主演となる間宮祥太朗は役柄の割にはちょっと顔がキレイすぎる感もあるのだが、それでもシャブをキメてギンギンになったりタオルやキーチェーンで頑張って首を絞める姿からは清々しいものが漂っていた。
さらに本物っぽいのが兄サトシ役の毎熊克哉である。ヤンキーというのは数秒おきに機嫌がコロコロ変わり、小さいことでいきなりブチ切れて相手を威圧する癖がある人が多い。毎熊の演技はまさにこれをうまく再現しており、特に映画の冒頭で「お前なにを勝手に割り込んできとるん?」「おれが喋ったら毎回お前が割り込んでくるちゅうんか」といきなりキレる演技の間が見事。「これこれ! この間がヤンキーですよ!」と拍手したくなる完成度だ。

「全員死刑」のタイトルに偽りなし!


前述のように実際の事件に関するディテールを作り込んである『全員死刑』だが、もちろん映画なので様々な点が改変されている。実際の事件では犯人一家の息子たちは相撲部屋に弟子入りするほどの巨漢なのだが、間宮祥太朗はシュッとしたイケメン。登場人物の体型やルックスの点では実際の事件から大きく離れている。

映画オリジナルの要素として付け足されているのが、犯人一家の家に大量に貼ってある相田みつをっぽい筆文字のメッセージである。かなり大量に貼ってあるのでひとつひとつ読み分けることは難しいが、そういう張り紙に囲まれて犯人一家が殺人家族会議を開く様を見ているとついつい性格の悪い笑いが出る。

一人目の犠牲者がYoutuberになっているのもオリジナルの改変要素だ。タカノリが自分を絞め殺そうとしているのに全く気づかず、「カレーを溜めたビニールプールに入る」といういかにもYoutuber的な実験に挑む絵面は非常にバカっぽい。絞め殺される直前に「みんな自分よりバカな奴を見て安心したいんですよ」と知ったふうなことを言っているのを思い出すと、またしても意地の悪い笑いが漏れる。
また、3人目の犠牲者がやたらと携帯ばっか見てクネクネしてる上に声がすごくちっちゃいとことかも、見てて非常にイライラする。で、やっぱりそれが死ぬと「おっ! やっとるな!」という感じになるのである。

これらの改変箇所は、まさしく監督の意図が読み取れる部分だろう。要はネットや実生活で「こいつら死なねえかな〜」と思っている人をスクリーンの中でどんどんひどい目に遭わせ、バンバン殺すのである。思い切りの良さに唖然としつつも、前からウザいなあ〜と思ってたような人たちがドカドカ悲惨な目にあうので爽快感がある。まさに全員死刑! タイトルに嘘偽りが全くない!

とか言ってヘラヘラとこの映画を見ていると、ふと気づくのである。もしこの映画の中なら、四六時中ネットばっかり見てダラダラしているおれだって、間違いなく殺られる側であることに。無軌道で無計画な自然災害みたいなヤンキーが自宅に突っ込んできたら、なす術なく絞め殺されてしまうことに。『全員死刑』の"全員"には、果たして本当におれは含まれていないのか? 本当にお前は無関係なのか? 傍観者気取りで笑って見ている場合なのか? ドキリとするおれを置いて、映画は終わる。「Good Luck!」と言い残して。

【作品データ】
「全員死刑」公式サイト
監督 小林勇貴
出演 間宮祥太朗 毎熊克哉 清水葉月 六平直政 入絵加奈子 ほか
11月18日より上映中

STORY
金欠に悩むヤクザ一家の息子、首塚タカノリは兄のサトシにそそのかされ、近所に住む資産家吉田家の家を襲う。そのはずみで吉田家の息子を殺してしまったタカノリだが、今度は父や母も参加した吉田家への強盗計画に巻き込まれる。

(しげる)
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