2012年11月18日、東京流通センターにて、文学メインの同人誌即売会「第15回文学フリマ」が開催された。2002年11月の第1回文学フリマからちょうど10周年を迎えたことになる。
当日は晴天に恵まれ、11時から17時までの開催時間中(今回はこれまでより1時間、終了時間が延長された)、客足が絶えることはなかった。

さて、エキレビ!では一昨年11月の第11回より毎回、各ライターが文学フリマで見つけて面白かった本を紹介している。今回はその第5弾として、ライター陣のおすすめ本をここに一挙に紹介したい。なお、各文章の冒頭には本のタイトルとともに、カッコ内にその本を販売していたサークル名を示した。

■『怨念ガールズコレクション』(とうもろこしの会) 推薦者:tk_zombie
毎回ゾンビの本を探していますが、今回はついに一冊も見つかりませんでした(「これからのゾンビの話をしよう」という手書きの看板を置いたブースの目撃情報を聞いたのですが、見つけられませんでした)……。傷心で歩いているうちにとうもろこしの会さんのブースで一目惚れしたのが『怨念ガールズコレクション』です。
「街角で見つけた、今イチバン祟ってる娘が大集合」というキャッチフレーズで、口裂け娘、牛女などの都市伝説・妖怪に加えて、ワイン女子、肉食女子、森ガールなどの流行語を、陰惨だけどユーモアもある解釈で造形したモンスター女子のグラビア本です。vol.1、vol.2があって両方買いました。怖い話を聞いた後に一人で夜道を歩いていたら視界の端にちらっと見えそうな怖さと嫌さが最高です。

■『仕事文脈 vol.1』(仕事文脈) 推薦者:青柳美帆子
「仕事」がテーマの雑誌『仕事文脈』の創刊号。「ダメ人間がフリーランスになって1日で1ヶ月分を稼ぐ方法」「近藤佑子がメチャクチャにヤバイ就活生になって学んだ就活術」「無職の父と、田舎の未来について。」など、ネットで話題になった人たちが登場してます。
「今は、仕事も家族の形も暮らし方も、普通などない。
むしろ普通だったことに縛られている部分が、歪み、軋み、リスクを招き、ときには命にかかわりさえする」。巻頭の「ないけど、ある仕事」で宮川真紀さんが語るように、「就活→新卒で就職」といった「普通の働き方」はだんだんと成立しなくなってきています。そんな中で、違った働き方について考え、行動している人たちを見ることのできる今号は、「こんなこともできるんだ!」と驚きの連続。
ちなみにおまけでメチャヤバ就活生近藤さんのステッカーがもらえました。PCに貼ったら御利益あるかなー。

■『haco』シリーズ(door220) 推薦者:米光一成
「ひとつの物語には、ひとつの空間が必要」マッチ箱サイズのジャバラ小箱本。
かわいいいい!ブースにたくさん並べられていて、全部欲しくなっちゃった。他にも「23歳ニート、喪主になる。」など取材を元にしたテキストが凄い『HK』や、非モテの婚活特集の『奇刊クリルタイ7.0』や、南極を目指す短歌集『南極点へ』(石川美南)や、今関あきよし伝説、あわたプロインタビュー『殆ど無い』など、いろいろグッとくる本がたくさんありました。

■『めぐりコンプリート ~巡り蒐集趣味の分類体系~』(NEKOPLA) 推薦者:とみさわ昭仁
やっぱり今回も買い求めて来たのは蒐集系の本ばかり。ホラー映画とか絵馬とかゴキブリとか、そういったナイスなテーマの集め本をいろいろ買った中から、今回とくにお薦めするのは『めぐりコンプリート』。これはどういうものかというと、日本全国の東横インに泊まっては室内写真を撮り集めたり、初詣をハシゴしてみたり、岬のモニュメントで記念撮影めぐりをしてみたり……というように、何らかの物体を集めるコレクションではなく、自分自身の“行動”をコレクションするということ。これは、わたしが提唱しているエアコレクターの概念(モノを集めるのではなく、モノに関する“情報”を集めること)にも通ずる考え方だ。
物理的に無理なはずの「コレクション」と「断捨離」の両立。それを可能にするのがエアコレクションであり、めぐりコンプリートでもあるのだ。

■『指原莉乃2.0―大分、HKT48、そして日本へ―』(ちろう商事) 推薦者:近藤正高
文学フリマには第1回からほぼ欠かさず出店しているのだが、今回はなぜか、妙にアイドルがらみの本が目立つなーと感じた回だった。それは、今回ぼくのサークルの隣りの4ブースぐらいがアイドル評論のサークルだったのでよけいにそう思ったのかもしれない(なお、こういう配置になったのも文学フリマ事務局の何かの思し召しと勝手に受け取ったぼくは、急遽、自分がいままでエキレビ!などに発表してきたAKB48関連の記事をまとめてコピー誌を発売したのでした)。とはいえ、全然アイドルと関係のない本のなかでも、コラムなどでAKBへの言及をちらほら見かけたのも事実。

評論だけでなく、たとえば新宿ちりがみ百貨店の同人誌『吾輩は猫であるはずだった』には、「ももクロ事変ギャラクティカル」と題する、ももいろクローバーZのメンバーらをモデルにした小説(作者は黒澤正樹さん)が掲載されていたし、あるいはこうさくらぶ×構築Lab=による『放課後のつくりかた』という冊子には、ももクロのコピーユニット、その名も「めろめろクローバー」のメンバーたちへのインタビューを収録、表紙にも彼女たちが登場しているのが目を惹いた。


そんなあまたの本のうちぼくがとくにお薦めしたいのはこれ。熱烈な指原莉乃(現HKT48)推しによる『指原莉乃2.0』だ。秋葉原のAKB48劇場での公演をすでに400回程度観覧している(!)という著者のちろうさんは、指原の地元・大分の短大で「指原莉乃論」なる講座が開かれると聞き、大分へ飛ぶ。この本では、その講座のレポートのほか、大分における指原ゆかりの地をまわる「聖地巡礼」の章も設けられている。好きなアイドルの地元を訪ねるのは、アイドルヲタならだれもが通る道だよね!(といいつつ、ぼくはまだやったことがありませんが……)と共感するとともに、まとめでは著者自身の地元(岐阜)と大分を比較したり、地方格差の問題などにも言及されていて興味深く読んだ。

アイドルと文学とどう関係があるのかといわれるかもしれない。
が、アイドルとはどれだけ素顔を売りにしようとも、本質的にはどこまでいってもフィクショナルな存在だ。そんな彼女たちについて、受け手たるファンがその背景を深く掘り下げてみたり、あれこれと妄想したりして物語を紡いでいくさまは、まさに「文学」と呼ぶにふさわしいのではないだろうか。……と、もっともらしくまとめたところで、ワタクシからの紹介を終えたい。

以上、まさに五者五様のおすすめ本を紹介した。もちろん、これ以外にも紹介しきれなかったジャンルはいくつもあるわけだけれども、さすがにこれだけ出店数が増えると、会場すべてをまわり、まんべんなく本を買ってくるのはなかなか難しい。ぼくの場合、いつも小説や文芸評論系をついあとまわしにしてしまい、毎回のように買い逃すパターンを繰り返している。今回でいえば、『成人男子のための「赤毛のアン」入門』(山川豊太郎さん著、文芸同志会)という本が気になったのだが、ぼくがブースに行ったときにはすでに売り切れで入手できなかった。次回以降はもう少しまわる時間配分みたいなものを考えたいもの。

さて次回、「第16回文学フリマ」は初の大阪開催として、来年2013年4月14日(日)に堺市産業振興センターでの開催が予定されている。さらに同4月28日(日)には「文学フリマスピンアウトイベント(仮)」が千葉の幕張メッセで開催されることが先ごろ決まったほか、来秋の開催もやはり今回と同じく11月、東京流通センターを会場に調整中だという。このうち大阪開催は、それまで文フリへなかなか参加できなかったであろう西日本の人たちには福音であるし、ほかの地方の人たちにとっては関西観光のいい機会にもなるのではないだろうか。思えば、堺をはじめ南大阪は、万葉の昔から文芸とかかわりの深い土地柄でもある。地域に密着した企画にも期待したい。(近藤正高)