「俺は72時間労働当たり前」社会人ラップ選手権を密着レポ!

テレビ番組の企画やCMなどで見かけることが多く、空前のラップブームと言われる今の日本の音楽シーン。

そんな中、「名刺交換から始まるフリースタイルバトル」というキャッチフレーズのイベント、『社会人ラップ選手権』が盛り上がっているという。


サラリーマン、農家、テレビAD、グラビアアイドル、医者……。
様々な職業を持つ150人余りが参加し予選を勝ち抜いた、社会人ラッパー16名が激突する『第三回社会人ラップ選手権2017』本戦をレポート!

「社会人ラップ」ならではの客層が集う会場


会場は古くから六本木を代表する盛り場、ロアビルの最上階に位置するクラブ『V2 TOKYO』。

ガラス張りのエレベーターを上がると、そこには煌びやかなシャンデリアやロココ調のソファが配されたなんともバブリーな空間が広がっていた。

草食系の男子や休日出勤帰りと思しきサラリーマン、お目当てのラッパーの名前入りうちわを持った女性や子連れのファミリーなどが多く、いかにもヒップホップが好きそうなBボーイ・Bガールの姿は少ないのが意外だった。

ベストを選ぶ1~2回戦の見どころをピックアップ


「俺は72時間労働当たり前」社会人ラップ選手権を密着レポ!
枕営業の暴露も!? バラエティADとグラドルが対決 徳川秀徳×MCムチムチ


1回戦、いろんな意味で最も盛り上がったのが、TVバラエティなどを手がける制作会社ADの徳川秀徳と、グラビアアイドルのMCムチムチa.k.a白川未奈の対決。いわば『エンタメ界の下積みバトル』だ。

徳川はテレ東の『おはスタ』、MCムチムチはAbemaTVの『妄想マンデー』と、それぞれが関わる番組の主題歌をバックに登場。

ステージに上がると白いシャツを脱ぎビキニ姿で挑発するMCムチムチだったが、グラドルは間近で見慣れているのか、表情一つ変えない徳川。


「ポロリ上等、そうすればみんなの気分も上昇」「枕営業あるのは事実、だけどADのお前には関係ない」と、MCムチムチが爆弾発言を交えながらラップするも、徳川は彼女が持参したDVDを指差し「俺このDVDいるのかなぁ 俺このDVDでヌクのかなぁ」と下ネタ交じりに痛烈なディスを叩きつける。

そのバストを揺らして会場を温め、土下座をするパフォーマンスまで見せたMCムチムチだったが、試合は勢いで押し切った徳川が勝利。

試合後、MCムチムチが笑顔で「このご縁を大切に、番組で使ってくださいね♡」としっかりアピールしていたのが印象的だった。

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大企業vsベンチャーの因縁の対決 OMATA LONGINUS×入ル発日ノ出


大会関係者も注目していたのが、前回の『社会人ラップ選手権』で優勝のIT会社・OMATA Longinusと、VRベンチャー・入ル発日ノ出の試合。

実は今回の予選で、OMATA Longinusは入ル発日ノ出に負けているのだという。そのこともあって、「悪いけど俺が今日はリベンジャー、今日は仮想現実に逃げんな」「仮想現実もリアルって話、人類を次のステージに押し上げるんだ」と、どちらも一歩も引かないディスり合いが続く。


「何がベンチャー 笑わせんな」と、大企業vsベンチャーという構図も垣間見えたこの熱戦は、観客からの強い要望もあり延長戦に突入。「ITへの愛が足りない」と責め込む入ル発日ノ出が優勢だったが、最後に「そのデバイスの半導体作ってんの、ウチの会社」と相手の装着するデバイスを指差し、「shaping tomorrow with you」と、自ら勤務する企業のキャッチフレーズおそらく決めゼリフにしたOMATA Longinusが僅差で勝利となった。


職業柄を感じさせる衣装やパフォーマンスも『社会人ラップ選手権』の醍醐味


出で立ちや立ち振る舞いに、その職業や人柄が現れるのも『社会人ラップ選手権』の楽しみのひとつだ。

いかにも高価なスーツ姿でグイッと相手を引き寄せる「社長式握手」で威圧感を与える、不動産会社社長のMASSA。

エッジの効いた服装に身を包み、鋭い目で相手を睨みつける赤い髪のYasco.は、男社会の中でもなめられずしたたかに生き抜く決意を感じさせる。

低姿勢と見せかけて嫌味を織り交ぜたラップが持ち味のIT会社財務のコダマルは「この後一緒に飲みましょうyeah!」と勝負をシメて、文字通りの『異業種交流』をアピール。

それぞれの生き様、バックグラウンドがあることで、ラップバトルがリアルなものとなり、一層魅力的になっていくのだろう。


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ステージ上でデザイン仕事をプレゼン タカハシ×虎之助


意外すぎるカードの組み合わせが、熱いラップバトルを生むこともある。

普段は物静かだというデザイナー・タカハシと、いかついBボーイ系ルックスの最年少ラッパー、農家・虎之助の対戦だ。

「健康診断オールCだけどデザインスキルはオールA」「スタバで火を噴くマッキントッシュ」とデザイナーならではの不満を爆発させつつ、「地下室から世界に通用する広告作ってる」「人生の勝負にアイコはない」と自らの仕事を誇るタカハシ。

それに対し、虎之助は「俺だって畑をデザインしてる」「お前は畑の肥やし」「TPP、そんなの関係ない」と軽くかわす。

仕事へのプライドがにじむベストバウトは、「スキル高いけど見積もり安い」「あんたのキュートな笑顔で『私が作りました』って全国流通」と、ステージ上で虎之助の農作物のパッケージデザインを提案したタカハシが勝利。彼がデザインした、虎之助の顔写真の載ったトマトが売り出される日も近いかもしれない。



実力者が出そろった準決勝決勝戦。果たして優勝した社会人ラッパーは


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IT企業財務×小売業がバトルの準決勝 コダマル×ユースリー


準決勝1つめは、相手の攻撃を受け流しつつ毒づくスタイルのIT企業財務・コダマルと、冷静な切り返しに定評のある小売業・ユースリー。

先攻のコダマルが、渋谷の街で通った資格学校のことをラップすると、ユースリーは「ITなのにスキルがないな」とメロウなトラックに合わせてフロウの効いた返し。そして「俺の初ステージは忘年会、スキルがなくて当然じゃい」と開き直るコダマルに対し「ドンキ前でドンギマって鈍器持って集合したやつを麻布前の警察に突き出す」と韻をたたみかけながら小売業ならではの強盗ネタで切り返し、4対でユースリーの勝利となった。

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米農家とバラエティADが激突の準決勝 シャドウ國本×徳川秀徳

もう1つの準決勝は、以前の大会から注目を集め続ける、力で押すスタイルの熱いラッパーが激突することに。


巧みに韻を織り交ぜるスタイルに定評のある米農家・シャドウ國本は「テレビは4K、農業は3K、臭い、汚い、かっこ悪い、でも今はクールでクレイジーでクレバーだ」「相手を幸せにしなきゃしようがねえ、つまりいうならWINとWIN、作り出してく韻と韻、そして沸かすお客と審査員」と見事なライムを畳み掛ける。

それに対し、徳川は「毎日泥の中かき分けて大変だよな、俺に日本の食文化は支えられないけど、その番組を作ってやるよ」と切り返し、「俺はディレクターのためだったら捕まえに行くよカメムシ! 」と自らの自虐ネタを絶叫。

延長戦までもつれ込んだ甲乙つけがたい勝負は、ADという自らの仕事をレペゼンして熱くラップし続けた徳川が勝利。だが、「胸張れ誇り高い社会人」と、この大会を代表してすべての働く人にエールを送ったシャドウ國本の姿も輝いて見えた。

「俺は72時間労働当たり前」社会人ラップ選手権を密着レポ!
決勝戦は、小売業×バラエティAD ユースリー×徳川秀徳


個性豊かなラッパーたちを制し、決勝まで上り詰めたのは、業種もラップのスタイルも対象的な2人だった。

冷静に相手のラップを聞きながら、緩急つけて言葉を繰り出していくユースリーと、クレイジーにテレビ業界のネタを畳み掛ける徳川。


「あんたの店は24時間営業だけど、俺は72時間労働当たり前」と徳川が自らのオーバーワークを誇ると、ユースリーは「仕事だったら8時間、ラップだったら8小節でま・と・め・ろ」と、仕事もラップも効率の良さが大事だ、とスマートにアピール。

延長戦にまでもつれ込んだ決勝戦を制したのは、「ポリスと法律味方につけるのがストリートの戦闘方法」と最後まで冷静に相手の話を切り返し続けたユースリーだった。

大会委員長であるDOTAMAさんは、「ユースリーさんは最初から一貫して仕事に関するボキャブラリーが多く、相手の出したワードを拾って相手を立てつつディスって、しかも『俺の方が仕事に誠意を持ってる』とアピールするという、社会人の鏡のようなスタンスでした。しかも言葉にメロディや緩急を付けて遊ぶ余裕もある。納得の優勝でした」と語り、第三回「社会人ラップ選手権」優勝者を称えた。


優勝したユースリーが語る「社会人ラップ選手権」の魅力


「俺は72時間労働当たり前」社会人ラップ選手権を密着レポ!


バトルの興奮冷めやらぬ決勝直後、優勝したユースリーに話を聞いた。

―1回戦から決勝戦まで、4戦とも名勝負でしたね。ボキャブラリーの多さに驚いたんですが、相手について下調べしたり、ネタを仕込んだりしていたんですか

「自分の担当の売り場はVR関連商品なんで、VRベンチャーのラッパー・入ル発日ノ出と戦う時にはネタがいっぱいあるな、とか、その程度は考えていました。でも、あらかじめ歌詞を書くとどうしてもネタくさくなるんで、メーカーさん相手なら仕入れの話をしようとか、その程度ですね。小売なんで、ある程度相手が売るものがあればある程度喋れるかな、と。でも、実際に戦った相手は、不動産、IT、財務、テレビADと、僕が扱っているものがほとんどなくて笑」

―決まったと思ったフレーズは

「基本的には会社を自慢したいんですよ。

自分の会社が残業しないっていうことに誇りを持ってるんで、そのネタを入れることができたのは嬉しかったですね」

―辛かった戦いは

「僕、基本的には茶化すタイプなんですけど、最初に戦ったMASSAさんは背が高いし威圧感もすごいし、ふざけたことをしたらぶっ殺されると思って。正直、お腹が痛くなってたんです笑。あんなに真面目にやったのは初めてかもしれないですね。でも、そのあとは自分の調子を出せたと思います」

―ラップ歴はどのくらいですか


「ラップはずっと聞いてましたが、自分でやるようになってから2年ぐらいですね。「社会人ラップ選手権」は、茶化しつつディスったり、時には相手のことも立てる雰囲気だからいいな、って。みんな社会人で、仕事というルーツがしっかりしてるんで、ラップの中身も面白いのが「社会人ラップ選手権」の魅力だと思います」

自らの仕事をレペゼン代表しつつお互いのバックグラウンド職業をリスペクト尊敬するからこそ生まれる、熱いラップバトル。

韻に乗せて自らの仕事の辛さを語り、時に相手のことを激しくディスりながらも、お互いの仕事について熱く語り合う。

これぞ業種も役職も超えた真の異業種交流。

ここから審査委員長を務めるDOTAMAさんのように、人気ラッパーが生まれる日も遠くない。そう思うとともに、今から第四回の大会が楽しみでもある。

そんなフリースタイルバトル人気の火付け役となった番組が、BSスカパー!のバラエティ番組『BAZOOKA!!!』で2012年から放送されている「高校生RAP選手権」だ。

この夏「第12回高校生RAP選手権 in 幕張」が開催。高校生が繰り広げる、泥臭く熱い闘いを是非この機会に!

Writer:Hiroaki Kimura
Photographer:Nobuhiro Tamakoshi

提供元:ヨムミル!ONLINE