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「現実を直視しろ」演出家・蜷川幸雄が次代に向けて叫んだ『身体的物語論』

2018年7月20日 09時45分 ライター情報:近藤正高
今年4月、2016年に亡くなった演出家の蜷川幸雄の三回忌追悼企画として、過去の蜷川演出の舞台3作品(『NINAGAWAマクベス』『身毒丸 ファイナル』『じゃじゃ馬馴らし』)が全国の映画館で上映された。

私もこの機会に『NINAGAWAマクベス』を観に行った。同作は1980年に平幹二朗主演で初演され、その後、作者シェークスピアの故国であるイギリスでも大評判を呼んだ蜷川の代表作の一つだ。三回忌追悼企画で上映されたのは2015年のシアターコクーンでの公演を収録したもので、市村正親が主演を務め、田中裕子、吉田鋼太郎、柳楽優弥などが出演した。

蜷川は同作の演出にあたり、役名もセリフもシェークスピアの戯曲『マクベス』(小田島雄志訳)そのままながら、舞台を大胆にも日本の戦国時代に置き換え、出演陣もこの時代の衣装で登場させた。さらに舞台上には巨大な仏壇が設置され、そのなかで物語が繰り広げられた。いずれの趣向も演劇史に残るもので、私も以前から話には聞いてはいたが、映像を通してとはいえ実際に目にすると圧巻だった。
蜷川幸雄の晩年の談話、インタビューを収録した『身体的物語論』(徳間書店)。インタビュアーのほか、企画・構成を「エキレビ!」の朝ドラレビューでもおなじみの木俣冬が担当している

舞台から遠くても楽しめる蜷川作品


先ごろ刊行された蜷川幸雄『身体的物語論』(徳間書店)所収の蜷川の「ラスト・インタビュー」でも、冒頭、この2015年の『NINAGAWAマクベス』のことが話題にのぼった。このとき、聞き手の木俣冬が《コクーンの2階の一番後ろのほうから観ても、蜷川さんの作品は楽しめます。(中略)舞台の隅々までいろいろ工夫があるので》と感想を伝えると、蜷川は次のように返している。

《若いころ、走り回っていたのがいいのかな。客席のてっぺんまで走って、全体を見ていたからね、下から上まで。体力あったから。安い席で観ている人でも楽しく見られるようにしたいなっていう気持ちはあったんだよね》

このインタビューの前年、蜷川は体調を悪くして入院し、移動にも車椅子を使うようになっていた。そのため、若いころのように自由に動き回ることはできなくなったものの、それでも長年の経験から、客席のてっぺんから舞台がどう見えるかということはわかると語った。

ラスト・インタビューは、『NINAGAWAマクベス』の公演が終わったあと、『ヴェローナの二紳士』の稽古中に行なわれた。蜷川はこのあと『元禄港歌―千年の恋の森―』を演出し、さらに翌春には自伝的戯曲『蜷の綿』の上演が予定されていたが、残念ながらその準備の途中、2016年5月に80歳で亡くなっている。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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