日本でも始まったセクハラ告発 #MeToo を潰そうとする黒幕

ハリウッドのプロデューサー・ワインスタイン氏のセクハラ告発をきっかけに、SNS上でハッシュタグ「#MeToo」でセクハラを告発するムーブメントが世界中に拡散していますが、日本でも作家・ブロガーのはあちゅうさんが、電通に在籍した頃の先輩クリエイターである岸勇希氏によるセクハラ被害を告発したことで、インターネット上で大きな話題となっています。

実際に、はあちゅうさんと加害者の岸氏双方を取材した「BuzzFeed Japan」の記事を見てみると、彼女が受けた被害は本当に酷い内容です。
卑劣なセクハラ・パワハラに対して、勇気を持って証言したはあちゅうさんに、賞賛とエールと感謝を送りたいと思います。


ファーストペンギンに続く「#MeToo」の声


日本は人権意識が希薄で、社会の同調圧力も強く、セクハラ・パワハラがなかなか表沙汰にならない傾向にありますが、はあちゅうさんが口火を切ってファーストペンギンとなったことに、多くの人が勇気づけられ、続々と「#MeToo」の声がインターネット上で広がっています。

たとえば、政治アイドルで大学生の町田彩夏さんは、電通での就職活動面接の際、面接官からセクハラ被害に受けたことを公言しました。また、大学生で実業家の椎木里佳さんも、性的要求を断ったら仕事が無くなったことや、さらにはお酒にレイプドラッグを混入された可能性があると公言しました(これはセクハラよりも準強姦未遂のように思います)。さらに、演出家の市原幹也氏もセクハラをしたことを告発され、謝罪文を掲載しました。

「#MeToo」とスピークアウトするかしないかは個人の自由であり、決して告発しなければならないものではありませんが、社会全体としては今後さらに「#MeToo」の声が広がって行くと良いと思います。そのためにも、私たちは今回スピークアウトした人たちを孤立させてはいけません。
しっかりと支援して、加害者に対しては誠実な謝罪と報いを求めて行くべきでしょう。


「#MeToo」を国会で取り上げるべきだ


ただし、SNSにおけるスピークアウトが広がること自体は良いことですが、今回のはあちゅうさんのケースは、加害者も被害者も著名人だからメディアを駆使して社会的制裁を与えられたことも忘れてはなりません。

ネット時代の第一線をリードし続けて大きな発言力を有し、多大なソーシャルキャピタルを有しているはあちゅうさんですら、約8年かけてようやくセクハラと戦う決意ができたということは、それだけ被害者が声をあげることに対して社会的な抑圧がものすごく強いと言えます。

確かにBuzzFeedは素晴らしい仕事をして、岸氏に対して社会的制裁が加えられたと思いますが、本来セクハラ問題は司法がしっかりと対処するべきことです。メディアは加害者も被害者も著名人であるケースでは絶大な効力を発揮しますが、両方または片方が一般の人であるケースではその効力は落ちるため、全ての加害者を処罰するためには司法が変わらないとなりません。

2016年に「保育園落ちた死ね」ブログをきっかけにムーブメントが起こった待機児童問題のように、もっと「#MeToo」のムーブメントを盛り上げて、国会で取り上げられ、国が厳しいセクハラ対策を推進することを望みます。


早速出てくる「victim blaming (被害者叩き)」


このように、「#MeToo」は今後ますます盛り上げて行かなければならないはずなのですが、残念ながら早速この流れを潰そうとする動きが出てきてしまっています。告発した人々に対して様々な「victim blaming (被害者叩き)」を始める人たちが出てきているのです。


たとえば、告発者の粗を探して落ち度があったと責める人や、「お前が〇〇しなければ良かっただけ」と自己責任論を押し付ける人や、「売名」「金儲け」と非難する人が後を絶ちません。また、Twitterで「#MeToo」と検索すると、「嘘松(ネットスラングで「嘘であろうツイート」の意味)」とサジェストが出てくるところが、告発を嘘だと決めつけて被害者を叩こうとしている人がたくさんいることの表れだと思います。

とりわけ、はあちゅうさんが「以前童貞を嘲笑するような発言をした」と非難されているようなのですが、もし彼女の発言に問題があったと思うのなら、発言した際に指摘すれば良いわけです。あえて告発した直後のタイミングで言及する人が急増するということは、「被害者を被害者ではなくしたい」という意図があると思わざるを得ません。

これに関して私のところにも、「あいつは童貞を嘲笑しているし、セクハラ被害を受けるのも因果応報だろ」のような投稿が寄せられました。確かに、岸氏に対して彼女が嘲笑発言を繰り返していたのであれば、当然過失相殺される部分もあると思います。
ですが、もちろんそうではないわけですから、完全に別の問題として捉えるべきでしょう。

このように、せっかく「#MeToo」のムーブメントが起こったというのに、「自分たちこそ女性に馬鹿にされてきた被害者だ!」という男性の声が非常に大きくなり、あろうことかTwitter世論は童貞問題にシフトしてしまっています。非常に残念極まりないことです。


「保育園落ちた日本死ね」への批判と全く同じ


また、12月18日放送の「バラいろダンディ」(TOKYO MX)で、漫画家の倉田真由美氏は「このやり方は私は賛成しないし、パワハラやセクハラとかって第三者の目を入れるために裁判するっていう方法がこの国にはあるから、やっぱりあんまりこういうやり方を一般化してはいけないと思う」と発言したとのことです。

確かにネットでの告発は一方的で危険性がないわけではありませんが、この発言は泣き寝入りを助長するものです。というのも、告発した者に対する社会的な抑圧がなく、司法がしっかりと加害者を裁いてくれれば、わざわざSNSでの告発なんてしなくても良いわけですから。法治が機能せず、被害者に「自分にも責任がある」と思いこませ、結果的に加害者が制裁されにくい社会だからSNSでの告発が起こるわけです。


この倉田氏の発想は、「保育園落ちた日本死ね」の時に出てきた批判や妨害の声と全く同じです。「言葉遣いが悪い」「不満があるなら正々堂々と選挙で訴えるべき」と言う人がいましたが、正当に訴えても社会は長年苦しむ人々の声をひたすら無視して、矮小化し続けてきたわけです。

既存の被害者救済システムや加害者制裁システムにそのような構造的欠陥があるのに、既存のシステムを使うよう要求することは、「今まで通り苦しみ続けろ」と言っていることと何ら変わりありません。

今回のタイトルは「日本でも始まったセクハラ告発#MeTooを潰そうとする黒幕」としましたが、それは意図的に潰そうとしている業界の人たちだけではなく、このように何らかの形で「victim blaming (被害者叩き)」をする人や、悲痛の訴えを無視する全ての人たちも含むのだと思います。


男性だって「#MeToo」と声をあげて良い


これまでは女性へのセクハラを取り上げてきましたが、男性だって「#MeToo」と声をあげて良いのです。確かに女性ほど被害は甚大ではない傾向にありますが、男性だってこの男社会でセクハラ被害を多々受けているはずです。たとえば、ガキ大将的な同級生に好きな人は誰かを暴露するよう迫られたことも、男性上司や先輩から恋愛結婚SEXについて深入りされたことも全てセクハラ被害です。
己の敵を見誤ってはいけません。

というわけでこれを機に私も一つ「#MeToo」を言いたいと思います。まだ会社員時代のことですが、上司が裏で女性部下に「勝部はヤリチンだから危険だ!近寄るな!俺が守るからな!」とセクハラとストーカーをしていたことを退職後に知りました。最大の被害者はセクハラとストーカーをされた彼女ですが、権力を使って性に関するあらぬ噂を社内で流布された点で私もセクハラの被害者です。セクハラは女性の敵ではなく人類の敵なのです。

また、もう一つ「#MeToo」。
以前とあるイベントでとある女性客から大きな声でいきなり「セックスしてくださ~い!」と何度も迫られたことがありました。幸い、周りにいた人たちが注意と制止してくださって事なきを得ましたが、おそらく誰も助けてくださらなかったら恐怖を感じていたことでしょう。

セクハラを男性対女性の問題として捉えてしまう人は少なくありませんが、それは間違いです。男女二項対立から脱却して、しっかりと加害と被害の実態そのものに目を向けて欲しいと思います。


男性がやるべきこと 「#HowIWillChange」


私も昔はこの国にこんなにセクハラ・パワハラ・性暴力が蔓延しているとは知りませんでした。でも、ちょっとでも被害を耳にした時に、被害者を受け入れ、加害者に対して「許せない!」と怒りの声をあげて非難してきました。そうすると、さらに多くの人が「実は私も…」と告白してくれました。そして、この国は本当に大変な状況にあるということを知ったのです。今では昔の知らなかった自分をとても恥ずかしく愚かに思います。

だからこそ、どれだけネットで「女の味方している!」と叩かれようとも、私はひたすら「加害を許さない」と叫び続けたいのです。どれだけネットで叩かれようとも、被害者が遭ったセクハラ・パワハラ・性暴力のダメージはこんなものの比ではありません。そして、叫び続けることは、「#MeToo」の声を聞いた私の責務だと思っています。その声を無視したら、加害者と同罪ですから。

男性は「#MeToo」の声を受けてどう変われば良いか、海外ではハッシュタグ「#HowIWillChange」をつけた投稿が盛り上がっていますが、是非「セクハラ・パワハラ・性暴力は絶対許せない!」と、SNSや職場を含んだ全コミュニティで公言して欲しいと思います。被害者は本当に孤立していますし、そうさせているのは数多の男性たちが構築していた男社会です。絶対それにコミットしてはいけませんし、もしそうしていたのなら心から恥じてほしいと思います。

また、セクハラや性暴力は証拠が残りにくいからこそ、被害者から被害について相談を受けた事実も重要な証拠になります。男性も積極的にセクハラや性暴力にNOを叫び、女性が安心して相談できるような人物になってください。
(勝部元気)