真弓「この人は、あんたにはもったいない。私が幸せにします。
太郎さんと、慎吾くんと、麗奈と私と、私たち4人で幸せになります」

6月15日(金)放送の金曜ドラマあなたには帰る家がある(TBS系列)。
まさか! と思うか、やっぱり! と思うか。真弓(中谷美紀)が茄子田(ユースケ・サンタマリア)を愛することを選んだ第10話。綾子(木村多江)が佐藤家に乗り込んできたときの台詞を思い出す。

綾子「これからは、ママとパパと麗奈ちゃんと慎吾と、4人で幸せに暮らしましょうね」

でも、麗奈(桜田ひより)は真弓を選び、慎吾(萩原利久)は茄子田を選んだ。綾子と秀明(玉木宏)は、こどもたちに選ばれなかったのだ。

今夜最終話「あなたには帰る家がある」子供に選ばれる親と選ばれない親の違いはとっさの人間性だった10話
イラスト/Morimori no moRi

「とっさの人間性」を積み重ねた説得力


綾子「あなたが嫌い」
真弓「はあ?」
綾子「嫌い。あなたみたいな女が、昔から。声が大きくて、スポーツが得意で、クラスの中心にいて、女子に人気で。あなたみたいなタイプに、よくいじめられた」

綾子の本来の姿を描いた10話。彼女の後ろ暗い過去は、かつて実の姉の夫と関係を持ったこと。そして、慎吾はその義兄との間にできたこどもであることだった。
この大きな問題と並行し、今回は、真弓たちの「本来の姿」を繰り返し見せた回だった。


とっさの行動には、その人本来の人間性が反映されているように見えるものだ。
あぜ道で動けなくなっている車を見かけ、自分が泥まみれになってもとっさに助けに入る茄子田。喧嘩をしていたはずなのに、姉に叩かれる綾子をかばってとっさに間に入った真弓。この2人の躊躇なさに好感が高まる。
対して、秀明は目の前で何が起こってもとっさに対応できない。綾子は、土地勘のない真弓を置いてとっさにいなくなろうとする。


こどもたちは、それぞれ真弓、茄子田と暮らすことを選んだ。真弓も茄子田も、完璧な善き母、善き父だというわけではない。まだ中学生の麗奈に気を遣わせてしまうし、慎吾がつらい思いをしていたことに気づけなかった。そんな2人だ。
それでも、とっさに表れた人間性を知ったことで、麗奈と慎吾の選択に深く納得できた。

不倫やモンスター化する綾子、女と女のバトル! など、大きな爆弾をボンボンと落としていく今作。
しかし、その合間に人間性が垣間見えるエピソードや態度を細かく入れ込み、登場人物を記号としての「浮気された妻」「ヤバい女」などに留めて描くことはない。
新たに明かされる過去や内面が見えるたび、見ている側もキャラクターひとりひとりを理解したい気持ちになってくる。大島里美が書く脚本の緩急に、すっかり乗せられてしまっている。

原作のインパクトを薄めない視覚的工夫


今回もまた、佐藤家、茄子田家のこどもたちの年齢を原作から変更したことが活きた。
原作では赤ちゃんと幼児で、親たちのいざこざの渦中には入れなかったこどもたち。でも、ドラマ版の麗奈と慎吾は中学生と高校生だ。
親の姿を見て、自分はどうしたいかを自分で決めていく。

綾子の母親の通夜。綾子でさえ居ることがつらい場所に、茄子田は慎吾を連れて乗り込んだ。慎吾の実の父親に「茄子田家の大事な一人息子」を紹介するためだ。
初めてお焼香をあげたのか、茄子田の振る舞いを頼りに一生懸命真似する慎吾は、まさしく茄子田の息子だった。そして、初めて実父と対峙した慎吾の背中に手をあて、支え切った茄子田は紛れもなく慎吾の父親だった。


茄子田は「帰るぞ」と声をかけ、居心地の悪い通夜の場から綾子をも助け出した。ヒーローだ。
そして、サインした離婚届を綾子に渡した。綾子に「自由になれ」、秀明に「幸せにしてやってくれ」、慎吾に「どっちと暮らすかは、お前が選べ」と言う。これで茄子田と別れて慎吾と暮らせると期待したのか、綾子の顔が緩む。でも、飲みに出かけようとする茄子田を追った慎吾は「父さんと暮らす!」と叫んだ。

その後、さらに追いかけてきた真弓に、これまでの気持ちを打ち明けた茄子田の台詞。全文をここに書きたいくらい、一字一句胸に響いた。

茄子田「綾子のこどもなら、誰のこどもでも俺のこどもだ。俺が育てたんだから、俺の息子だよ。なんでみんなそんなことにこだわるんだ。どうでもいいんだそんなことは。一緒に暮らして、同じ飯食ってたら、家族だろ? なんでだ。俺にはわからんことばっかりだ」

ここでもまた、真弓は“とっさに”茄子田を追いかけた。弱っている人、傷ついた人を放っておけない質。そんな真弓が「この人は、あんたにはもったいない。私が幸せにします」と宣言することも、またうなずけるものになっていた。

茄子田の頬を両手で包み込み、おでこにキスをした真弓。ここまでの10話で一番女っぽく、性的な仕草と表情だった。秀明ですら、こんな真弓を見たことがあったかどうか。
原作では、真弓が秀明に「私、茄子田さんと寝たよ」と言い放つ場面がある。文字で読むと衝撃的だが、そのままでは映像としてインパクトを与えることが難しそうだ。
真弓が茄子田を守る包容力を見せつけたこのシーンは、原作と同じくらいの驚きを視覚的にもたらしていた。

こどもの年齢変更といい重要なシーンのアレンジといい、原作を大切に読み解きつつドラマの軸をブラさない工夫が行き届いている。
今夜放送の11話は最終話だ。結末をどのように解釈して見せてくれるのか、楽しみでしかたない。

番組公式Instagramには、桜田ひよりと萩原利久が「私たち、兄妹になっちゃうの?」「兄妹!?」「やだやだやだやだ~!!」と駄々をこねる動画がアップされている。ドラマではツンツンとした顔ばかり見せている萩原のおどけた姿と、麗奈そのままの桜田が可愛くて延々と再生したくなる。見視聴の方はぜひ(動画)。

(むらたえりか)

【配信サイト】
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TVer

金曜ドラマあなたには帰る家がある(TBS系列)
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫)
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
演出:平野俊一、吉田健、松田礼人
編成:高橋正尚
音楽:兼松衆
主題歌:Superfly「Fall」(ワーナーミュージック・ジャパン)